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探偵 桜庭碧と彼を取り巻く日常について  作者: 風蓮
第二話 怪盗クックロビンからの予告状
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怪盗クックロビンからの予告状 ⑫

「桜庭さん……僕たち、本当にここにいていいんですか?」

「ん? 良い良い。胸張って立ってろ。」

「……皆さん、こちらをご覧になってますが……。」

「キッカがでかいからだろ。」

「今更か? 五年ほど前から伸びてないぞ。」

「逆に何歳まで伸びてたんだ?」


僕と柊野君を挟むように立つ桜庭さんと蓮月さんの声が頭上を行き来する。

場所は屋上、時刻は十二時半。

いつクックロビンが現れてもおかしくないこの場所で、僕らは大勢の警察官と共に空を見上げていた。

……明らかに警備の邪魔でしかないと思うんだけど……今のところ、他の人たちも遠巻きに見てくるだけで特別何かを言ってはこない。

いや、聞こえないような音量でひそひそと囁きあってはいるか。


……やっぱり、感じ悪いなぁ。

言いたいことがあるなら直接言うか、せめて本人のいない所でやればいいのに。

いやでも、こんなところに一般人がいたらいい気はしないか。

囁きの内容が僕たちに向けて、であれば、まだいいんだけど。

少なくとも桜庭さんに気にした様子はないしな、と見上げた顔に、ふと影が挿した。

次いで、音もなく風が吹き付ける。

反射的に顔を覆った腕の向こうで、ふわりと。

重力から放たれたような軽やかさで、大きくマントを広げた人影が屋上に降り立った。

顔の半分を覆う、鳥を模した仮面。

露出した口元に不敵な笑みが浮かぶ。

楽しそうに吊り上がる桃色の唇。


「諸君。お集りの皆々様、紳士淑女ではない方も。ようこそ、我がステージへ。」


滑らかに響く豊かなテノール。

芝居がかった言い回し、ゆったりと取られた間。お手本のようなリリックテナー。

余裕たっぷりに開かれた口から、惚れ惚れするような美しい響きが流れ出す。


「私の手紙が無事に届いたようでうれしいよ。それで? 私の宝石はどちらかな。」


あの日聞いた桜庭さんの、研ぎ澄まされた美しさとはまた違う。

桜庭さんが一切の無駄を削ぎ落した限りなく鋭い宝石のような美しさなら、クックロビンの声は肥沃な大地だ。

美しくてあたたかくて、ずっと聞いていたいと思うような、包まれたいと思うような声。

……クックロビン、朗読音源とか売りださないかな……。


「……モネさん……? どうしましたか……意識ありますか……?」

「事務所に放送室あったらな……時報係やってもらえないかな……。」

「マジで大丈夫か? 放送室あっても時報係はいらないだろ。」

「できることなら二十四時間喋るか歌うかしててほしい……。」

「前職を上回るどころか他に類を見ないレベルのブラックじゃねぇか。」


とりあえず声は聞こえてる、と……と呟く桜庭さんの声に、軽く息を吐きだす。

人の声は世界で最高の楽器だと誰かが言っていたけど、本当にその通りかもしれない。

美しすぎる音は、却って毒だ。

引き込まれたまま戻ってこられなくなるような、そうなった方が幸せなんじゃないかとさえ思うような、底なしの蜜の声。


「……僕には、いつもの桜庭さんの方が合ってるかな……。」

「何が?」

「水なら毎日飲めますよねって話です。今どんな状況ですか?」

「クックロビンが青の警察手帳のところに向かうのを阻止したい警察と、ここで待ってれば青の警察手帳がやってくるって言うクックロビンが優雅の言葉を交わしてやり合ってるとこ。」

「平和的ですね。桜庭さんは参戦しなくていいんですか?」

「俺はサイン貰いに来ただけだもん。」


お前らも危ないから前に出るなよ、と手を広げる桜庭さんの陰に引っ込みながら、言われた言葉を反芻する。

ここで待っていれば、青の警察手帳がやってくる、か。

青の警察手帳の犯人に今日のことがどれだけ知らされているかはわからないけど、犯人からすれば絶好の脱出チャンスだ。

屋上にクックロビンがいると知っていれば、どうにか監視を振り切ってここを目指すかもしれない。

だけど犯人が何も知らなければ屋上を訪れることはまずないだろうし、警察がわざわざそんな情報を伝えるとも思いにくい。

まぁ蓮月さんと桜庭さんの活躍ぶりを見ていれば完全に無いと言い切れないところが辛いけど……。


「遅くなりました!」


我ながら失礼な思考を遮るように、けたたましい音を立ててドアが開いた。

続いて威勢の良い女性の声。

思わず向けた視界の奥で、びしりと敬礼する一人の警察官。

その手に引かれた背の高い男性。

微かに見覚えがある程度のその顔を見て周囲の警察官があからさまにどよめく。

そんな反応でもはやわかり切った男性の正体を、彼を連れた警察官が高らかに叫ぶ。


「ご指示の通り、青の警察手帳、犯人を連れて参りました!」

「はぁ!? そんな指示は出していない!」

「えぇっ!? ですが、確かにこちらからの指示だと伝言を……!」

「伝言だと!? 誰に伝えられたんだ!」

「えぇと……あれ、そう言えば見ない顔だったような……。」


誰だったかな、と斜め上を見上げて首を傾げるその警官に、蓮月さんが小さくため息をついた。

あーあ、と零す桜庭さんの声をかき消すように、指揮官らしき人の叫びが爆発した。


「どう考えてもそいつはクックロビンの仲間だろうが! 今すぐ探してこい!」

「はっ、はい! すみませんっ!」

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