怪盗クックロビンからの予告状 ③
「それじゃあ、僭越ながら解説させていただきます……。」
「よっ、知恵の神!」
「警察期待の星!」
「そんな大層な話では全然ないし却って恥ずかしいのでやめてください。」
そもそも僕警察でもないし。
柊野君が用意してくれた麦茶でのどを潤して、では、と予告状を指さす。
まずはわかりやすいところから。
「歩く犬が四度躓くとき、ですけど。」
「あぁ。」
「犬って躓くか?」
「転ぶことはあっても、躓くところは見ないな。それも四度も。」
「だよな? クックロビン、犬に詳しくないんじゃないか?」
「これは暗号なので現実のことは一度忘れてください! 犬が歩くと言えば、有名な言葉があると思うんですけど。」
「有名な言葉……?」
「……犬が西向きゃ尾は東……?」
「歩いてください。」
「千里の道も一歩から!」
「犬は?」
「わかった! 飼い犬に手を噛まれる!」
「どっちか片方しか覚えられないんですか!」
答える声が自信に満ち溢れているのが余計に心配になる。
ことわざと言えば誰しもが思いつくような一文なのに、どうして……。
いや、でも、蓮月さんの仕事ぶりは知らないけど、桜庭さんは本当はもっとすごい人なんだ。
排水溝だってピカピカに磨き上げられるし、迷子になった猫だってすぐに見つけられるし……僕を、助けてくれた。
だから、あまりこんなこと言いたくはないけど……!
「警察と探偵が揃ってこんな有様で、本当に日本は大丈夫ですか?」
「キッカも頑張って治安維持してるんだよ!?」
「碧だって毎日薔薇の水やりしてるじゃないか!」
「蓮月さんにとって桜庭さんの評価はそこでいいんですか!?」
いや確かにこの広いお庭に毎日水をあげて綺麗な薔薇を咲かせてるのはすごい。
すごいけど、それはもはや探偵の仕事でもない気がするのは僕だけなんでしょうか。
まあでも薔薇ってすぐ病気になるとかいうし、僕の想像以上に大変なことも多いのかもしれない。
手伝いましょうかって言っても絶対断られるしな……いや。
「今はその話じゃなくて! ほら、犬も歩けば?」
「犬も、あるけば……?」
「……いつかは走り出す……?」
「嘘でしょ!?」
うぅんと大人二人が考え込む。
もしかして僕の知ってることわざは存在しないんじゃないかと不安になってきたところで、隣の柊野君がぼそりと呟いた。
「棒にあたる……。」
「正解っ! さすが柊野君! 天才! わかってる!」
「そんなに褒めないでください……却って恥ずかしいので……。」
「何か似たセリフさっき言ったね!」
ほんの少し頬を染めて俯く柊野君が、照れ隠しにか飲み物を淹れてきますと立ち上がってしまった。
ありがとうと見送ってから、ぽかんと顔を見合わせている二人に向き直る。
「で。四度躓くとき、ということは、当たる棒が四本あるということです。棒を四つ並べてできる日付は?」
「棒が一本で一だから……」
「いち、いち、いち……十一月十一日だ!」
「はい。次に場所ですが、」
「ヒロみたいに褒めてくれてもいいんじゃない?」
「僕に説明されている時点でダメかと……場所のヒントは「くあさたゅい」でしたよね。」
「あぁ。どうやって発音するんだ……。」
「外国語じゃないか? 日本語では当てはまる音がなかったとか。」
「暗号だって言ってるじゃないですか。くあさたゅい、を五十音表に当てはめて、一つ下の文字を読んでください。」
「えぇと……。」
今度は二人揃って虚空を見上げる。
見えない表を思い浮かべているのか、目を閉じたまま指だけが空を指して。
「けい、し、ちょう……?」
「警視庁か!」
「はい。くあさたゅいが示しているのは、警視庁の上。つまり屋上です。」
「成程なー!」
「いやぁ、ここに持ち込んで本当に良かった。ありがとう、椿木君。」
「本当にそんな感動されるようなことじゃないんですけどね……。」
まさかこんな簡単な、暗号というよりなぞなぞでこれほど喜ばれるとは思ってなかった……し、何より。
「……カードの最後の一文、読んでもらって良いですか。」
「最後の一文? えっと……それでは、十一月の十一日……警視庁の、屋上にて……あぁっ!?」
「犯行日時も場所もしっかり書いてあるじゃないか!」
「親切だなクックロビン!」
凄い凄いとカードを掲げて喜ぶ二人に、ため息が漏れた。
初めはクックロビンがただの間抜けで書いてしまったんだと思ってたけど……。
「この感じだと、本当に親切で書いたのかもしれない……。」
「何か言ったか?」
「いいえ、なんでも。」
「なぁモネ、じゃあ狙われてる青の警察手帳って何だと思う?」
「そこも説明しないといけないんですか!?」




