怪盗クックロビンからの予告状 ⑤
思わず突っ込んでしまってから、はっと我に返る。
頑張ってほしいのはやまやまなんだけど、警視庁の中で保管されてるものそうそう盗まれないでほしいけど、そこは全力で頑張ってほしいところなんだけど!
今その凄い人が持ってるらしい桜庭さんの警察手帳の守りを固められたところで意味がないんだよ。
「青の警察手帳って、桜庭さんさっきテレビで見たばっかりじゃないですか。」
「……あっ!? 昨日逮捕されたっていう動機が謎に包まれた警察手帳すり替え犯人か!?」
「そうですよ! ニュースでそのまま青の警察手帳って言ってたでしょう?」
「つまり……クックロビンは逮捕された犯人を盗み出して逃がすつもりってことか!」
「理由はわかりませんが、恐らくは。」
「キッカ、急いで留置場に連絡!」
「もうやってる!」
携帯端末を取り出して電話をかけ始める蓮月さん。
繋がった通話先と話し始めたことを確認して、桜庭さんが僕を見た。
大股に近寄ってきて、頭をくしゃりと撫でる。
嬉しそうに弾んだ声。
「さすがだな! 随分探偵らしくなったんじゃないか?」
「……そう、ですかね。」
「うんうんすごいよー。是非うちにほしいくらい。」
「やらない離れろ。」
伸ばされかけた椋折さんの手を短く追い払って、桜庭さんがまた僕の髪をかきまぜた。
……できるなら、もっと探偵らしいところで評価されたいところだけど……。
それでも、こうして誰かに……特に、桜庭さんに褒めてもらえるのは、嬉しい。
嬉しいけどやっぱりちょっと恥ずかしくて、じわりと熱の昇る頬を隠すように口を開いた。
「そういえば。クックロビン、性別も年齢もわからないって言ってましたけど。」
「ん? あぁ。」
「多分、女性だと思います。というか、女の子。」
「え……何でそんなこと……。」
目を見張る桜庭さんの後ろから、電話が終わったらしい蓮月さんが近づいてくる。
不思議そうに並んだ顔を見返しながら、昔のことを思い出す。
「以前、うちにもクックロビンが盗みに来たことがあるんです。」
「えっ!?」
「まぁ金持ちだろうしな……クックロビンが好きそうなものでもあったのか?」
「何かの記念で作ったって言う、アクアマリンで出来たバイオリンを盗んでいきました。」
「善人からは必要なものは盗まないだろ? 綺麗そうだけど、いらなかったのか?」
「はい。固いし冷たいし重たいし、弾きづらくて。」
「……多分それ楽器じゃなくてインテリアだったんじゃないかな。」
「楽器の形をしてるのに演奏できないなんて、寂しいじゃないですか。だからクックロビンから予告状が来た時、家族みんな喜んでましたよ。」
「そうか……。」
「一応事件は事件なので、巻き込まれないように部屋から出るなって言われてたんですが……。」
「出たのか? それで、素顔を見た?」
「いいえ。」
興味がなかったわけじゃないけど……。
父さんと母さんの言い付けを破ってまで、見たいものじゃなかったから。
それでもやっぱり諦めきれない気持ちはあって、何もしないではいられなくて、こっそりと。
「兄さんとちょっと……足音を、聞いていて。」
「足音?」
ドキドキした心臓の拍動とともに、あの日の音をよく覚えている。
よく響くように、絨毯を引き剥がした廊下の艶やかな板の色。
そこを通るように誘導してあるんだと得意げに言っていた兄さんの声。
走ってくる軽くて小刻みで……僅かにこもるような、厚みのある音。
「ヒール、というより、シークレットブーツの類かな。身長を誤魔化していると思います。」
「あれ、そもそも大分ヒール高いよな?」
「本当は更に背が低いってことか。」
「それと、歩幅の感じが女性のもの……あのちょっと弾む感じは、まだ年を重ねていないからだと。」
「……まじでぇ?」
「数年前のことなので確証はありませんが……そうだ、多分、柊野君と同い年くらいだと思いますよ。」
「女子高生かぁ……。」
「……前言撤回! 探偵らしくなったどころか、お前は立派な名探偵だ!」




