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だらしのない復讐者と共犯者になった男 〜INDE ”VENGEANCE“ DAY〜   作者: 岩波備前
『烈火』

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33/51

32話

ホテルに戻ってきた眞と詩音は、梶原から受け取った音声データの中身を確認するため、準備を進めていた。


(詩音さんがシャワーから出てきたら)


ホテルに戻ってきた後、詩音は頭を冷やすと言い、外に出てしまった。

待っている時間がもったないと考えた眞は先にシャワーを浴び、梶原から受け取った機械を確認することにしていた。

その中で、手元の機械は電池さえ交換したら動くことが分かった。近くのコンビニエンスストアで電池の購入を考えていた所、そこで、詩音が戻ってきた。


その事を伝えると、詩音もシャワーを浴びてから音声データを確認すると話していた。

眞は了承し、間の時間を使って電池を購入するため、外出していた。


その後、眞が戻って来てからも、詩音はシャワー室から出ていない。

詩音が出てくるまで待っていたのだが‥‥‥


「遅いな‥‥‥」


‥‥‥遅い。


詩音は、あまり自分の身体に頓着はしないことは分かっていた。それもあってか、事務所でもシャワーの時間は比較的短い。


そのために、外出時間を見誤った眞が半裸の詩音に遭遇してしまう事態も何度かあった。


(‥‥‥変だ‥‥‥)


嫌な予感がする。

心配した眞は、詩音に失礼かもしれないがシャワールームの前で声を掛けることにした。


「詩音さん‥‥‥すみません‥‥‥大丈夫ですか?」


眞は詩音が何らかの返事をするものと思っていた。


だが、予想に反して返事は無い。 


「詩音さん‥‥‥?」


シャワーの音はするが、動く気配がない。


「詩音さん?」


ノックをした上で、脱衣場を見る。

いない。


‥‥‥つまり、浴室にいる。

視線を下げる。


••••••すりガラスごしに、何かがうずくまっているのが見えた。


「‥‥詩音さんっ?!」


嫌な汗が一気に吹き出る。

詩音が心配のあまり、そのまま浴室の扉を開ける。


「詩音さんっ!!」


「はぁ‥‥‥はぁ‥‥••はぁっ••••••」


詩音が浴室の床に倒れていた。

胸を押さえて苦しそうにしている。


「詩音さん‥‥‥っ?!」


自然と詩音の身体に目が行く。


水に濡れた肢体に、顔や首に張り付く髪の毛。

荒い息で揺れる豊かなもの••••••締め付けが無い分、普段よりも大きく見える。

滑らかな肌に、柔らかそうな臀部。視線を手前に動かすと、微かに下腹部が見えて••••••


(‥‥‥見惚れている場合じゃない!)


