第十八話:エリスの計画
机に広げられたのは、エリス様が独力で、そして執念で書き上げた「公爵家解体図」だった。
僕はその概要を目にし、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「……徹底していますね。武人としての誇りすら、踏み躙るような内容だ」
エリス様の計画は、父である公爵を「戦の敗者」にすらさせないものだった。
罪状は、虚偽会計、脱税、未承認の武器購入、そしてリナ王妃への重なる不敬。これだけでも十分だが、彼女はそこに「隣国による襲撃示唆の証言」をダメ押しとして加えるつもりだ。
さらに恐ろしいのは、公爵領の脆弱性を突き、徹底的に干上がらせる「インフラ封鎖」の戦略だった。
公爵領は、水、電気、主食穀物の大半を外部からの流入に頼っている。主要な三つの街道を封鎖するだけで、領内の機能は数日で麻痺する。
「金融、交通、物流、そしてライフラインのすべてを凍結し、領地を完全に孤立させます。戦いようのない状況で二日間放置し、絶望が極まったところで、隣国から『協力拒否』を通達させる。……その瞬間、父をただの凶悪犯罪者として憲兵に突き出すのです」
武人として華々しく戦って死ぬことも、伝説に殉じることも許さない。一介の犯罪者として、法廷で惨めに裁く。それが、時代の変化を無視した父への、彼女なりの断罪だった。
領民への被害を最小限に抑えるための策も、すでに練られていた。インフラ停止の直前、教会などの避難所に匿名で水や食料、医薬品を寄付しておく。その費用は、エリス様自身の装飾品や公爵家の蔵書など、金目になるものすべてを売り払って充てるという。
「隣国への交渉も、私が動きます。父はあちらへの報酬を『成功後の後払い』にするという致命的なミスを犯しています。私は『不確かな約束』よりも『確かな即金と有利な通商条件』を突きつけ、彼らを王国側に寝返らせますわ」
かつて僕が教えた「実務」という刃。
彼女はそれを、自分の家を解体し、大切な領民を救い、そして何より「誇り」という名の呪いに囚われた父を終わらせるために、この三年間、研ぎ澄ませ続けていたのだ。
「……見事です。エリス様、これなら誰の血も流さずに決着がつく」
僕はペンを執り、彼女の計画に実務官としての詳細な修正を加えるべく、机に身を乗り出した。




