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第56話 代表決めバトルロイヤル

 「ちょっと待ってください!」


 レオンの提示した代表選考に、ジンは異議を唱える。


 「どうして、俺と先輩達の戦いになるんですか!?」

 「どうしてって・・・。ジン、君も上位弟子じゃないか。なら、選考の候補に挙がるのは当然だ。」

 「!」


 レオンに指摘され、ジンは自分も候補者の一人だったことを思い出した。


 「・・・でも、先輩の言う通り、一対一でやるべきでは・・・?」

 「それは駄目だ。それでは君が、確実に代表になってしまう。弟子達のチャンスが減ってしまうだろう。」

 (・・・確かにそうだ。このままやれば、俺とケンド先輩が確定して、残った枠は一つしかない。)

 「だから、君一人に対して、他の上位弟子全員で戦う方がいいと考えた。これなら、他の弟子にもチャンスがある。」

 「・・・。」


 ジンは、レオンの言葉にどこか引っ掛かりを覚えた。


 (師匠は弟子想いな人だ。少しでも多くの弟子にチャンスを与えたいとからこんなことを言っているように思う。・・・でも、何か妙だ。今の俺なら、上位弟子全員が相手でも問題なく勝てる。修行を共にしていない中位弟子以下ならいざ知らず、師匠は俺の強さを把握しているはず。それじゃあ、結局同じじゃないか。・・・師匠には、何か別の考えがあるんだろうか?)


 結果が見えていることをあえてするのなら、何か別の目的があるとジンは考えた。だが、それが何なのかまでは、分からなかった。


 (・・・まあいい。俺も剣武会の代表には憧れていた。これは、憧れのあの舞台に立てるいいチャンスなんだ。前向きに考えよう。)

 「・・・分かりました。その条件でやりましょう。」

 「では、上位弟子全員は準備を。十分後、試合を開始する。」


 ジンが了承したのを受け、レオンは弟子達に準備を促す。


 「・・・ジン。大丈夫なのか?上位弟子は十人以上いるんだぞ?」

 「大丈夫だ。俺は絶対、代表になってみせる。」

 「・・・。」


 自信満々なジンに対し、フィアはどこか不安気だった。

 だが、不安なのは上位弟子達も同様だった。ジンが来てから、彼の修行を間近で見、稽古もしてきた彼らは、ジンが単に数で押せば勝てるなどと甘い考えはしていなかった。


 「・・・ケンドさん。師匠はああ言ってましたけど、俺はジンに勝てる気がしません。」

 「俺もです。・・・正直、今回の代表は諦めようと思っているくらいです。」


 弟子の何人かは、既に諦めムードだった。自分達が勝てないケンドでさえ手も足も出ないのだから、こうなるのも無理はなかった。だが、ケンドは違っていた。


 「・・・君達の気持ちは分かる。だが、そんな弱気でハート流の名を背負えるのか?」

 「・・・。」

 「たとえ、負けると分かっているとしても、戦わなければならないこともある。それが、剣士だ。ハート流は、この国を守る剣。その剣が、敵わないという理由で逃げるなどあってはならない。今回のこれは、国を守ることとは関係ないだろう。だが、今からそんな逃げ腰では、実戦でも同じように逃げ腰になってしまうだろう。君達はそれでいいのか?」


 ケンドの言葉に、弟子達はハッとした表情になる。


 「・・・ケンドさん。・・・すみません、俺が軽率でした。」

 「俺もです。そうですね。ここで逃げるようでは、ハート流剣士として失格です。」

 「気にしなくてもいい。ジンが規格外なのは事実だ。」

 「ですが、どうやって戦います?このままやれば、全滅の可能性も・・・。」

 「・・・私に作戦がある。通じるかどうかは分からないが、やってみる価値はある。」

 「・・・はい!」


 ケンドは、弟子達に自身の考えた作戦を伝えるのだった。




 十分後、準備を終えたジンと上位弟子達は、訓練場の舞台の上にいた。


 「これより、剣武会の代表選考を始める。舞台から落ちた者、降参を宣言した者、戦闘力を失った者は、その時点で脱落と見なす。」

 「はい!」

 「では、始め!」


 レオンの開始の宣言と同時に、双方ぶつかり合うかに思われた。だが、予想に反し、互いに距離を取ったままだった。


 「・・・先輩達、どうして攻めないんだ?」

 「相手は一人なんだから、囲んでしまえば勝てるんじゃないか?」


 中位弟子と下位弟子は、動きのない試合に困惑する。だが、ジンはケンド達の意図に気付く。


 (なるほど。たとえ数で勝っていても、マトモに戦えば勝てない。なら、持久戦で俺がバテるのを狙う作戦か。いい作戦だ。・・・なら、こちらから仕掛けるか。)


