第54話 始祖の剣聖と四剣聖の起源
「はあ、はあ・・・。ふう。」
「凄いぞ、フィア。これだけ持続できれば実戦で使えるぞ。」
フィアがハート流道場に来て一週間が経った。最初の頃は、すぐに魔力切れを起こして倒れていたフィアだったが、今では長時間身体強化がかけられるようになっていた。そのおかげもあって、彼女の戦闘力は、ジンと出会った時より上がっていた。
「・・・でも、君にはまだ及ばない。」
もっとも、ジンにはまだ勝てなかったが。
「仕方ないだろう。俺は何年もこれを続けているんだ。比較する方が間違いだ。」
「・・・そうだな。私は、まだ始めて間もないからな。」
「でも、自分を卑下しなくていい。フィアは十分成長している。道場の弟子達よりも早いくらいだ。この調子でいけば、俺を追い越すのも時間の問題だな。」
「・・・そう言ってくれると嬉しいな。」
ジンに褒められ、フィアは満更でもなさそうに微笑む。
「じゃあ、次はそれを抑制に使うんだ。俺の修行は、それが狙いだからな。」
「・・・分かった。魔力が回復したら、やってみる。」
「お~い、ジン。」
そこに、弟子の一人がやってきた。中位弟子の一人で、ジンはあまり会話したことはなかったが、懸命に修行している姿をよく見かけていた。
「先輩、何ですか?」
「ジン。師匠が訓練場に全員集合するよう言っている。お前もすぐ来い。」
「全員集合?」
「たぶん、剣聖祭の話だ。」
「!分かりました。すぐ行きます。」
「急げよ。・・・はあ、今年はせめて最下位は避けられるといいな。」
伝言を伝えた弟子は、何かを呟きながらその場を去る。
「・・・そうか、そろそろだったな。」
「・・・ジン。剣聖祭とは何だ?」
聞き慣れない単語に、フィアは首を傾げながらジンに尋ねる。
「剣聖祭は、始祖の剣聖ツルギの誕生日に催される王都の祭りだ。」
「始祖の剣聖ツルギ・・・クレス王国建国者の一人だな。帝国でも有名だ。」
今でこそ四人いる剣聖だが、最初から四人だったわけではなかった。
始祖の剣聖ツルギ。建国王クレスの幼馴染にして、建国の英雄の一人である。このツルギこそ、最初の剣聖であり、人々は四剣聖と区別するために始祖の剣聖と呼んでいる。
その実力は、クレスはおろか他の建国の英雄達を凌ぎ、幾度となくクレスの危機を救った。国の歴史書にさえ、ツルギの存在無くしてクレスは王になれなかったと書かれるほどだった。
そのようなこともあって、クレスも彼が王になるべきだと言うほどだった。それは、他の英雄達も同意見だった。だが、彼は権力や栄達に一切興味はなく、王になることを辞退、クレス王国が建国した後は、クレス達とは距離を置き、どこにも属さない自由な立場で剣を振るい、多くの人々を守った。それは、クレス王国以外の国の人々も例外ではなかった。そのため、英雄譚は他の英雄より圧倒的に多く、他国にさえ彼の英雄譚があるほどである。現在でも、ツルギは多くの人々に人気があり、クレス王国でもクレス以上に人気があるのだ。ジンもまた、ツルギのファンの一人であり、彼が剣聖に弟子入りしようと考えたのもそのためだった。
「帝国どころか、他の国でもツルギの名前は知られているだろうな。」
「失礼だな。名前以外も知っている。彼は、初代四剣聖の師でもあるだろう。」
「そうだ。彼の弟子が、現四流派の開祖になったんだ。」
ツルギには四人の弟子がいた。猪突猛進に皆を引っ張るスペード、冷静沈着で皆を纏めるダイヤ、遊び心を忘れない皆のムードメーカークローバー、慈愛で皆を包み込むハート、四人とも、才能に溢れ、人格も申し分ない人間であり、誰が後継者になってもおかしくなかった。その上、弟子達は互いを尊重し、自分より他の弟子の方が後継者に相応しいと思うほど互いを尊敬し合っていた。
ある時、ツルギは弟子達を呼び、後継者を指名した。てっきり、誰か一人が選ばれるかと思われたが、なんとツルギは、彼ら全員を自身の後継とした。これには彼らも驚いたが、ツルギは彼らにこう告げた。
「お前達は、互いに欠けているものがある。だが、力を合わせればそれを補い完璧となる。故に、お前達四人を後継者とする。私の言葉を忘れることなく、これからも共に力を合わせよ。」
四人はそれを聞き入れ、ツルギの後継者となることを了承した。そして、ツルギは自身の剣術を分けるような形で彼らに継承させた。それは、彼らの得意な形であった。スペードには力の剣術を、ダイヤには守りの剣術を、クローバーには技の剣術を、ハートには心の剣術を継承させた。そして、それを終えた彼は、弟子達はおろか人々の前からも姿を消し、二度と現れることはなかった。その後の記録は一切残っておらず、ツルギのその後は現在も歴史家の議論の種となっている
そして、後継者となった四人は、ツルギの意思を継いで人々を守り、弟子を育てた。これが、後の四剣聖と四流派の起源である。
「ツルギは四流派にとっては開祖の師であり、王国一の英雄だ。だから、四流派にとってツルギを称えるこの祭りは、特に力を入れているんだ。金にがめつい他の三流派も、この祭りにはかなり出資するらしい。だから、規模も大きくて盛大になるんだ。建国祭より盛大なんじゃないかと言われることもあるくらいだ。まあ、さすがにそれは誇張だろうけど。」
「それは面白そうだ!」
ジンの言葉に、フィアは、年相応に目を輝かせる。
「フィアは、祭りが好きなのか?」
「ああ。特に、民が催す祭りが好きだ。よく、お忍びで参加していた。」
「そうなのか。なら、きっと気に入ると思うぞ。」
「どんなものなのだろうな?今から楽しみだ。」
無邪気にそう言うフィアに対し、ジンはどこか浮かない顔をしていた。
「・・・まあ、四流派にとってはただの祭りじゃないけどな。」
「え?どういうことだ?」
「・・・行けば分かるさ。」
含みのある言葉と表情を浮かべながら、ジンは集合場所へと向かう。フィアは、訳が分からないといった様子でジンを追いかけるのだった。




