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第二十一話:作戦開始

 アルベルト国王の承認が下り、ついに作戦の火蓋が切られた。

 準備に三日、実行に二日。数百年続いた名門公爵家が、わずか五日後にはこの世から消え去る。その事実を知る者は、ごく僅かしかいなかった。

 国内の足並みを揃えるのは、アルベルト様の絶対的な王権と、リナ姉さんの恐るべき力(交渉相手を魅了)の領分だ。一方で、公爵領のインフラ遮断や教会への物資手配といった実務には動ける人材が必要となる。僕は自分の職場である国家プロジェクトチームのメンバーに協力を仰いだ。彼らは出自に関わらず実力で選ばれた精鋭であり、公爵家とのしがらみもない。王からのトップダウン命令という形をとることで、彼らは「国家の清掃」を完璧に遂行し始めた。

 さらに心強かったのは、アルベルト様がエリスさんの見積もりを大幅に上回る予算を即決したことだ。

「国の膿を出すための経費だ、ケチるな」

 王の太っ腹なおかげで、作戦の精度はさらに跳ね上がった。

 そして、作戦の鍵を握る隣国との裏交渉には、僕とエリスさんが直接向かうことになった。エリスさんが主導しつつ、僕はサポート役とボディーガードを担う。

 手元には、アルベルト様のサインが入った多額の小切手。そして、僕たちの格好は緊迫時としてはあまりに滑稽で、かつ効果的なものだった。

 エリスさんは公爵の娘という立場を逆手に取り、公爵の代理人を装う。そして僕は、その傍らに控える地味な従者のふりだ。

「皮肉なものですね。ドレスを捨てる覚悟を決めたばかりなのに、舌の根も乾かないうちに、またこれに身を包むことになるなんて」

 リナ王妃から借りた、最高級の華やかなドレス。よく似合っている。自虐的に笑うエリスさんに、僕は少しだけ冗談を返した。

「使える物は何でも使う柔軟性も、実務には必要ですよ。僕なんて、生まれて初めてこの地味な顔が役に立って、誇らしい気分ですから」

 交渉の場。隣国の重鎮たちは、エリスさんが差し出した公爵家の真の財政状況――その火の車ぶりを目にし、呆れ返った。

 もともと彼らも公爵の計画を眉唾ものだと疑い、いかにして法外な報酬をふっかけるか算段していたところだったのだ。

「……後払いの紙屑より、王印の入った即金の小切手、ですか。合理的ですな」

 交渉はあっけなく、そして完璧に成立した。

 公爵が唯一の頼みの綱としていた「隣国の武力」は、僕たちが手土産にした数字と金によって、音もなく切り離された。

 もはや公爵領は、外部から完全に切り離された「密室」と化したのだ。


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