怪盗クックロビンからの予告状 ⑭
優雅に首を傾げるクックロビンに、警察官にざわめきが広がった。
頼みたいこと、か。
それが何かはわからないけど……クックロビンの言葉に、嘘は無いように聞こえた。
青の警察手帳が何を隠しているのか、それとも警察が聞く耳を持たないのかはわからないけど……。
「これは警察側に不手際がありそうだなぁ……。」
ぼそりと呟いた桜庭さんの言葉に、傍から返事があった。
そうだねぇ、とのんびりした声は、椋折さんのものだ。
ちらりと桜庭さんの方を見て、頼むよー、と言いながら足を踏み出す。
桜庭さんはあからさまに顔をしかめたけど、既に歩き出した椋折さんには見えていないらしい。
一人円からクックロビンに近づいていた蓮月さんの隣まで進み出て、ゆるく首を傾げた。
「それでさぁ、クックロビン? せっかくなんだし、君がどこまで何をつかんでるのか、不出来なオレたちに教えてくれない?」
「おや、これはこれは。随分と自虐的だね。」
「いやぁ、さっきの指摘は身に染みたよ。確かに警察って自分に都合の悪いことは隠蔽しちゃうじゃない? オレもそこは悪いとこだと思っててさぁ。」
「加えてあけすけだ。大丈夫かい? 大勢の前でそんなことを言って。素直なあなたが処罰されるのは望みではないよ。」
「ご心配いただきありがとー。でも大丈夫だよ、オレ出世とか興味ないし。」
だから教えてほしいな、と椋折さんがもう一度首を傾げる。
正面のクックロビンはおやおやと面白そうに笑っているだけだけど……。
「ヒロ。」
「はい。」
小さく口を開いた桜庭さんは、真剣にクックロビンを見つめていた。
応じる柊野君も視線を正面に固定したまま、いつの間にか取り出していたボイスレコーダーのスイッチを入れる。
他愛ない話を繰り広げる椋折さんとクックロビンを見据えながら、風にさらわれるような音量で桜庭さんが話し出す。
「青の警察手帳が狙ったのは、過重労働を強いられている警官。警察手帳返還時に封筒に入れられていたのは、業務改善の要望と手引き。」
「その過重労働を強いていたことが露見するのを恐れて秘匿したということでしょうか。」
「恐らくな。警官を眠らせたのも、襲ったり薬品を使ったわけではなくマッサージを持ち掛けそのまま眠らせたと。」
「相当な腕前ですね。」
「一度受けてみたいな。」
「勾留されている間なら機会はあるのでは?」
「キッカに頼んでみるか。」
……真面目な顔してるけど、早速主旨がずれてる……。
けど、これは……クックロビンの心を見てる……?
椋折さんが尋ねたことに、クックロビンは答えない。
だけどその心に答えが浮かぶなら、桜庭さんはそれを映し出すことができる。
僕たちの傍を離れる前に椋折さんが言った頼むよ、はこれのことだったのか。
クックロビンがどうしてこんなに青の警察手帳の犯行に詳しいのかは気になるけど……。
警視庁の中に忍び込める仲間がいるなら、話を聞きだすのは難しいことじゃない。
……っていうか、警官に危害を加えてもいなくて盗んだものも返してるなら、釈放されてもおかしくないんじゃ……?
「ところで、彼に頼みたいことって何なの? オレたちに言うとまずい感じ?」
「いいや? そうだね、いずれ言うんだからここで頼んでおこうか。」
「太っ腹だねー、気になってたんだ、早く教えてよ。」
ふむ、とクックロビンが唇に手を当てる。
気持ち悪い演技だな、とうんざりしたような桜庭さんの声。
楽しそうに見えるけど、確かに椋折さんの声は奥底にずっと緊張が漂っている。
「私の予告状を作ってもらえないかと思ってね。いつまでも真っ白のカードじゃ味気ないだろう?」
「和紙で出来たカードか、それもお洒落そうだね。俺は今の予告状も好きだけど。」
「それは嬉しいね。あれもなかなかこだわって作っているんだよ。」
「うんうん、いい出来だよね。ポストに入ってた時はパーティーのお知らせかと思って喜んじゃったくらい。それじゃ……」
ニコニコと笑っていた椋折さんの声のトーンが一息に落ちた。
ずっと隣でクックロビンの挙動を見張っていた蓮月さんが短く息を吐く。
揃って胸元に差し入れられる腕。
「聞きたいことはあらかた聞き終わったし……」
「そろそろ捕まえさせてもらおうか。」
鋭く引き抜かれた手に、見慣れない物。
そういやクックロビン専用の捕獲機作ったとか言ってたな、と桜庭さんが呆れ声を漏らす。
あの筒が、とまじまじ見つめてしまった椋折さんのスーツのラベルから、白いものが零れ落ちた。
捕獲機を取り出すときに一緒に出てきてしまったんだろうか。
ふわりとこちらに飛んでくるそれを数歩追いかけて、手を伸ばす。
風に泳ぐ、白い羽。これなら届きそうだと、指先が触れたところで。
「……モネっ!」




