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探偵 桜庭碧と彼を取り巻く日常について  作者: 風蓮
第二話 怪盗クックロビンからの予告状
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怪盗クックロビンからの予告状 ①

その事件が舞い込んできたのは、僕が桜庭探偵事務所で働き始めてから数週間経った頃のことだった。


その日は、正直に言ってのんびりとした日だった。

柊野君はカウンターの中で料理にいそしみ、桜庭さんは暇つぶしに僕にチェスを教え、僕は駒の動きに首を傾げているような、そんな一日。

点けっぱなしにしているテレビから、お昼のニュースが流れている。


「モネ、明日教習所だった?」

「いえ、明後日です。何かありました?」

「いや何も。」

「……依頼、来ないですね。」

「この時期は来ても排水溝掃除がほとんどだしなぁ。」


軽くうなずくように何度か頭を揺らして、桜庭さんは駒の一つを手に取った。

馬の頭を象った、ナイトの駒。

白色のそれを弄びながら、背もたれ越しに柊野君を見やる。


「まぁでも、たまにああいうこともあるし。」

「良い事件でしたね。」

「お互いにな。」


真面目くさった顔でうなずく桜庭さん。

ああいうこと、とは数日前、排水溝掃除に伺ったときの話。

水に変えた体で直接排水溝の中を綺麗していくという、桜庭さんの能力をフルに使った掃除は奥様方の間で評判らしい。

夏も終わり年末の大掃除にはまだ早いこの時期は、毎年依頼の九割を排水溝掃除が占めているそうで。

噂を聞きつけて依頼してくださったお家で、柊野君はお客様のお話を聞き、僕はせっかくなので水回りを磨き、桜庭さんはいつも通り掃除を始めてすぐ。

んー? なんて曖昧な声を出しながら腕を引き上げた桜庭さんが、握っていた手を開くと。


「まさか婚約指輪とは。」

「石が大きくて流されにくかったんだろうな。近くにピンが引っかかってて網みたいになってたし。」


豪華な宝石がついた指輪は、奥様が大切にしていた古くから伝わるものだったらしい。

たまに取り出して眺めているものの少し前から行方知れずで探していたのだと。

見つけてくれてありがとうと何度も頭を下げていた奥様が、今日改めてお礼にといらっしゃったのだ。

……大きな、そして上等なお肉と共に。

そうして今、柊野君がそのお肉のポテンシャルを最大限引き出すべく戦ってくれているわけで。

何もしないのは申し訳ないと思いつつ、却って邪魔になることは重々わかっているのでカウンターには立ち入らないようにしている。

黙々と料理を作っている柊野君も、楽しそうに見えるので。


「あ、こいつ捕まったんだ。」


不意に桜庭さんが声をあげた。

目線の先には、犯人逮捕の映像が流れるテレビ画面。

昨日! 青い警察手帳を取り押さえ! と大きなテロップが躍っている。


「青い警察手帳……?」

「なんか、警官を襲っては、警察手帳を青い和紙で作られた偽物にすり替えていくらしい。」

「どういう動機なんですかそれ。」

「さっぱりだ。取り調べが進んだらキッカに教えてもらおうぜ。」

「ちなみに、襲われた警察の方たちは……?」

「全員無事。というか大した怪我もなく、数時間眠らされただけって感じだな。」

「そっか……良かった。」


僕が胸をなでおろしている間に、ニュースは次の話題へ移っている。

この秋デビューしたばかりの女子高生シンガーソングライター、きっかけはとある動画配信。

そんな平和な話をBGMに、公開されてないけど盗まれた警察手帳は被害者の勤める交番や部署に届けられてたらしいぞ、それもわざわざ封筒に入れて、と桜庭さんが付け足して、ますます謎が深まった。

本当に何がしたいんだ、その人。

まぁ、世の中にはいろいろな人がいて、自分が理解できる相手なんてそのほんの一握りだけなのかもしれないけれど。

……父や、母とさえ、わかり合うことはできなかったわけなんだし。

それとも案外、思っているより多くの人は言葉を重ねれば理解し合えるんだろうか。

いやでも、警察手帳を盗むところまでなら、警察に恨みが、とも思わなくもないけど……。


青い和紙で作られた偽物、っていうのがまずよくわからないし、盗んだ手帳返ってきてるし……。

警察手帳をもっとおしゃれにしたい強い思いでもあるのかな。

いやでも、比較的水に強いとはいえ和紙も紙。

日々持ち歩くものとしては強度に不安が残る……せめて表面を耐水加工にするべきでは?

ここには水を操れる人だっているわけなんだし……と桜庭さんを伺ったあたりで、かろん、と。


あ、お客さん、と思った時には、テレビは消されチェス盤には布が被せられ、桜庭さんはまっすぐに背筋を伸ばして立っていた。

慌てて立ち上がった僕の隣で、胸に手を当てた桜庭さんが優雅に一礼する。


「ようこそ、柊野料理店へ。」

「えっちょっと桜庭さん!?」

「此処はいつから料理屋になったんだ。」


確かに今働いてるのは柊野君だけだし建物の雰囲気も料理屋さんみたいだけど!

でもそれならせめてもっと洋風に、リストランテ柊野とかそういう名前の方がっていうかいや今はそこじゃなくて。


「料理屋さんになるなら尚のこと僕必要なくないですか?」

「突っ込みどころはそこでもないし尚も何も必要だから働いてもらってるんだけどな?」

「あっまた心を読みましたね?」

「声が大きすぎて駄々洩れなんですよ。なぁキッカ。」

「俺に振るな。」


渋い表情を浮かべたお客さん、もとい蓮月さんにだよなー! と笑いかけて、桜庭さんはカウンターを指し示した。

食材に向き合っていた柊野君が顔を上げて、小さく会釈する。


「ちょうど良い肉が入ってな。食ってくだろ?」

「お前それ本当に料理屋の亭主のセリフだぞ。」

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