第十二話:天使か?悪女か?リナの内面
私、リナ・ノーザンをどう評するかは、見る人の「立ち位置」で決まる。
アルベルト様に縋り付く私は、恋に盲目な「天真爛漫な天使」に見えるでしょうし、エリス様を隅へ追いやる私は、平然と人の婚約者を奪う「悪女」に見えるはずだ。
――ふふ、どちらも正解。私は、私をどう見せれば周囲がどう動くかを、呼吸をするように理解している。
これは生まれつきの性質だ。
視線の動き、指先の震え、声の僅かな高低。それだけで、その人間が何を欲し、何を恐れているかが手に取るようにわかってしまう。それは「愛の対象」であるアルベルト様も、そして愛すべき弟、シオンも例外じゃない。
「……シオン、あんた本当に分かりやすいんだから」
鏡の前で、パーティー用のドレスを合わせながら私は独りごちる。
私はあの子に山のような無茶振りを押し付けて、日々こき使っているように見えるでしょうね。でも、それはあの子が「実務屋」として学園内のあらゆる情報を掌握し、誰にも文句を言わせない確固たる地位を築くための最短ルート。あの子は自分を過小評価し過ぎてる。自分で思っている限界のさらに三歩先まで本当は行けるのだ。
でも、最近のシオンは、少し様子が違う。
あの堅物で、女っ気なんて欠片もなかった事務屋の弟が、あろうことかエリス様に対して「好意」を抱き始めている。
本人は無自覚なつもりでしょうけれど、エリス様の話をする時の瞳の温度、彼女を守ろうとする時の指先の強さ。隠せていると思っているのは、本人だけ。
「よりによって公爵令嬢なんてね。高嶺の花じゃない。……でも、いいわよ」
エリス・ヴァレンシュタイン。彼女もまた、私の「目」にはよく映っている。
清廉で、脆くて、けれど芯に熱いものを秘めた少女。今のままなら彼女は父親の野心に潰されるか、アルベルト様に飽きられて捨てられるだけ。
けれど、もし彼女がシオンの手を取るなら、話は変わってくる。
(あの子たちがくっつくなら、邪魔な公爵家は私が片付けてあげなきゃ)
私が「悪女」としてアルベルト様の隣を独占すればするほど、エリス様は自由になれる。シオンが彼女を救うための「隙」が生まれる。
私は口紅を引き、鏡の中の自分に不敵に微笑みかけた。
愛する弟が、欲しかった「たった一つの宝物」に手を伸ばしたのだ。
最強の姉として、それを掴ませてあげるのが私の役目。そのためなら、私は喜んで世界中を敵に回す悪女にだってなってあげるわ。
「お姉ちゃんに任せなさい。その高嶺の花、あなたの側に植え替えてみせるわ」