 ジンは、動かない上位弟子達に対して自分から仕掛けるべく動く。最初に先頭の上位弟子に切りかかる。何の変哲もない攻撃は、易々と防がれる。それからジンは、彼を攻撃し続けるも、弟子はこちらから手は出さず、ひたすら耐えていた。


 (ジンが疲弊するまで、ただ耐え切る役割。・・・本来なら、ケンドさんや俺より強い上位弟子の役割だったが、俺は自分から志願した。俺が剣武会に出たって、勝てはしない。なら、一人でも多く強い弟子が出られるようにする。ジン、悪いがこのまま疲れるまで付き合ってもらうぞ。)


 ジンの攻撃を防ぎ続ける弟子。このまま状況は膠着状態に陥ると思われた。


 (先輩。それは甘い考えだ。ただ防御していればいいというわけじゃないんだ。)


 ジンは、木刀に一際力を込めて振り下ろす。当然、防御する弟子だったが、今回は様子が違った。なんと、弟子の木刀は、粉々に砕けてしまったのだ。


 「!?」

 「まず一人!」


 動揺した弟子の鳩尾みぞおちを、ジンは木刀の柄で突く。弟子は、何の反応もできず、その場に崩れ落ちる。


 「カナロ脱落!」

 「!」


 レオンは、気絶した弟子に脱落を宣告する。ケンド達に動揺が走る。


 「・・・ケンドさん、どうして木刀が急に・・・?」

 「・・・木刀の一点だけを攻撃し続けて、脆くしたんだろう。」

 「嘘でしょう!?止まっているものを壊すならともかく、防御している敵の武器を点破壊なんてできるわけ・・・!」

 (・・・確かに、そんな精密な攻撃ができるなんて普通はあり得ない。・・・まさか、技量の面でもここまで差があるなんて・・・!)

 「次!」


 動揺するケンド達を尻目に、ジンは、ケンド達に向かっていく。


 「!させるか!」


 すぐに弟子の一人が前に出てジンを遮ろうとする。


 (今度は俺が防ぐ!)


 だが、ジンは弟子には攻撃せず、彼を飛び越えて他の弟子へと向かっていこうとする。


 「!逃がすか!」


 弟子は、ジンを追いかけようとする。だが、次の瞬間、ジンは、突然弟子の方に向き直ると、彼を木刀で攻撃する。突然のことに、反応できなかった弟子は防げず、その場で崩れ落ちる。


 「カナタ脱落!」

 「!」


 また弟子の一人が脱落し、ケンド達の動揺はさらに広がる。


 (・・・やられた!相手にしないと見せかけて、カナタの隙を突いたのか!こうまで戦いがうまいとは・・・!)

 「ケンドさん!どうします!?」

 (このまま一人ずつ戦っても、ジンを消耗させるどころか戦力を減らすだけだ。・・・こうなれば・・・!)

 「・・・やむを得ない!全員でかかるぞ!」


 このままやり合っても各個撃破されると悟ったケンドは、全員で攻める作戦に切り替える。ケンド達は、一斉にジンに向かっていく。


 (無策に突っ込むわけではない!事前に打ち合わせしておいた!時間差攻撃で仕留める!)


 三人の弟子が、最初にジンに攻撃する。それを躱すジン。そこに、別の三人の弟子が攻撃を仕掛ける。


 (さあ、ジン!その攻撃を躱せ!躱した瞬間、私達が仕留める・・・!)


 ケンドの予想通り、ジンは第二波の攻撃も躱す。ケンド達残りの弟子は、ジンを狙って攻撃する。


 「もらった!」


 だが、ケンド達の攻撃がジンに当たることはなかった。なんと、ジンはケンド達の攻撃を軽々と躱してみせたのだ。


 「!?馬鹿な!あの体勢で攻撃を!?」

 「これは・・・無心歩法むしんほほう!?」


 無心歩法とは、ハート流の剣士が使う特殊な歩法で、敵の攻撃を回避するのに使われる技である。別に秘儀でも奥義でもない、基本的な技だが、ジンのそれは、上位弟子から見ても見事なものだった。


 (私でも、あれだけ綺麗な無心歩法は無理だ!それに、あの体勢から使うのも無理だ!信じられない!技の使い方すら私達を凌いでる!)

 「・・・ハート流剣技、心月舞踊しんげつぶよう!」

 「!しま・・・!」


 心月舞踊は、自身の周囲の敵を薙ぎ払う広範囲攻撃で、大勢の敵に囲まれた時にその真価を発揮する。ジンを全員で攻撃したことで、使われる絶好の条件を満たしてしまっていたのだ。だが、気付いた時には遅かった。ジンの剣技は、周囲にいたケンド達を捉え、打ち据えていた。

 そして、その場にはジンしか立っている人間はいなかった。

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