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第二十三話:新領主

 エリスはしばらくの間、僕の胸の中で泣き続けた。やがて、少しずつ呼吸を整えると、赤くなった目元を拭いながら「取り乱してしまい、申し訳ありませんでした……」と、周囲の人々に深く頭を下げた。

 その場に彼女を責める者は誰もいなかった。むしろ、その高潔な悲しみに貰い泣きする者が続出した。あの奔放なリナ王妃ですら、目元をハンカチでそっと押さえている。……そういう僕も、疲れ目で書類を見る時とは違う意味で、視界が酷くぼやけていた。

 静寂の中、アルベルト国王がゆっくりと立ち上がり、重厚な声で告げた。

「此度の件、エリスの知略のおかげで、誰一人として血を流さずに公爵の陰謀を阻止することができた。一国の王として、深く感謝する」

 王が頭を下げるという異例の光景に、法廷内がざわめく。だが、王の言葉は止まらない。

「だが、公爵の長年の失政により疲弊した領地を早急に立て直さねばならぬ。……そこで、その重責をシオン・ノーザンに命ずる。併せて、伯爵の爵位を授けるものとする」

 それは、実務屋としての僕に対する、最大級の評価だった。

「そして――これは王命ではなく、一人の友人としての提案なんだが…エリスよ、これからはヴァレンシュタインではなく、ノーザン家の者として、シオンと共に領地の復興に携わってはくれぬか?」

「はい……! 謹んで、お受けいたします!」

 エリスの力強い返答に、アルベルト様は満足げに頷き、僕の方へ視線を向けた。

「だそうだ、シオン。お主はどうするかね?」

「謹んでお受けいたします。……エリスさんを妻とし、生涯守り抜くことを、ここに誓います!」

 僕が言い切ると同時に、会場から割れんばかりの拍手が巻き起こった。その中心で、リナ姉さんが誰よりも誇らしげに、満面の笑みで拍手を送ってくれていた。

 数週間後。

 僕はエリスと共に、旧公爵領――現在の新ノーザン伯爵領へと足を踏み入れた。

 待ち構えていたのは、かつてエリスが命懸けで守り抜いた領民たちと、彼女を陰ながら支え続けた家の者たちの、温かな歓迎だった。

「お帰りなさいませ、お嬢様!いえ…若奥様!」

「みんなー!ただいまー!」

 隣に立つエリスの顔には、もうあの鉄のような悲壮な覚悟はなかった。

 かつて生徒会室の奥で見せてくれたような、穏やかで、春の光のように優しい本来の笑顔。

 領地経営という、これまで以上に過酷でやり甲斐のある「実務」がこれから始まるだろう。

 けれど、僕の隣にはもう、最高で最強のパートナーがいる。

 僕は彼女の手を強く握り締め、新しい自分たちの家へと歩き出した。


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