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探偵 桜庭碧と彼を取り巻く日常について  作者: 風蓮
第二話 怪盗クックロビンからの予告状
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怪盗クックロビンからの予告状 ⑦

一度捜査本部と今後を話し合ってくる、と警官二人が出て行ったあと。

おずおずとカウンターから顔を出した柊野君が、あたたかいお茶を差し出しながらそっと目を伏せた。


「すみません、裏口から入ってこられて……声を掛けようかと思ったのですが……。」

「いやいいよ。何もされなかったか?」

「はい。たまたま奥にいた時だったので。」

「それならよかった。」


ずず、と音を立ててマグカップを傾ける桜庭さんに、柊野君が小さく頭を下げた。

多分、椋折さんのこと……だと、思う。

入ってきたときにドアベルの音は聞こえなかったし、以降ずっと柊野君は出てこなかったし。


「あの……聞いても、いいですか。」

「いいよ……っていうか、この状況じゃ聞きたいことは決まってるか。……椋折のことだろ。」

「……はい。」


頷けば、桜庭さんが深々と息を吐いた。

青い瞳が緩く閉ざされて、また開く。


「何が聞きたい?」

「えぇと……。」


尋ねる桜庭さんの声は、少しのざわめきを包み込んだ、穏やかなものだった。

思うところはたくさんあっても、僕の問いを受け止めてくれる深い声。

許されていると、そう思う。

僕が、教えてもらったことを、いつか正しく桜庭さんに返せると信じてくれているのだと。


「椋折さんとは、どういった関係なんですか。」

「あいつは……昔、同じ部署で働いてた。っていうか俺が辞めただけで、キッカも椋折も、ずっとそこに留まってる。」

「特務係、ですか。」

「そう。俺がいた頃は十人前後で構成されてたけど、今はキッカと椋折の二人だけだ。」

「そんなに人が減るのって、よくあることなんですか。」

「ない。本当は解散させろって散々言われてるけど、あいつら絶対頷かないんだ。なまじ有能な人材だから、上も手を焼いてるって。」


辞めさせるにも勿体ないって言われてるんだってさ、と言う桜庭さんの言葉は、蓮月さんはもちろん椋折さんのことも認めているように聞こえて。

他の人が籍を移した特務係に身を置く二人のことを……かつて自分がいた部署を守り続けている二人のことを、嫌っているようには聞こえないのに。


「どうして……あんなに、遠ざけてるんですか。」

「遠ざけてる……か。確かにそうかもな。」


軽く息を吐いて、桜庭さんが頬杖をついた。

遠くを思い出すように、瞳が薄く細められる。

その口が開く、より早く。


「桜庭さんが、毎晩何処かへ行ってることと関係がありますか。」

「えっ、気、付いてたのか!?」

「初めは気のせいかと思ったんですが……毎日不自然な水の音がすればさすがにわかります。水道管を流れる水とも違う音だったし。」

「……毎晩安眠妨害してごめん……。」

「大丈夫ですよ、僕そのまますぐ寝付けるタイプなんで。」


気にしないでくださいと言い重ねれば、項垂れた桜庭さんがありがとう……と弱弱しい声を出した。

額に手を当てて、バレてるんなら仕方ないよなぁ、と小さく続けられる。

背筋を伸ばしたまま待っていれば、やがて桜庭さんが顔を上げた。

くしゃりと崩れたような、笑うのに失敗したような表情。


「特務係にいた頃、俺の相棒はキッカだった。……椋折にも、相棒がいた。」

「……はい。」

「椋折の相棒は……桜庭、空。」


低く、深く、凪いだ声。

暗く寒い、深海のような響きに、ごくりと唾を呑む。

桜庭。目の前のこの人と、同じ苗字。

分かり切った答えを疑う脳に、沈鬱な声が静かに、だけど確かに染み込んでいく。


「俺の弟だ。」

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