第57話 レオンの思惑と悩み
「そこまで!」
ジン以外の全弟子が倒されたことで、レオンは終了を宣言する。
その光景に、中位弟子以下の弟子達は驚愕していた。まさかの全滅だったのだ。
「・・・マジかよ?上位弟子の人達が全滅なんて・・・!」
「あの動き、あり得ないだろ!?」
「前にケンドさんと手合わせした時より強くなってないか?」
しばらくして、ケンド達はよろよろとだが起き上がった。
(・・・まさか、一瞬で倒されるとは・・・!私達も、ジンの言っていた修行で強くなっていたはずだが・・・まったく手も足も出なかった・・・!)
「・・・完敗だ。さすがはジンだ。上位弟子全員がかかってもこのザマとは・・・。」
「・・・。」
「?ジン?どうした?」
ジンは無言で項垂れていた。それを見たケンドは困惑する。
「・・・どうしてジンは黙っているんだ?」
「まさか、ケンド先輩達が弱すぎたからかな?」
「それは言いすぎだろ!先輩達は十分強かったじゃないか!」
「・・・でも、ジンの奴、全然余裕そうだぞ?」
「・・・。」
ジンが上位弟子達の不甲斐無さに怒っていると思う周囲の弟子達。だが、ジンは怒ってなどいなかった。
(・・・しまった!調子に乗って全員倒してしまった!これは、三人生き残ればいい試合だったのに・・・!・・・どうする!?)
上位弟子を全員倒してしまったことに一番困惑していたのは、ジンの方だった。心月舞踊を使って周囲の弟子を一掃することは想定していたが、まさか、全員倒してしまうなど思ってもみなかったのだ。ケンド達も、【超人法】を取り入れた修行を始めてある程度の効果が現れていた。だから、この程度で全滅するとは思っていなかったのだ。だが、これは彼らが弱かったから起こったのではない。ジン自身の実力が、自分が想像しているより高かったのだ。
(参ったな・・・。このままじゃ代表が俺以外いないことになる。・・・どうすればいい?)
どうすればいいか悩むジン。すると、レオンがジンの傍にやってきた。
「ジン、さすがだね。まさか、上位弟子全員を倒すとは。」
「い、いいえ。運がよかっただけです。」
「そうかな?随分余裕があるように見えるけど?」
「・・・ははは。」
(さすがにもう師匠の目は誤魔化せないな。俺が修行している姿をいつも見ていたんだ。今の俺のおおよその実力を把握しているだろう。・・・でも、ならなおさらこんなことをした意味が分からない。)
レオンの真意を量りかねるジン。すると、レオンは弟子達の方を向く。
「皆、今回の剣武会の代表選考だが、このままではジン一人しか出られない。これは非常にまずい。」
レオンの言葉に、ケンド達は複雑な表情を浮かべる。ジンも同様だった。これでは、ハート流は強い弟子が一人しかいないと言っているようなもので、流派の名に傷が付く可能性があるからだった。
「そこで、代表の選考及び、その訓練をジンに一任したいと思う。どうかな?」
「!?」
レオンの言葉に、ジンは今回の選考の真の意味を理解する。レオンは最初から、ジンに剣武会のことを任せるつもりだったのだ。
(でも、そんなことをいきなり言っても反対されるのが関の山だ。だから、俺が上位弟子全員を弟子達の前で倒すことで、反対意見が出ないようにしたのか。)
「・・・問題ありません。ジンに一任します。」
「俺も。」
「俺もです。」
ケンド達は、ジンが代表を決めることに反対せず、レオンの意見に従う。中位弟子以下も、反論する者はいなかった。
「決まりだね。ジン、君の好きにやってみるといい。」
「・・・師匠。本当に俺に任せていいんですか?」
「無論だ。それに、私より君の方が、教えるのがうまそうだしね。」
「俺の方が?」
レオンの意外な言葉に、ジンは面食らう。逆行前、才能のない自分に粘り強く教えてくれたのは、レオンだった。だから、ジンはレオンを剣士としてだけでなく、指導者としても尊敬していたのだ。
「・・・前々から思っていたんだ。私は、どうも人に教えるのが苦手のようだ。」
「そんなことありません!師匠は指導者としても優秀です!」
「・・・本当に優秀なら、剣武会で万年最下位にはならないはずだ。」
ジンの言葉をレオンは否定する。だが、ジンは納得がいかなかった。
「剣武会でハート流が勝てないのは、何も師匠一人の責任では・・・!」
「ありがとう。でも、残念だけど私が指導者として未熟なのは事実だ。私がしっかりしていれば、最下位から抜け出せているはずだ。」
「・・・師匠。」
「それに、敗れたとはいえ、彼らは私が教えていた時より確実に強くなっている。私では、こうはいかなかった。・・・ジン。私の直弟子にならなくてよかったかもしれない。君のその才能を、潰してしまったかもしれない。」
「・・・。」
レオンのあまりにネガティブな言葉に、ジンはかける言葉がなかった。こんな弱音を吐くレオンを、ジンは見たことがなかった。
「私には、いや、ハート流歴代の剣聖の多くは、人を育てる力が致命的に欠けているようだ。私もその一人だ。・・・始祖ツルギや開祖ハートに合わせる顔がない。」
「・・・。」
ジンは、レオンの悩みを今更ながら知り、恥ずかしく思っていた。逆行前のジンは、強くなれない自身に絶望し、脱却しようと躍起になってばかりで、レオンが悩んでいることに全く気付かなかったのだ。
(師匠が、そこまで弟子を育てることに悩んでいたなんて・・・気付かなかった。あの時の俺は、自分のことで手一杯だったからな。・・・でも、考えれば当然か。万年最下位から抜け出せないなんて、責任感の強い師匠なら責任を感じるに決まっている。・・・よし!)
レオンの切実な悩みを知り、ジンは決心した。レオンの提案を受けることを。
「・・・分かりました。やってみます。」
「ありがとう、ジン。」
(予定とは少し違うけど、恩返し第一弾の開始だ。剣武会で最下位から脱出・・・いや、優勝する!)
師匠の期待に応えるべく、ジンは剣武会優勝を目標に掲げるのだった。
「・・・。」
一方、フィアは、ジンの強さにただただ感動していた。
(・・・凄い。あれだけの人数をもろともしない実力、戦いのうまさ、どれをとっても文句の付けようがない。・・・いつか、私もあんな風に・・・!)
いずれはジンのように強くなるのだと、フィアは改めて決意するのだった。




