怪盗クックロビンからの予告状 ⑬
すみません! と頭を下げて慌ただしく飛び出していく。
その婦警こそ、我らが仲間。変装の名手、コードネーム梟。
いもしない伝言係を探すふりをして、このまま警視庁から離れる算段よ。
女性に化けるとテンションが上がると口癖のように言う通り、今日の変装もばっちり決まってる。
怒鳴りつけた婦警の顔にこそ見覚えがないことに気付かないなんて、警察の観察眼も大したことないんじゃない?
ま、規則と階級に縛られて、上の顔色伺ってばっかりじゃそうなるのも仕方ないわよね。
人の命や国の治安を守ることはもちろん大事だけど、その仕事を続けて力を持つためには上に媚びへつらわなきゃならないなんて、本末転倒じゃないかしら。
船頭が多くちゃ山には登れないもの、指示系統は必要だけど、それが絶対権力になっちゃ組織は成り立たないわ。
勿論それぞれに会ったやり方があるでしょうし、うちが絶対に正しい形だとは口が裂けても言えないけど、それでも警察よりはましじゃないかと思うわけ。
あくまであたしたちは仲間で対等。
世間からはあたしが怪盗クックロビンだといわれてるみたいだけど、それはあたしが表舞台に立つことが多いだけ。
下調べをしたり情報を集めてくれたり、当日だって中で攪乱したりリアルタイムのデータを教えてくれる仲間がいなくちゃ、あたしなんて一瞬で捕まって終わりだわ。
それぞれがそれぞれに得意分野を担当して、できることをやって、できないところは補って。
そうして何かを成し遂げるために、人は集まるものでしょう?
今日だって、梟がお目当てをここに連れてきてくれなきゃ話は始まらない。
普段は下調べが専門の梟が現場に出てくれたのは、警視庁内にやたら詳しい百舌がサポートしてくれてるから。
百舌自身は警視庁内に知り合いがいるかもしれないからって申し訳なさそうにしてたけど、それだって百舌のもつ財産だわ。
今回は裏目に出たってだけで、今後その人脈が生かせることだってあるかもしれないもの。
それに少なくとも、百舌の話してくれる警視庁内のデータは完璧。
決して単純ではない間取りを見ているかのようにナビゲート出来るのは大したものよ。
おかげで梟は怪しまれることも迷子になることもなく、スムーズに中を移動できる。
あぁそれと、独自に開発したって言うこの、通信機能を持たせたイヤリングも素晴らしいわね。
いたって普通のどこにでもあるイヤリングに見えるのに、まるで耳元でささやかれているかのように鮮明に声が聞こえるんですもの。
ちょうどそのイヤリングから梟の脱出完了の報せが聞こえてきて、あたしはゆっくりと目を開けた。
あたしを取り囲みながら、今回の目的を問いただそうとしている警官の一人と目が合う。
その後ろにまだ目的の彼がいるのを確認して笑みがこぼれる。
あたしたちの目当てがわかってるんだから、さっさとどこかに隠してしまえばいいのに。
そう思った折も折、まるであたしの視線から庇うように、彼の前に立つ人がいた。
その傍から一人が進み出る。
「クックロビン。聞きたいことがある。」
「ん? なにかな、勇ましき警官さん。」
「お前のこれまでの犯行は、むやみに人を傷つけたり悪を助けるものではなかっただろう。」
「そう見えているのならば、喜ばしいことだね。」
「だが、今回の犯人は、警察相手とはいえ危害を加え窃盗を行った。それを逃がそうとするのは理念には反しないのか?」
「ふむ……。」
語る声は理知的だ。
問い詰めるわけでもなく、単純に疑問を晴らしたいだけみたいね。
答えたところであたしに得はないけど、害もないし……そうね。
それこそ、悪を助けるのは趣味に反するもの。
「君たち警察諸君には彼のメッセージは伝わっていなかったと見える。残念だね。」
「……どういう意味だ?」
「彼が盗んだ警察手帳は封筒に入れて返されていた。ただ返すだけならそのまま返せばいいはずだ。それをわざわざ封筒に、ということは、他に何か入れられていたと考えるのが自然だと思わなかい?」
「何……?」
「私たちを問いただす前に、所轄の同胞たちからよく話を聞くことをお勧めするよ。少なくとも私が言えるのは、私は理念を捻じ曲げたつもりはないと、それだけだ。」
「……だが、何にしても彼が罪を犯したことは間違いない。警察が身柄を確保している以上、手出しさせるわけにはいかない。」
「まぁ、君たちの言うことも尤もだ。私も彼をここから連れ出そうと思っているわけではないよ。」
まぁ、可能なら連れ出してもいいんだけど……さすがにそこまで警備は甘くないだろうしね。
だけど、彼が裁かれるのは彼が行った犯罪においてであるべきだ。
確かに彼は警官を眠らせ警察手帳を盗んだけれど、その事情も、実際行ったことも、きちんと調べられてから判決を下されなければ意味がないわ。
あたしが今ここで彼を助け出すことはできないけれど。
「私は彼に頼みたいことがあるだけさ。その和紙を操る手腕にね。」




