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だらしのない復讐者と共犯者になった男 〜INDE ”VENGEANCE“ DAY〜   作者: 岩波備前
『烈火』

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28話

狭いリングの中心。

眞と決勝相手はお互いに向かい合っていた。

長期戦にもつれ込んでおり、どちらも滝のような汗をかいている。息も絶え絶えになっていた。


眞は思う。


(どうして、こうなった?)


‥‥‥‥‥‥

‥‥‥

‥‥


「赤城さん、貴方、このままで良いわ」


「へ?」


とある廃墟ビルの一室。

眞は四条から護身術の心得を教わっていた。

だが、四条は眞の身体を見て、触って‥‥‥見て‥‥‥このままでいい。と結論づけた。


「あの、どういうことでしょうか?」


「そのままの意味だけれど‥‥‥鍛える必要はないわ」


「えぇ‥‥‥」


「元々鍛える時間も無いし、付け焼き刃だからねぇ‥‥‥ま、その技術だけでも、って思ったけど。必要なさそうだもの。赤城さん、貴方‥‥‥頑丈すぎるわ」


「えぇ‥‥‥?」


「だから、攻める技術よりも守る技術‥‥‥長期戦にもつれこませる方がいいわ」


「‥‥‥守る技術‥‥‥ですか?」


「といっても、教えられることは限られているけど。平手打ちの試合なんでしょう?鼓膜を破られないことと、脳を揺らされないこと、衝撃を受け流すこと。この3つを意識していればいいわ」


「‥‥‥できるんでしょうか?」


「ええ、だって何もしなくてもいいもの。ただ相手を見る、それだけでいいから」


「そんな簡単に?」


「それだけねぇ」


「とりあえず、とっさのことが起きても目を閉じない訓練だけしましょうか。終わったらついでに護身術も教えてあげるからねー」


そう言いながら柔らかい棒状のものを準備する。どうやらそれで頬を叩くらしい。


(‥‥‥それだけで、いいのか?)


一抹の不安は残るがここは四条を信じるしかない。


(まあ、四条さんが言うくらいだからなあ)


そこまで信じることのできる理由は、先程見せて貰ったデモンストレーションとやらが原因だ。


(明らかに護身術じゃあないよな‥‥‥?)


よくは分からないが、全身を脱力した状態で眞の攻撃?を受け流したり、条件反射とやらを利用して怪我や痛みを生じさせずに眞を制圧したり。

‥‥‥何をされたのかわからないまま、デモンストレーションが終わっていた。


『何処かの特殊部隊の人だったんですか?』


『いやあねぇ、ただのバーテンダーよぉ』


思わずそんな事を尋ねてしまったが、軽く流されてしまった。


‥‥‥只者では無いことは確かだ。


(怒らせないようにしよう‥‥‥)


眞は密かに四条への認識を改めていた。







「四条さんって何者なんですか?」


「‥‥‥‥‥‥ただのバーテンダーだ」


「絶対違いますよね?」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥気にするな」


煙草を吹かしながらそう答える。

あまり話したくないことなのだろうか。

露骨に目を逸していたため、それ以上は追求しなかった。


「それにしても詩音さん、これから何処かに行くんですか?」


「ああ、奴‥‥‥朱鷺の所にな」


「朱鷺‥‥‥ああ、穂積さんですか」


朱鷺を紹介されてから、詩音は朱鷺の名前を出すようになった。

一応本人に気を遣っていたのだろう。そういう所は律儀であった。


「‥‥‥今日は少し遅くなる。飯はいらん」


「‥‥‥あっ‥‥‥」


詩音の言葉に何かを察する。


「‥‥‥そういえば、たまに香水の匂いを付けて来ることがありましたが、あれは穂積さんの所に行っていたからなんですか?」


少し踏み込んでみる。

以前から女性のところから帰ってきた際は香水の匂いを纏っていた。その理由を聞いて見たいと思っていた。


(‥‥‥多分穂積さんのところだろうけど、あの人、そんな匂いはしなかったよなあ)


