第六話:感動(?)の再会。学園生活開始
あれから数年の月日が流れ、僕たちは十五歳になった。
辿り着いたのは王都の学び舎、「聖アルカディア学園」。国内や友好国の貴族子弟が集う、いわば特権階級の社交場だ。僕のような片田舎の男爵家の人間は、ここでは最下層に位置する。
領地に頼りない父さんを残してきたのは心配だったけれど、この時のために隣の商家には情と実利の両面で恩を売っておいた。
時には僕が泥臭い交渉を重ね、時には姉さんが気まぐれに現れてその美貌で相手を骨抜きにし、一瞬で契約を成立させたこともある。……まあ、肝心な時に姉さんがいなくて交渉が難航したことも一度や二度じゃないけれど。
「うふふ、いい気味ね。王都のご貴族様たちがみんな私を見てるわ。北の果ての小さな男爵家の令嬢に釘付けじゃない」
学園の並木道。隣を歩くリナ姉さんは、ますます磨きがかかった美貌で不敵に笑った。
すれ違う男子からは羨望、女子からは嫉妬の視線が突き刺さる。「北の果ての小さな男爵家の令嬢」その言葉だけ聞けば自虐のようだが、姉さんが言うと「身分や肩書きなんて、私の前では些細なゴミ屑にすぎない」という宣戦布告に聞こえるから恐ろしい。
「でもね、本当にすごいのはシオンだっていうことを、お姉ちゃんはちゃんと知っているからね」
ふと向けられた優しい言葉に、少しだけ感動して懐柔されそうになった。……けれど、向こうからやってきた騒々しい集団が、僕を一気に現実に引き戻した。
中心にいるのは、取り巻きと女生徒たちを従えたアルベルト様だ。
数年ぶりに見る彼は、見違えるほど精悍な青年になっていた。
黄金の髪は陽光を弾き、その瞳にはすでに「王者の風格」が宿っている。けれど、ふとした表情に生意気な子供の頃の面影が残っていて、僕は少しだけ懐かしさを覚えた。
「ごめん、ちょっと行ってくるね!」
次の瞬間、姉さんは言い残すなりアルベルト様めがけて駆け出していた。
「アルベルト様あぁー! お会いしたかったですー!」
大音量で叫びながら、彼に思いきり飛びつく姉さん。
その光景は、まるで使い古された安っぽい恋愛小説の「感動の再会シーン」そのものだった。
周囲の反応は様々だ。あまりの無礼さに驚愕する者、不敬だと怒る者、嫉妬に狂う者。中にはその絵になる二人に感動して涙ぐむおめでたい者までいた。
ただ一人、僕だけが冷めた目でその光景を眺めていた。
……さあ、僕の平穏な学園生活という名の幻想が、今、音を立てて崩れ去ったぞ。




