怪盗クックロビンからの予告状 ⑪
「ここが……特務係……。」
「広い、ですね。」
「まあ元々十人ほどはいたからな。」
今は二人だけだが、と蓮月さん。
確かに二人で使う部屋にしては広いとは思うけど……それより。
「うわ物少なっ! 置くもんねぇの? 今度本でも持ってきてやろうか?」
桜庭さんが叫んだ通り、物が少なすぎるのが一番の原因だろう。
殺風景の見本と言われれば納得するくらいのがらんとした部屋に、机と椅子が二セットだけおいてある。
そして、そんな部屋の一部にぎっちりと並べられたカラフルな色紙。
最早違和感しか醸し出さないその空間に、どれにしようかなと楽し気な声を上げて早速桜庭さんが駆け寄った。
その後に続く柊野君を目で追って、ふと壁の一部が他とは違うことに気付く。
銀色の艶やかな光沢、中央に走る垂直の線。
それはどう見ても。
「エレベーター……?」
「ん? あぁ……それ、空の仕事部屋だから今は開かないんだよ。」
「仕事部屋?」
……エレベーターが?
いやエレベーターに見えるだけで中には別の部屋が広がってるのかもしれないけど。
いやだけどエレベーター以外の何物にも見えないんだよな……隣にボタンもついてるし……。
開かないなら中を確かめようもないけど……気になる……。
「おいモネ、えらく注意力が散漫だな? 今日が何の日かわかってるだろ?」
「あっ、すみません! クックロビンの犯行予告日です。集中します。」
「そうだよ。だから早く色紙選んじゃえよ。」
「桜庭さんも集中してください。」
言った傍から柊野君が数枚の色紙を手に僕の方へ小走りに寄ってくる。
お勧めです、と渡されてしまえば受け取るしかない。
……柊野君って、なんというかこう、もっとまともじゃなかったっけ。
良くも悪くも助手は探偵に似るんだろうかと考えて、慌てて首を振った。
その原理だと僕も桜庭さんに似ることになる。
桜庭さんのことは嫌いじゃないしもちろん尊敬もしてるけど、すごいと思ってるけど、そうなりたいかと問われたら、その……うん。
いや考え方とかね、人との向き合い方とか、こうありたいなと思うところはたくさんあるんだけど!
「キッカ。」
「なんだ?」
「……椋折は、来てないのか。」
「あぁ……。」
例えばこうして、苦手な相手であっても気にかけているところ、とか。
それはもしかするとただ顔を合わせづらいだけなのかもしれないけど。
それでもまっすぐに問いかけることができるのは、強い心の現れだと僕は思うのだ。
「朝に顔を出したんだが、色紙とペンを見るなり何処かへ行った。」
「ふうん? 色紙買い忘れたんなら、ここの使えばいいのにな。」
「多分そういうことじゃないと思いますよ。」
その僕の小さな尊敬を即行で吹き飛ばしていくところも含めて!
まぁ、だけどそれも憎めないところが、この人のひととなり、というやつなのかもしれないけど。
「そういやさ。」
「ん?」
「青の警察手帳って、何か吐いたのか? 動機とか、犯行手順とか。」
「いや、今のところ完全黙秘を貫いているな。警察に話すことはないと言っている。」
「そっか。……あー、のさ。」
「手伝うか、と言うつもりなら、断っておく。」
「……はい。」
「別にお前がいらないわけじゃない。曲がりなりにも警察官に手を出してるわけだからな、上はせっついて来てるが……。」
「お前としては、そう急がなくてもいい?」
「と、思ってる。無理やりに暴いていい結果が出るとも思いにくい。」
「そっか。なら手出ししないでおくよ。」
「すまんな。」
俺こそ出しゃばってごめん、と桜庭さんが軽く両手を挙げる。
気持ちはありがたいさ、と蓮月さんが小さく笑うのに。
「おい特務係蓮月……うわっ桜庭!?」
「おぉ笹岡じゃん。久しぶり。」
「おー久しぶり……じゃなくて蓮月! 今何時だと思ってんだ!?」
「今……十時十五分だな。」
「別に本当に時間が知りたいわけじゃないんだよ! 十時から対クックロビン最終捜査会議やるっていったよな!?」
飛び込んできた笹岡さんと呼ばれた人の言葉に、三対の目が揃って蓮月さんを向いた。
変わらない表情でかすかに首を傾げた蓮月さんが、やがてあぁ、と低く声を漏らす。
「……すまん、忘れてた。」
「キッカー!? お前もう、その無意味そうな会議すっぽ抜ける悪癖早く直せー!?」
「お前の言い草も散々だけど蓮月のこれ直る気がしねぇよ、早く帰ってきてくれ桜庭!」
「無茶言うなよ俺だって色々あるんだよ諦めないで矯正してくれ!」
「お前が無理だったのに今更俺らで直せるわけがねぇんだよなー!」
「……すまん。」
「俺たちに謝ってないでさっさと走って行って謝って来い!」




