怪盗クックロビンからの予告状 ②
「んで? 何があった?」
いそいそと料理を取り分けながら桜庭さんがそう尋ねた。
今日のメニューはシンプルに鉄板焼きだ。
良いお肉には余計な手出しは野暮、との判断らしい。
代わりに、というと違うかもしれないけど、カラフルなソースやドレッシングが並んでいるし、お肉以外にも色鮮やかな野菜やウィンナーが良い匂いを漂わせている。
「急ぎなら食べながら聞くけど?」
「食べるのを後回しにするって選択肢はないのか?」
「食べ始めてるお前に言われたくないな。」
笑いながら言う桜庭さんも、既にお肉に手を伸ばしている。
かくいう僕にも、柊野君がたくさん持ったお皿を渡してくれる。
鉄板で焼いたトウモロコシって、やたら美味しそうに見えるのはどうしてだろう。
「これを見てほしいんだ。」
大きな口でお肉を飲み込んだ蓮月さんが、内ポケットから一枚のカードのようなものを取り出した。
溶かしたチーズにプチトマトを差し入れながら、桜庭さんが受け取る。
はがきより少し小さいサイズのそれを一目見て、おおっ! と弾む声。
「良い報せですか?」
わくわくと楽しそうな声に、僕の心も浮足立つ。
親しい人が結婚されたとか、出産されたとか。
身近なところだと、家族が志望校に受かったとか、大会でいい成績を取ったとか……。
「おう! 怪盗クックロビンからの予告状だ!」
「それっていわば犯罪宣言ですよね!?」
何をこんなに喜ぶことが!? しかもよりによって現職警官の蓮月さんの前で!
蓮月さんが怒るところは見たことないけど、これは気を悪くしても致し方ないのでは……。
「そうなんだ、しばらく音沙汰がなかったから廃業したのかと思ってたんだが……楽しみだな!」
「駄目だこの警察!」
怪盗の活躍を楽しみにする警官なんて、聞いたことがない。
いやまぁ、わからなくもないよ、気持ちとしては。
怪盗クックロビンは、義賊だ。
古くは石川五右衛門や鼠小僧のような、悪を懲らしめ善、もしくは弱者を救うような泥棒。
たまに悪と呼べないようなところに盗みに入ることもあるけど、それも盗まれて困るようなものには手を出さない。
そして絶対に、善良な市民を傷つけるようなことはしない。
犯行のエンターテイメント性の高さもあって世間からの好感度は高いらしく、僕自身嫌いじゃないけど……。
「捕まえるつもりがないわけじゃないんですよね?」
「俺は捕まえてみたいと思ってるんだがな。実際捕まえてしまうと警察に批判が来るかもしれないと、上層部は懸念しているそうだ。」
「捕まえてみたいって言う時点であんまり本気じゃないですよね。」
「正体は暴いてみたいと思ってる。」
捕まえられたとしても世間には公表できないかもしれないなぁ、と蓮月さんがカボチャをかじる。
正体分かったらこっそり教えに来てくれ、とシイタケをつまみながら桜庭さんが言って、カードを掲げた。
さっぱりわかんねぇ! と楽しそうに笑うのに、傍に寄った柊野君が首を傾げる。
「予告状と言えば、暗号ですか?」
「うん。解ける?」
「僕も見て良いですか?」
「あぁ、知恵を貸してくれ。」
柊野君が受け取った予告状を見やすいように差し出してくれる。
頭を並べて覗き込むそこには、金色の粒子が煌めく鮮やかな空色の文字が躍っている。
拝啓 残菊の候、警察の方々におかれましては、皆様がご壮健でますますの治安の維持をされていますこと、喜び申し上げます。
この度、新たなる宝石を頂くべく予告状を送らせていただきます。
予告状
舞台は「くあさたゅい」
歩く犬が四度躓くとき、
青の警察手帳を頂きに参ります。
久方ぶりの犯行となるため至らない点も多いかと思いますが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いいたします。
それでは十一月の十一日、警視庁の屋上にてお会いできることを楽しみにしています。 敬具
カードの端には鳥のように見えるマーク。
ぽってりとしたエンボス加工の施された紙に並ぶ字を、数度読み返す。
予告状というか手紙というかなんというか、いやそれよりなにより気になる点が……。
「くそっ……いつどこで何が盗まれるのか、さっぱり謎が解けない……!」
「腕を上げたな怪盗クックロビン……! どこを警戒すればいいんだ……!」
「正気ですか日本警察!」
「俺は退職してますけど!?」
「探偵としても大概ですよ!」




