表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/25

第十三話:リナとエリスの接触

 放課後の静まり返った回廊。エリス様が生徒会室へ向かおうとしたその時、踊り場の影から、一筋の金髪が揺らめいた。

「ごきげんよう、エリス様。……シオンのところへ?」

 鈴を転がすような、けれど背筋に冷たい刃を当てられたような声。

 姉のリナが、壁に背を預けて立っていた。

 エリス様は一瞬、息を呑んだ。自分から婚約者を奪い去ろうとしている「男爵家の魔女」。けれど彼女はすぐに公爵令嬢としての矜持を呼び戻し、顎を引いてリナを正面から見据えた。

「……ええ。シオン様には、生徒会の予算案について、いくつか確認したいことがありましたので。……ノーザン令嬢、何か御用かしら?」

 凛とした、隙のない振る舞い。

 リナはそれを見て、ふっと不敵な笑みを浮かべた。その瞳は、エリス様の心の奥底にある「秘密の安らぎ」を、とっくに暴き出しているようだった。

「いいのよ、そんなお芝居。……あなたが生徒会室で、私の可愛い弟と秘密のお勉強会をしていることくらい、お姉ちゃんの目にはお見通しなんだから」

「っ……!」

 エリス様の顔から、さっと血の気が引いた。不貞、あるいは密会。もし広まれば、公爵家の名誉は失墜し、シオンの立場も危うくなる。最悪の事態が頭をよぎり、彼女の指先が微かに震えた。

 ――けれど、次の瞬間。

「……しっかりしてくださいませ」

 リナの低く、重みのある声が響いた。

 不敵な笑みは消え、そこにはシオンですら見たことのないような、真剣な、そして何処か切実な表情があった。リナは一歩踏み出し、動けないエリス様の肩を、両手で強く掴んだ。

「エリス様。……あの子には、あなたが必要なのよ」

「……え?」

「シオンはね、生まれついての苦労人なの。私の我儘と、殿下の野心。その二つの巨大な嵐に挟まれて、あの子は自分の心を殺して、ただの『便利な道具』として生きることに慣れすぎてしまった。……そんなあの子が、あなたといる時だけは、ようやく一人の『人間』に戻れているの」

 リナの瞳に、弟への歪で深い愛情が宿る。

「私には、あの子を甘やかすことはできない。あの子を王の右腕に、この国を支える柱に育て上げなきゃいけないから。……だから、エリス様。あの子の心を繋ぎ止めるのは、あなたの役目なのよ」

「でも……私は、殿下の婚約者ですわ。それに、私の家とシオン様の家では、身分も……」

 エリス様が震えながら反論しようとすると、リナは再び、深く、暗い悦びに満ちた不敵な笑みを浮かべた。

「身分? 婚約? ……そんなもの、ただの紙切れじゃない」

 リナはエリス様の耳元に顔を寄せ、悪魔のように囁いた。

「いざとなったら、私が世界ごとひっくり返してあげるわ。……あの子が望むなら、私は王妃にだって、悪女にだってなってやるわ。だからあなたは、あの子のそばにいてあげて。……いいわね?」

 有無を言わせぬ圧迫感。

 リナはそのまま、何事もなかったかのように軽やかな足取りで去っていった。

 一人残されたエリス様は、自分の肩に残る熱量に、ただ茫然と立ち尽くしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