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第二十二話:公爵の末路

 ヴァレンシュタイン公爵家の屋敷は、突如として底知れぬ闇に包まれた。

 電気、水道が止まり、届くはずの物資も途絶えた。王都へ攻め込もうと息を巻いていた公爵にとって、それは冷や水を浴びせられたどころではない、生存基盤そのものの喪失だった。

 翌日になってもインフラは復旧しない。公爵は家来たちに「どうなっているんだ!」と怒鳴り散らしたが、誰も原因を突き止めることはできなかった。傲慢な怒りは、時間と共にじわじわと実体のない恐怖へと変わっていく。

 最後の頼みの綱は隣国の援軍だった。公爵はひたすら窓の外を凝視し、かつての伝説のような快進撃の再来を待ち続けていた。しかし、届けられたのは非情な最後通牒――「協力拒否」。その一報に、公爵は糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちた。

 その時、屋敷の重厚な扉が乱暴に開け放たれた。

 光を背負って現れたのは隣国の援軍ではなく、王国の憲兵隊(警察)だった。彼らは抵抗する間もなく公爵を組み伏せる。周囲の家来たちは、誰一人として公爵を庇おうとはしなかった。彼らもまた、この数日の「沈黙の封鎖」で、すでに公爵の時代が終わったことを悟っていたのだ。

 突如、館に電気が復旧し、眩い光の中に一人の女性が姿を現した。それはエリスだった。

「……エリス! なんだその無様な髪と服装は! 恥知らずめ、早く私を助けろ!」

 公爵はあまりに娘に関心がなかったため、この瞬間まで彼女が屋敷を飛び出していたことにすら気づいていなかった。その身勝手な罵倒を、エリスは氷のような瞳で見下ろした。

「もうおしまいです、お父様…いえ、ヴァレンシュタイン公爵。恥知らずは貴方の方ですわ。身勝手な自尊心のために国家を、そして領民を売ろうとするなんて」

「黙れ! 誇り高き我が家があんな若造の国王に侮辱されるのを、黙って見ていろというのか!」

「……ご先祖様の誇りを汚したのは貴方です。貴方は武人でも何でもない。ただの愚かな犯罪者ですわ」

 冷たく突き放された公爵は、狂ったように喚き散らしながら憲兵隊に引きずられていった。

 数日後、王都の最高裁判所。近代的な法廷に、冷徹な判決が響き渡った。

「被告人、ヴァレンシュタイン公爵。国家反逆罪および余罪につき、死刑に処す。また、エリス・ヴァレンシュタインおよび家中の者については、無罪とする」

 公爵は最後まで見苦しく足掻き、法廷を去る間際、娘に向かって「この親不孝者め!」と呪いの言葉を投げつけた。

 

 その背中が消え、バタンと扉が閉じ、法廷に静寂が訪れた瞬間。

 これまで容赦無い作戦の考案者として感情を押し殺し、鉄の覚悟を演じ続けてきたエリスの肩が、激しく震え始めた。

「――う、わあああああん!」

 それは、父を殺し、家を滅ぼした者としての罪悪感か。あるいは、ようやく呪縛から解き放たれた安堵か。

 人目を憚らず、子供のように大声で泣きじゃくるエリスを、シオンは何も言わずにただ強く抱きしめた。不器用な実務屋の手は、彼女の悲しみを消すことはできない。けれど、これからの彼女を支え続けることだけはできると、その温もりが伝えていた。


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