第53話 子供らしからぬ子供
「はあ、はあ、はあ・・・!」
「・・・嘘だろ・・・?」
「・・・もう・・・無理だ・・・!」
ケンド達は、くたびれた様子でその場に座り込んでいた。一方のジンは、全身が棍棒で叩かれ続けたことで痣だらけになっていたが、まだ余裕がある様子だった。
「・・・ありがとうございました。では、今日はこのくらいで。」
そう言うと、ジンは用意していたポーションを飲む。ジンの身体中の痣が、みるみるうちに消えていく。
(・・・もう少しやりたかったが、これ以上は、ケンド先輩達の方がもたないな。)
結局、ジンはケンド達から叩かれる修行を長時間に亘って続けた。ジンは、身体が痣だらけになるまで叩かれると、ポーションを飲んで治し、再び叩かれるといった修行を繰り返した。あまりの凄惨さに、フィアはその場から逃げてしまうほどだった。
「・・・ジン。お前、よくこんな無茶苦茶な修行思い付くな。」
「そうそう。こんな風に自分を痛め付ける修行なんて、考える奴はいないぞ。」
「そうですか?俺の知っている人間は、もっとヤバいくらいやっていましたけど?」
「そいつがおかしいだけだ!いや、そもそもお前よりおかしい奴がいるのか!?」
ジンの修行内容の厳しさに、ケンド達は苦言を呈するが、ジンはさらりとこれ以上に厳しい修行を行っていた人間がいたと言い、ケンド達をドン引きさせた。
「・・・それより、フィアはどこに行ったんですか?」
「彼女なら、外で身体強化の訓練をしている。・・・さすがにあの光景は、キツかったんだろう。」
「あれくらいで?意外だな。」
フィアに暴力に対して耐性がないことに、ジンは意外がる。だが、ケンド達は、フィアの気持ちが理解できていた。彼らもこの訓練は、説明された時には引いてしまい、やっている際も、体力の消耗より精神的疲労の方が大きかったのだから。彼らは、好き好んで無抵抗の人間に暴行するような人間ではないのだから、当然である。
「・・・なあ、ジン。彼女は何者なんだ?お前は誰か知っているんだろ?」
弟子の一人が、フィアについて尋ねる。レオンは、彼女は武者修行をしている身寄りのない人間で、行く当てがないため預かることにしたとしか言わなかったのだ。だが、身のこなしや仕草から、ただの孤児ではないと弟子達は直感していた。そして、どう見てもジンと親しそうに見えたため、ジンの関係者だろうと弟子達は予測していた。
「・・・俺も詳しくは。外で修行していた時、偶然出会ったんです。それだけです。」
ジンは、少々の嘘を交えてフィアのことを話す。だが、弟子は納得しておらず、なおも食い下がってきた。
「にしては親しそうだったぞ?」
「一度手合わせして、アドバイスしただけです。それ以上は何もありません。」
「アドバイスってなんだ?」
「俺はフィアに、才能はあるが、実戦経験と単純な身体能力が足らないと言っただけです。事実、彼女は凄く強いですが、経験を含めれば、先輩達に劣っていると言わざるを得ません。それを指摘しただけです。」
ジンは、アドバイスしたことに関しては、嘘なく答えた。事実、彼女の未熟な点を指摘しただけだったのだから。だが、やはり納得できなかった弟子は、更に食い下がる。
「・・・本当にそれだけか?」
「?はい。他に何を話すんですか?」
「・・・いや、他にあるだろう。あんなに可愛い女の子なんだから。男なら、興味の一つや二つ、持つだろう?」
「・・・そうですね。彼女には興味がありますね。このままちゃんと足りないところを補うことができれば、どれくらい強くなれるか楽しみです。たぶん、俺より強くなれると思います。」
「・・・。」
あまりに自分の考えていることとズレたジンの発言に、話を振った弟子は戸惑う。フィアは、年上の自分が見ても美少女である。なら、彼女と同い年であるジンが興味を持たないはずがない。そう思っていたのに、ジンは、彼女の可愛らしさや美しさより、彼女がどんな風に強くなるのかしか興味がない様子だった。とても、子供の発想とは思えなかった。
「・・・お前、本当に十二歳か?俺がお前くらいの歳は、可愛い子を見てニヤニヤしていたっていうのに。」
「すみません。フィアにはそういった感情が湧かなくて。・・・そもそも、湧く方が問題あるかと。彼女は、修行のためにここにいるんですから。」
「・・・。」
真顔で正論を言うジン。話を振った弟子は、ジンの発言に更に困惑してしまう。やはり、子供の発言とは思えないものだったのだから。
「でも、どうしてそんな話を急に?」
「・・・いや、お前とフィアが男女の関係と思ってな。」
「それはあり得ませんよ。彼女はまだ、十二歳ですよ。俺と同い年じゃないですか。それに、俺と彼女は修行の時にたまたま出会ったんですよ。どうやってそんな関係になるんですか?」
「・・・そうだな。あり得ないよな。」
「!まさか、先輩は年下好きだったんですか?だから、そんなことを?」
「!お前、そうだったのか!?」
ジンの何気ない発言に、他の弟子達が話を振った弟子に疑いの眼差しを向ける。
「・・・あの、先輩。もしそうだとしたら、やめてくれませんか?彼女は真剣に強くなるためにここにいるんです。そんな不純な気持ちを向けるのは・・・。」
「そんなわけないだろう!俺は十七だぞ!十二歳の少女をそんな目で見るわけないだろ!政略結婚する貴族だって、義務で結婚しても欲情はしないだろう!俺も同じだ!彼女をそんな目で見てはいない!」
話を振った弟子は、自分はフィアを性的に見てはいないことを慌てて伝える。
「俺は、お前とフィアがあまりに親しいように見えたから、実は顔見知りなんじゃないかと思っただけだ!勘違いするな!」
「すみません。」
「・・・まあ、お前がそういうのでないのは分かった。だから、この話はおしまいだ!」
弟子はそう言うと、この話をこれで終えようとした。他の弟子達も、それ以上は追及することなく、この話は終わるのだった。
しかし、ジンと彼の話を静かに聞いていたケンドは、ジンの異質さが気になっていた。
(・・・しかし、ジンは強くなること以外に興味がなさすぎる気がするな。私達のような修行者ならいざ知らず、まだ十二歳の少年があそこまでストイックなのは変だ。・・・何が、あの少年をあそこまで駆り立てるんだ?)
ジンの子供らしからぬ打ち込み様に、ケンドは疑問を覚えるのだった。




