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第50話 グランドドラゴン現る

今回は、逃げるのが目的で戦いはありません。戦闘を期待していた方は、申し訳ありません。

 「どこまで行くんだ!?」

 「この森から離れるんだ!・・・いや、森から離れても安心できない!王都に行く!」


 フィアを伴い、ジンは森を走っていた。師匠や強い人間がいるであろう王都に向かって。だが、一人ならいざ知らず、フィアを連れている状態では思ったほど速くは移動できず、王都に着くどころか森を抜けることさえできていなかった。その間にも、足音は二人の後ろから聞こえてきた。


 (まずい!距離が離れるどころか縮まっている!このままじゃ、追いつかれるぞ!)

 「な・・・なあ、君!・・・私達は・・・何に追いかけられている?・・・大型の魔物と言っていたが・・・どんな魔物なんだ?」

 「・・・分からない。・・・ただ、最低でも準上級の魔物の可能性が高い。」

 「!準上級・・・旅団級だと!?滅多に現れる魔物ではないはずだ!」

 「ああ!だから、焦っている!ここでも出てきて中級クラスが関の山だ!準上級なんて、普通は出てこない!」


 魔物は、脅威度が一段階上がるだけで強さが大きく異なる。準上級の強さは、ベオンはおろか、あのドレクでさえ敵わないほどである。つまり、もし追いつかれてしまえば、ジンとフィアは、確実に殺されてしまうだろう。仮に生き残れたとしても、逆行前のフィアのように重傷は避けられない。


 (・・・駄目だ!逃げ切れない!せめて、彼女が身体強化を使えれば・・・!)

 「・・・!あれは・・・!?」

 「!こいつは・・・!」


 逃げる二人の視界に、その魔物が姿を現す。それは、まるで山のように巨大な四足歩行の蜥蜴とかげのような魔物だった。その魔物を見たフィアは、絶望した表情を浮かべる。


 「・・・ドラゴンだ・・・!」


 ドラゴン。魔物の中でも最強の存在であり、最低でも上級は下らない魔物である。その強さは、一言で言えば天災であり、あの成体のフェンリルさえ凌ぐ個体も存在する。そんな規格外な魔物故、討伐に成功すれば、ドラゴンスレイヤーとして名前が残るほどで、ジンの知る英雄も、その称号を持つ者がいた。


 「・・・最悪だ・・・!まさか、ドラゴンに追われているなんてな・・・!」

 「・・・いや、ラッキーだ!俺達は運がいい!あれは、グランドドラゴンだ!上位竜ならともかく、あいつなら、まだ逃げられる可能性もある!ツイている!」


 ドラゴンと一言で言われるが、厳密には大きく二種に分類されている。知能が高く、神話に出てくるような存在である上位竜、強大ではあるものの、知能はその辺にいる魔物と大差のない下位竜、この二種に分けられている。

 上位竜は、生まれたばかりの幼体ベビーはともかく、若い個体レッサーでも準上級の強さを誇り、成体グレーターとなれば上級以上であり、そこから更に歳を経れば経るほど力を増していく。おまけに人語を介するほど高い知能を持ち、人間と交渉することも可能である。さらには、人間の姿になることもできる点も、他の魔物と違う点である。世間で知られるドラゴンのイメージは、この上位竜のイメージである。

 対する下位竜は、他の魔物と比べて強力ではあるものの、上位竜と比較にならないほど弱い。幼体の場合は当然として、成体に成長するまでは、よくて中級程度の強さしかなく、成体となっても準上級が限界であり、どんなに歳を経ようとそれ以上強くなることはない。そして、知能も低く、人間と意思疎通を取ることはできず、ましてや人間の姿になることもできない。故に、上位竜からは低く見られている。そして、下位竜も上位竜を恐れ、姿を見れば逃げてしまうほどである。

 だが、それはあくまで竜種の間の話である。人間にとっては、如何に弱いといえども、下位竜は強敵である。おまけに、今自分達を追いかけている魔物は、グランドドラゴンという下位竜の中でも最強と言われる魔物である。

 グランドドラゴン。飛行こそできないが、大きさだけなら上位竜に匹敵する魔物で、得意技は、その圧倒的な質量による打撃攻撃だった。ドラゴンの代名詞とも言うべきブレス攻撃こそ使えないが、その手足や尻尾の一撃は、人間など虫を潰すように圧殺できてしまう。もし、グランドドラゴンに追いつかれれば、ジンとフィアは叩き潰されるか、踏み潰されてしまうだろう。


 「運がいい!?何を言っている!?グランドドラゴンは下位竜最強の魔物だぞ!そんな奴を相手にどうやって逃げられる!?」

 「大丈夫だ!グランドドラゴンなら、この先まで行けば逃げ切れる!」

 「ほ・・・本当か・・・?」

 「ああ!だから、諦めずに走れ!」


 ジンは、フィアに走るよう促す。フィアは、納得がいかない顔をしていたが、今は、ジンを信じる以外になく、従った。

 しばらくして、二人は開けた場所に出る。だが、そこに来た瞬間、フィアは再び絶望する。なんと、逃げた先は崖だったのだ。


 「・・・そんな・・・!」


 逃げ道がなくなり、フィアはその場に崩れ落ちる。だが、ジンは対照的に、笑みを浮かべていた。


 「・・・何とか間に合ったな。」

 「・・・間に合った?ここは行き止まりだぞ!何が間に合っている!?」

 「・・・フィア、お前、泳ぎに自信はあるか?」

 「?・・・何を言って?」

 「時間がないから行くぞ。無理なら俺から離れるな。」

 「!?」


 ジンは、何も理解できていないフィアの手を掴むと、そのまま崖を飛び降りる。突然のことに、フィアは何の反応もできず、落ちてから自分の身に起こったことを理解し、混乱、絶叫する。


 「いやああああああああああ!?」


 二人が崖から飛び降りた同時に、グランドドラゴンの巨大な前足が、二人がさっきまでいた場所に降ろされる。グランドドラゴンの前足は、何もない地面を潰すのだった。

実は、フィアは身体強化が使えません。なのにあの強さだから、彼女は天才なのです。

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