第二十話:王宮での勢揃い
翌朝、僕とエリスさんは王宮の謁見の間にいた。
高い天井に響く足音。玉座に鎮座するのは、アルベルト国王とリナ王妃だ。
アルベルト様は、かつてノーザン男爵領の野山を駆け巡り、近隣の家に悪戯をしては僕を謝罪に行かせたあの悪ガキとは、もはや別人のような王の風格を纏っていた。
そしてリナ姉さん……いや、リナ王妃。彼女もまた、男爵令嬢という肩書きよりも「王妃」という座がずっと似合う、優雅で底知れない雰囲気を湛えている。
二人は今や、新時代の象徴として若手貴族や庶民から絶大な支持を受けるカリスマだ。同時に、古い秩序を重んじる貴族たちにとっては、目の上のたんこぶのような存在でもあった。
「シオン、久しぶりだな。お前の方から謁見を求めるとは珍しい。俺とお前の仲だ、もっと気軽に訪ねてきても良いのだぞ」
「ご厚意だけ受け取っておきます、陛下。……公式な場ですので」
「ふふ、シオン。会いに来てくれて、お姉ちゃん……いえ、王妃様はとっても嬉しいわよ」
茶目っ気たっぷりに微笑む姉さんの視線が、僕の斜め後ろで控えていた人物に注がれた。
僕は一歩下がり、エリスさんを前に呼ぶ。
その姿を見た瞬間、アルベルト様は目を見開いて驚き、リナ姉さんは一瞬だけ目を見張った後、すぐに「獲物を見つけた」ような楽しげな笑顔になった。
「なるほど。エリスを見ただけで、大体の察しはつく。公爵家がいよいよ、身の程知らずな動きを見せ始めたのだな? ……それにしてもエリス、随分と変わったな。これもシオンの影響か?」
「うふふ。エリスさん、そのお洋服、とってもよくお似合いですわ。……なんだか懐かしい気持ちになりましたわね」
リナ姉さんの言葉に、エリスさんは凛とした態度で深く頭を下げた。
「恐悦至極に存じます、王妃様。それから……これまでお茶会のご招待をいただきながら、一度も参上できなかったご無礼をお許しくださいませ」
「いいのよ、その件は。……もうすぐ、本当の意味でのお茶会ができるようになりますわ。ねえ、シオン?」
姉さんの含みのある笑みに背筋を震わせながら、僕は公爵の陰謀と、エリスさんが練り上げた計画を詳細に説明した。
二人は、エリスさんの口から語られる「インフラ封鎖」と「社会的抹殺」のロジックに、驚きつつも深く感心した様子で聞き入っていた。
「……面白い。公爵家など普通に捻り潰しても良かったのだがな。いいだろう、エリスの顔を立てて、その計画通りに『掃除』してやろうじゃないか」
アルベルト様は、部屋の埃でも払うかのような気軽さで断言した。
僕たちを戦慄させた公爵家の反乱すら、今の彼にとっては「戦」ですらなく、単なる「清掃作業」に過ぎないというのか。
僕とエリスさんは、深々と頭を下げた。
実務屋の知略と、王家の絶対的な武力。新時代の怪物たちが手を取り合った瞬間、古き時代の呪いであるヴァレンシュタイン公爵家の運命は、完全に「詰み」を迎えたのだ。