顔が熱くなる感覚を覚えるが、そんな事は気にしてられない。


脱衣場のタオルで詩音を包み、そのまま抱えてベッドまで運ぶ。


「詩音さんっ、大丈夫ですか?!今、ホテルの人を呼びます!」


「‥‥‥待て‥‥‥それは、いい」


「気が付いて‥‥‥?!」


ベッドに寝かせた後、慌ててフロントへ連絡をしようとする眞を止める。


「‥‥‥いい、おかげで落ち着いてきた‥‥‥悪いが、着替えを持ってきてくれないか?」


身体に掛けられていたタオルで頼りなく前を隠しながら、眞へ衣服の出前を依頼する。


「あっ‥‥‥す、すみません?!今直ぐ‥‥‥」


「別に急がなくてもいい‥‥‥」


脱衣場にとんぼ返りし、すっかり見慣れてしまった下着と服を持って詩音に手渡す。


「‥‥‥済まなかったな」


髪と身体の水気を取り、下着とシャツ姿になった詩音に向き直る。

いつもの表情だが、先程のような切迫感はない。

詩音の言葉通り、体調は元に戻ったのであろう。‥‥‥眞はひとまず安心する。


「いえ、俺の方こそ‥‥‥その、すみません」


「‥‥‥別に構わん。前から言っているだろう。‥‥‥それよりも『俺』とはな‥‥‥」


「あっ‥‥‥すみません、つい」


「いや、気にするな‥‥‥よほど動揺することがあったんだろうな」


詩音が冗談っぽく小さく笑う。


「‥‥‥‥‥‥ええ、まあ」


「‥‥‥私としては助かったんだ‥‥‥礼代わりだ‥‥‥どうだ、揉むか?」


詩音がわざとらしく腕で胸を押し上げる。

上がる動きとともに、シャツの隙間から下着と谷間が大きく露出する。


「‥‥‥‥‥‥遠慮して‥‥‥おきます」


「少し悩んだな?」


「‥‥‥」


閉口してしまう眞。

浴室で見た詩音の裸体と抱き上げた時の感触が、目と手に残っている。


(‥‥‥‥‥‥冗談と分かっていても‥‥‥洒落にならん)


「‥‥‥冗談だ‥‥‥悪かったな。私も少し動揺していたようだ」


「‥‥‥動揺、ですか?」


「ああ、あれほど情けない姿を‥‥‥男に、晒した事は無かったからな」


「‥‥‥」


‥‥‥目を逸らす他ない。


冷静になろうとするが、体温と血流が言うことを聞かない。


「‥‥‥女相手なら、いくらでも見ているし、見せてもいるがな」


「‥‥‥」


‥‥‥反応に困る。


とりあえず詩音がいつもの調子を取り戻していることに気が付いたため、最初の目的である機械の再生に取り組む事にした。







「ところで、さっきの症状は大丈夫なんですか?凄く苦しそうでしたけど‥‥‥」


機械をいじりながら、気になっていた事を尋ねる。


少し気まずいが、倒れていた詩音の症状を思い出していた。

尋常ではない様子だったからだ。


「ああ、大丈夫だ。‥‥‥たまにあることだからな」


「たまに、って‥‥‥何処か病気なんですか?」


「いや、違うな。かかりつけの医者にもお墨付きは貰っている‥‥‥」


「かかりつけの‥‥‥医者ですか?」


詩音の口から一般的な言葉が出たので思わず聞き返す。


「闇医者だがな‥‥‥」


「あー‥‥‥」


なるほど、と納得する。

そこで気が付く。何故闇医者の世話になっているんだ?と。


「仕事柄、普通の病院に行く事が出来ないことを考えての対策だ‥‥‥もし銃で撃たれました、なんて事になって‥‥‥普通の病院に行けるか?」


「確かに‥‥‥」


詩音のように裏の仕事をしているとそういったリスクもあるのだろう。

よく考えられていると眞は思った。


「世話にはなりたくは無いがな。今度紹介してやる‥‥‥金は掛かるが、あの女、腕は確かだ」


「詩音さんの知り合いって事は‥‥‥まさか」


眞の脳裏に朱鷺が思い浮かぶ。ああいった関係の女性が他にも‥‥‥?


「何を考えている、あれは婆だぞ?‥‥‥私も人は選ぶ」


「‥‥‥安心しました」


自分でも分からないが、とりあえず安心した。


「‥‥‥っと、詩音さん。準備、出来ました」


ホテルのフロントから借りたドライバーを片付けながら詩音に声を掛ける。

電池の交換が終わった。機械のスイッチを動かすと、ランプが光る。‥‥‥どうやら再生ボタンの様だ。


「古い機械なので、少し心配でしたが。インターネットに説明書が載っていて良かったです」


有名メーカーの市販品であったため、型番をインターネットで調べて見た所、何処かの好事家が説明書を丸々載せていたおかげで助かった。

••••••まかり間違っても、記録された内容は消したくはない。


「後は、当時の記録が残っているか‥‥‥」


眞はスマートフォンの録音アプリを起動する。

念の為、再生した音を記録するためだ。


「早速起動してくれ」


詩音が眞の隣に座る。

僅かに肩が触れ合うとともに、石鹸の良い匂いが鼻孔をくすぐる。


「‥‥‥はい」


詩音は気にしてないが、眞は気になる。


(普通なら、こんなのに反応はしないんだが‥‥‥)


