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探偵 桜庭碧と彼を取り巻く日常について  作者: 風蓮
第二話 怪盗クックロビンからの予告状
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怪盗クックロビンからの予告状 ⑧

「俺に水が混ざってるように、空には風が混ざってた。」


いや、風で出来てたって言った方が正しいかな。

そう苦笑気味に口火を切って、桜庭さんは語りだす。


俺とキッカは知っての通り実力行使のパワータイプで、現場に乗り出して犯人確保ってのが一番得意だった。

空はあんまり腕っぷしは強くなかったけど、情報収集が凄く上手くてあいつに任せればわからないことなんて何もないって言われてたよ。

椋折も元々潜入捜査が本業みたいなもんだったから、大体あの二人が下調べして俺たちが乗り込むって、そんな感じだったんだ。

上手く行ってたと思うよ。

俺と空、キッカは言うまでもなかったし……椋折もあんな調子で、場に溶け込むのが上手かったから。

だけど……。


「あの日……空が。」


濃く後悔の滲む声。

全てが過去形で進められる話。

ちゃんと考えたつもりで、質問を投げかけた自分の軽率さに腹が立つ。

そういう可能性だって、あったはずだ。

もう二度と会えなくなってしまった、そんな可能性だって。


「桜庭さんっ」

「これから自分たちは警察の敵となるって……そう宣言して、特務係の半分引き連れて警察飛び出したんだよ……。」

「……はい?」


あまりにも予想外の言葉に、用意していたはずの言葉が消え失せた。

とりあえず生きているのなら良かったですと多分見当はずれな答えを導きだしそうになって、慌てて口を噤む。

……警察の、敵?


「つまり、犯罪者になる、ってことですか? 反乱分子とか……テロリスト、とか……。」

「わからない……そもそも、何であんなこと……。」


ずっと考えてるけど、何も……と、俯いて頭を振る。

答えのない問いは、きっとずっと、桜庭さんの心を苛んでいるんだろう。

巡った考えが正解に近かったとしても、そうに違いないと思っても、絶対だと言い切ることはできないんだ。

答えを知る人は、桜庭さんの前から姿を消したままで。


「それで、毎日……弟さんを探してるんですか。」

「あぁ……空が、俺なんかに見つかるような真似はしないって……わかってはいるんだけどな。」


諦めきれなくて。

そう呟く小さな声は、幾重にも折り重ねられた感情が閉じ込められているようで。

あぁ、僕は、まだこんなにも桜庭さんのことを知らなかったのだと思い知る。

この人は毎日毎日届かない手を渇望して、せり上がる思いを呑み下して、それでもあんなに鮮やかに笑っているのだと。


「出て行くとき、空が俺に言ったんだ。ボクを捕まえられるのは、兄さんだけだよね……って。だから、俺は、あいつを捕まえなきゃならない。」


言い切る声が伝えるのは、決意と覚悟。

……そうだ。

桜庭さんが弟さんを見つけたら、それはつまり、弟さんを警察に突き出すってことだ。

そして、弟さんは犯罪者として司法に裁かれることになる。

それを分かったうえで、桜庭さんは弟さんを探し続けているんだ。

……自分をおいて、警察を去った弟を。


「空は、本当に優秀だった。上層部は野放しになったあいつを警戒してる。」

「……警察側も、弟さんを敵として見てるってことですか。」

「……空が、そう簡単に見つかるとは思えないけど……一番に見つけるのは俺じゃなきゃダメなんだ。」


その言葉の意味は、さすがの僕でも理解できた。

警察は、弟さんを見つけ次第どんな手を使っても無力化させるつもりなんだ。

たとえそれが、人道に反することでも……弟さんの命が、脅かされることであっても。


「……蓮月さんは、味方、なんですよね……?」

「……うん。でも、あいつは警察に残ってくれてるから……あんまり目立つことすると、キッカが危なくなる。」


頷く桜庭さんに、詰めていた息を吐いた。

桜庭さんに、全てを知ったうえで隣に立ってくれる人がいて、良かった。

キッカ、と蓮月さんを呼ぶ声は、本当にうれしそうだから。

その心が損なわれないままでよかったと思う。

だけど同時に、もう一人を指す声は。

あだ名をつけるのが好きだと言われた桜庭さんが何のひねりもなく椋折と呼ぶ、全てをはねつける氷壁のような声は。


「椋折は。」


静かな声に、桜庭さんに視線を戻す。

伏せた睫毛が頬に影を落としている。


「出て行く空に、銃を向けた。」


今、桜庭さんの心には、どんな光景が映っているんだろう。

水があっても、鏡があっても、僕には誰かの心を映し見ることはできない。


「警官としては正しい行動だったのかもしれない。それでも、俺は。」


それでも僕は。

見えない桜庭さんの心を感じ取って、想像して、寄り添うことはできるはずだ。


「許せないんだ。先に裏切ったのは空だって、わかってるけど。椋折には、空の味方でいてほしかったんだよ。」


わがままだよな、わかってる。わかってんだけどさ。割り切れないんだ。

呻くような声を押し殺すように、顔を覆う桜庭さんの手にそっと触れる。

先まで冷え切った、かすかに震える指。

僕を見上げて揺れる瞳。泣き出す寸前の、迷子みたいな顔。


「僕にも、手伝わせてください。」


何ができるなんて言えないけど。

僕だって、隣に立っていたい。

助けてもらった分を。桜庭さんが僕にくれた心を、返したいと思うから。

笑っていてほしいと思うから。


「一緒に探します。……弟さん、見つけましょう?」

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