穂積の工房にお邪魔した時は香水の匂いはしなかった。


「ああ‥‥‥‥‥‥事を始める前にお互いの身体に付けるんだ。色々と匂いが残るからな‥‥‥それだけだが?」


「‥‥‥‥‥‥すみません」


予想以上に生々しい理由が返ってきてしまった。

それ以上、深くは追求しないことにした。







当日。


指定された場所に来たが、そこは何の変哲もないゲームセンターだった。

どうやら朱鷺が登録を済ませてくれていたらしい。許可証?とやらの書類を詩音経由で1枚渡されていた。

その紙をゲームセンターにいる男に見せる事で、大会の会場に案内されるようだ。


「ついてこい‥‥‥」


指定されていた男に見せると、眞を何処かへ案内する。

スタッフ用の通路を抜け、倉庫に入る。

そして倉庫にあったロッカーをどけると、そこには狭い通路と階段があった。


「‥‥‥」


男がそこを降りるように目配せしてきたため、その指示に従う。

薄暗い中、階段を降りる。長い通路を渡るにつれて、人の気配が感じられるようになってきた。


「‥‥‥人か?」


歩みを進める度に、人の気配が声となる。そして次第に声が歓声に変わっていた。


突き当りの扉を開ける。


「うおっ‥‥‥!?」


歓声が沸き起こっている。

目の前には金網で囲われたリング。その中心には向かい合うように台が設置されていた。

そのリングを囲うように観客席があり、人がごった返しになっていた。


「うるせぇ‥‥‥」


思わず耳を塞ぐ。熱狂、といってもいいほどの歓声だ。男も女も関係なく、試合の始まりを待っていた。


「‥‥‥とんでもないところにきたな」


黒服の男が近づいて来る。

その男に案内されながら、試合場所へ向かっていった。






時間が来た。

司会役が大会の始まりを告げ、会場内の熱気と興奮が最高潮になる。


第一試合。

司会に名前を呼ばれる。もう1人の名前は恐らく対戦相手だろう。

緊張しながら眞も前に進む。


相手は屈強な男。

恐らく格闘技の経験者であろう。その男がリングに上がった瞬間に歓声が沸き起こる。


そして、眞がリングに上がると歓声が落ち着いた。


「‥‥‥‥‥‥まあ、そうだろうな」


明らかに落胆や盛り下がりの雰囲気が漂う。

背は高めだが、見た目は普通体型の眞が対戦相手なら勝負の楽しみは無いと思われる。


‥‥‥直ぐに終わってしまう。

そんな観客の考えが透けて見えるようであった。


とりあえず頑張るか、と意気込みをした眞がとあるものを見つける。


「あそこに電光掲示板が‥‥‥おいおい、まさか‥‥‥」


視線の先には電光掲示板。そして眞の名前には数字が書かれていた。当然、相手の方にも。


「ここでも賭け事かよ‥‥‥」


数字は選手のオッズ。眞は大穴だ。

よく見ると観客の中に囲まれている人物がちらりほらり見えた。

あれがブックマンというやつであろう。眞はそう思った。


そんな中、見慣れた人物を見つける。


「詩音さん?!‥‥‥それに四条さんも?!なんで?」


リングの直ぐ近くにいた。

思わず駆け寄ると、2人は眞へ声をかける。


「見に来たんだが?」


「赤城さんの勇姿を見るためと、詩音ちゃんのお守りよー」


普段と変わらない様子で答える2人。


「どうやって来たんですか‥‥‥あ」


思い出す。

こんな事が出来る人間を、つい最近紹介されたばかりだ。


「そのとおりだ。丁度軍資金が欲しいと思っていたんだ。眞に賭けるから損はさせるなよ?」


「私も赤城さんに賭けるからねぇ。期待しているわよ?」


「が、頑張ります‥‥‥」


勝てなければ大変だ、と思いつつ対戦相手に振り返る。

相手は準備万端な様だ。眞も所定の位置に着く。


お互いに握手を交わし。


‥‥‥試合開始。







最初は眞からスタート。


(力を抜いて、振りかぶり‥‥‥打つ)


肉を叩く、甲高い音がする。

相手は一瞬ふらつくが、平気な顔をしている。


(次は俺‥‥‥来る!)


相手が振りかぶり、眞の頬を叩く。


肉‥‥‥というよりも硬いゴムを叩く音が響く。


(‥‥‥痛いが‥‥‥手加減でもしているのか?)


四条の教えの通り、目は閉じなかった。おかげで相手の動きが見えた。


(あれ‥‥‥?何か驚いてるような)


対戦相手が平手をした手を庇っている。余裕の表情を見せてはいるが、よく見ると薄っすらと脂汗をかいていた。


(よくわからんが、次は俺か‥‥‥)


二打目を打つ。


先ほどを変わらない音が響く。手にはビリビリとした衝撃が走るが、まだまだ余裕がある。


(相変わらず余裕そうだな‥‥‥)


相手の動きを見ながら平手をくらう。


同じ痛みが走る。


(‥‥‥そこまで痛くないな)


寧ろ、相手の方が痛そうだ。

叩いた手が真っ赤を通り越して青紫色になり始めている。


その後も3回、4回と平手を続ける。

5回目が終わった頃に動きがあった。


対戦相手が棄権を申し出た。


(はっ?‥‥‥終わり?)


レフェリーが眞の勝利を告げる。

同時に沸き起こる歓声とブーイングの嵐。


それもそうだろう。大穴が勝ってしまったのだから。


「おつかれさまー、やっぱり間違っていなかったわね」


「お前‥‥‥何なんだ?」


四条は頷き、詩音は不思議な顔をしている。


「私にも分からないです‥‥‥」


眞自身も分からないまま、試合が続いていた。


‥‥

‥‥‥

‥‥‥‥‥‥



(ほんとうに、なんで?)


初戦を終えた後も相手を変えて試合が進んだ。

しかし、展開は変わらず眞に平手をするごとに相手の余裕が無くなり、棄権するか試合の続行が出来なくなっていた。


「化け物か、こいつ‥‥‥」


決勝戦の相手からも言われる始末だ。

かれこれ30分は平手打ちを続けている。


決勝相手はこの競技?で名を上げた人物らしく、自分で大会を開くようになってからは絶対王者であったらしい。

賭けにより得た大金で人を集め、その度に圧倒的な力で金と名声を自分のものにしていた。


そんな相手も余裕が無くなっている。

それは眞も同じことであった。


(身体はまだ大丈夫‥‥‥だが、疲れる‥‥‥!)


相手は手の痛みで、眞は疲れから、滝のような汗をかき、息を切らせている。


「あんた‥‥‥名前は?」


「‥‥‥‥‥赤城と申します」


「‥‥‥俺は、千堂だ‥‥‥あんたみたいな男とやりあえて嬉しいぜ‥‥‥」


「‥‥‥はぁ‥‥‥」


対戦相手が眞の健闘を讃えてくれるが、眞はただただ、困惑する。


‥‥‥何故友情が芽生えそうになっているのか?


(‥‥‥まあ、最後まで付き合うか)


その後も平手打ちの応酬が続く。


‥‥‥結果、対戦相手が満足そうに後ろへ倒れ、眞の優勝が決定した。


(腑に落ちない‥‥‥)


最後の最後まで困惑したままだ。


しかし、満足そうな表情をしている詩音と四条の顔を見ていたら、そんな事はどうでも良くなった。

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