第55話 四流派の黒歴史
別に中二病みたいな意味ではありません。
「剣聖祭まであと二ヵ月となった。そろそろ剣武会に参加するメンバーを決めようと思う。」
訓練場に集まった弟子達に対し、レオンはそう告げる。弟子達は、レオンの言葉の意味を理解しているのか、どこか緊張した面持ちだったが、何も知らないフィアは、訳が分からないといった顔をしていた。
「・・・ジン、すまないが、剣武会とは何だ?」
「剣武会は、剣聖祭のメインイベントとも言える出し物だ。簡単に言えば、四流派対抗の試合をするんだ。」
「試合?」
「フィアは、四流派の歴史についてどこまで知っている?」
「・・・【四落の変】までは勉強した。」
「そうか。実は、この剣武会は、その【四落の変】が原因で行われるようになったんだ。」
四流派の門主は、設立して数代は開祖の子孫が務めていた。だが、代を重ねるうちに、ツルギの言った四流派は力を合わせよという理念は失われていった。子孫達は、自分こそがツルギの正統な後継者であると考えるようになり、四流派は対立するようになっていった。最初は弟子同士の小競り合い程度だったが、徐々にそれは大きくなっていき、そして、七代目の代でとうとう全面戦争にまで発展した。その争いは、四流派の人間はおろか、無関係な民間人まで巻き込むほど凄惨なものであった。これにはツルギの威光により今まで干渉してこなかった王国も無視はできず、王国軍の総力をもって四流派を制圧した。
最終的に当時の国王は、四流派の門主及び、民間人に手をかけた弟子達を全員処刑、それ以外の弟子も、多くを厳罰に処した。そして、この騒動に関与しなかった穏健な門主の血縁者が門主に据えられた。更に国王は、四流派を王国が直接管理することとし、門主も世襲ではなく、国王が任命するものとした。
この一連の事件を【四落の変】と呼び、四流派はおろか、クレス王国最大の汚点とも言われるようになった。
だが、時が経ち、四流派はまた争い合うようになっていった。争いを止められないというのは、人の悲しい性であると言えた。もっとも、さすがにかつてのような直接的な争いはしなかった。この頃には、国の管理がかなり緩和され、門主の国王の任命も事実上形骸化されるまでになっていた。そんな状態で、再び目を付けられるようなことをするほど馬鹿ではなかった。【四落の変】の失敗は、彼らに理性的な行動を取らせていた。門主達は、どうやってかつての轍を踏まずに序列問題を解決するか考えた。そこで彼らは、【四落の変】が起こる少し前まで行われていた、剣聖祭のある出し物に目を付けた。
「【四落の変】が起こる前、四流派の代表三名が剣技を人々に見せ合う出し物があったんだ。当時の四流派の門主は、それを剣術の試合にすることで、決着を付けることにした。それが、剣武会だ。」
「つまり、それぞれの流派の代表三人が試合形式で勝負することで、どの流派が一番か決めることにしたのか。」
「そうだ。だから、剣聖祭は四流派にとって、単なる始祖を称えるためだけでなく、自分達の流派の名を懸ける大事なものでもあるんだ。」
「なるほど。で、ハート流の戦績はどんな感じなのだ?」
「・・・。」
フィアの質問に、ジンは何も言わなかった。いや、弟子達にどこか不穏な空気が漂う。
「・・・何故黙るんだ?」
「・・・。」
「私が説明しよう。・・・ハート流は、万年四位だ。」
弟子達が言わない中、レオンはフィアに、ハート流の戦績を言う。
「!四位!?つまり、最下位というのか!?」
「・・・フィア、もう少し小さい声で言ってくれないか?」
「俺達だって気にしていることなんだぞ。」
ハート流のあまりの戦績に思わず大きな声で叫んでしまうフィア。弟子達は、恥ずかしそうにフィアに小さな声で言うように言う。
「・・・すまない。・・・それで、本当なのか?万年最下位なのは?」
「・・・ああ。剣武会が始まってしばらくは、どの流派も実力が拮抗していたから、ハート流も戦績はよかった。一位になっていたこともあったらしい。・・・だが、次第に他流派は、入門を希望する弟子に多額の金銭を要求して、それを元手に弟子を強化していったんだ。」
「しかも、入門した弟子達は、貴族や金持ちの子供が多かったから、偉い人間に対するコネもあるんだ。それを使って、普通では手に入らないような薬や武器を手に入れているんだ。」
「・・・金にものを言わせて強くなるとは。恥ずかしい奴らだ。」
「フィア。それは違うぞ。確かに、三流派は金にものを言わせているが、それだけでハート流の先輩達より強くなることはできない。それに加えて、ちゃんと鍛錬を積んでいるから強いんだ。そこは間違えたら駄目だ。」
「・・・。」
憤慨するフィアを、ジンは窘める。フィアは不満気だったが、怠けているわけではないのなら、文句は言えなかった。
(・・・まあ、身体は強くなっても、心の鍛錬は不十分みたいだけどな。だから、実力に反して人々からの人気がないんだ。)
「・・・話が逸れてしまったね。では、改めて、今回の剣武会に出るメンバーを決めたいと思う。」
レオンは、話を本題に戻した。その言葉に、弟子達は再び緊張した空気に変わる。だが、ジンはそこまで緊張はしていなかった。
(・・・確か、上位弟子同士で総当たりの試合をして、上位三名がメンバーになるんだったな。ケンド先輩は確実として、残りは誰になるんだろうな?)
「師匠、今回も今まで通り、総当たりで決めるんですか?」
「・・・いや、今回は少し変えようと思う。」
「変える?どうやるんですか?」
「上位弟子全員でジンと戦ってもらう。」
「・・・え?」
「・・・え?」
レオンの突然の発言に、その場にいる全員が困惑する。当然、ジンも、いや、ジンが一番困惑していた。
「・・・今、何て言ったんだ?」
「ジン一人対上位弟子全員?何かの冗談だろう?」
「・・・師匠、私の聞き間違いですか?私達全員でジンと試合をするようにと言われたような・・・?」
「聞き間違いではない。上位弟子全員でジンと戦ってもらう。それで、最後まで残っていた三名をメンバーとする。」
「!?」
レオンのとんでもないメンバー決めに、弟子達はおろか、ジンも動揺するのだった。