女性経験が無いわけではない。

付き合った人数も一般的な筈。


‥‥‥だが、詩音が相手だと何故か調子が狂う。


(何か違うんだよなぁ‥‥‥)


「どうした?‥‥‥早く再生しろ」


「あっ。すみません」


詩音に急かされてしまった。

待たせてしまった自分が悪いか、と思い、再生ボタンを押した。







『ブッ‥‥‥ザザッ‥‥‥‥待って‥‥よ‥‥‥だった‥‥‥か』


度々衣擦れの音が入り、音も全体的にこもっている。

梶原の話を思い出す。この機械は服のポケットに入っていたはず。

そのため、余計なノイズが入っていたり、所々不明瞭な部分があるのだろうと思った。


『黒羽‥‥君‥‥‥ザッ‥‥‥ザザッ‥‥‥からだ‥‥‥』


黒羽幹久とは違う声が入る。

年は同じくらいと思われる、男の声だ。


「天城、悠生‥‥‥?」


詩音が声の主にあたりを付ける。


直接的な関係があるかどうかは分からないが、詩音の思っている通り、天城悠生の可能性も考えられる。


「••••••だとしたら、大きな武器になりますね」


「ああ‥‥‥」


『まさか‥‥‥仕業か‥‥‥ザッ‥‥‥新薬‥‥‥』


『ああ‥‥‥も‥‥ザッ、ザザッ‥‥‥‥返ったよ』


『まさか‥‥‥西くんが‥‥‥ザザ‥‥‥』


『後は‥‥ザッ‥‥‥ザザッ‥‥‥を‥‥‥始末‥‥‥』


こつこつ、と足音の様な音が入る。

徐々に大きくなっているようだが、ある地点で音が止まる。


『‥‥‥ザザッ‥‥‥そうすると‥‥‥られないぞ?‥‥‥』


『構わ‥‥‥ザザッ‥‥ザッ‥‥‥ここまで‥‥来たのだから‥‥‥』


『そうか‥‥‥といいさ‥‥‥‥暴かれる時が‥‥‥覚悟‥‥‥天城悠生‥‥‥』


『‥‥‥ないさ‥‥‥では‥‥‥‥ザザッ』


『‥‥音、‥‥詩音‥‥‥‥男で‥済まない』


大きな銃声。


その直後、重いものが硬いものにぶつかる音がした。


その音がした後、足音が遠くなり。そのまま何も聞こえなくなっていた。







再生を終える。

ノイズが多く、聞こえない部分もあったが、幹久は確かな証拠を残してくれた。


『天城悠生』と。


「‥‥‥証拠が、手に入りましたね」


「ああ、これで2つ目だ‥‥‥天城悠生を‥‥‥地獄に叩き落とす」


幹久と梶原。


2人の関係性があったからこそ、詩音の復讐が始まってしまった。


‥‥‥だがそのおかげで、詩音の敵である『天城悠生』を追い詰めることが出来る。




最初から関わりがなければ、詩音達は幸せな一生を送ることが出来たかもしれない。


しかし、それはもはや『もしも』も話なのだ。


‥‥‥過去は、変えようがない。


なら、残された意思と武器で、困難に立ち向かうしかない。


詩音の本当の復讐は、ここから始まる‥‥‥




••••••筈であった。







時間は少し進む。




眞と詩音が島を後にした数日後。

夜の海に1人の男性が打ち上がった。


‥‥‥外傷はなく、抵抗した様子もない。


事故死。として処理された。


地元の新聞には、こう書かれていた。


[‥‥‥近くに住む。『梶原聡』さん(55歳)が昨夜未明。遺体となって発見されました‥‥‥]


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