第五話:これって姉弟愛? 友情? いいえ、ただの飼い殺しです②
アルベルト様の王宮での立場が回復したらしい。
近日中に王都へ帰還することが決まったそんなある日、僕は彼に付き合わされて釣りに出かけた。
結局、収穫はゼロ。それなのに、アルベルト様は水辺の夕日に向かって胸を張り、とんでもないことを言い出したんだ。
「いいかシオン、よく聞け。俺はいつか、この国の頂点に立つ。単なる王じゃない。歴史に名を刻む史上最高の王――『至高の君主』になるんだ!」
……ああ、また始まったよ。
僕は釣れなかった餌の残りを片付けながら、事務的な生返事で応じる。
「はいはい、楽しみですね。殿下ならきっとなれますよ。……で、そんなことより、今日やらかした『商家さんの庭の壁に開けた大穴』をどうするか、至高の解決計画を立てていただけますか? 帰還の直前まで何をしてくれてるんですか、全く」
「細かいことを気にするな! お前は器が小さいぞ。いざとなったら俺の個人資産で解決してやる」
「お言葉ですが殿下。すぐにご実家の財力に頼るのは、未来の君主としていかがなものかと。少しはご自分の力で修繕するとか、代わりの奉仕活動をするとか考えてみてください」
実際、彼が何もしないなら、僕が代理で泥にまみれて働く羽目になるんだ。
すると、彼は急に真面目な顔を作り、僕の目をじっと覗き込んできた。
「……この俺に意見するとは、いい度胸だな。いいだろう。俺が王になった暁には、お前を一番の側近にしてやる。俺の右腕だ。光栄に思え」
それは彼なりの、最大級の親愛の情だったのだろう。
僕の実務能力を認め、自分の描く輝かしい未来に、僕の居場所を確保してくれている。……普通なら、感激して涙を流すシーンかもしれない。
だが、当時の僕は、ただただ引き気味だった。
「……丁重にお断りします。僕の夢は、静かな田舎で誰にも邪魔されずに読書をして過ごすことなんです。王宮のドロドロした権力争いなんて、御免被りますよ」
「ははっ、お前ならそう言うと思った! だが残念だったな。もう俺が決めたんだ。お前の有能さと使い勝手の良さは、俺が一番よく知っているからな」
アルベルト様の瞳は、これっぽっちも冗談を言っているようには見えなかった。
この人は、僕がどれだけ「嫌だ」と言っても、最後には強引に首を縦に振らせる力を持っている。それを本能で理解してしまった僕は、背筋に薄ら寒いものを感じた。
その横で、リナ姉さんが「素敵だわアルベルト様! 私はその隣で、世界一美しい王妃として微笑んであげるわね!」と、さらなる燃料を投下している。
(……ああ、だめだ。この二人には、一生勝てない)
僕の未来という名の真っ白な地図は、この二人によって、勝手に真っ黒な予定で埋め立てられていく。
夕日に照らされた二人の笑顔が、僕には逃げ場のない「黄金の檻」の格子のように見えたんだ。




