第51話 生還した二人
「・・・ふう。何とか助かったな。」
ジンとフィアは、王都付近を流れる川を漂っていた。
「・・・ジン。君はなんて無茶をするんだ・・・。」
フィアは、不満げにジンを睨む。
「仕方ないだろう。あいつから二人揃って逃げるには、この方法しかなかったんだ。」
ジンは、何の考えもなしに崖から飛び降りたわけではない。実は、あの崖の下は、人が簡単に流されてしまうほど大きな川が流れていたのだ。ジンは、そこに飛び込むために、あえて崖から飛び降りたのだ。
もっとも、いくら川があるからといって、あの高さから落ちてはただでは済まないはずである。だが、ジンは【超人法】で鍛えてきたこと、そして、落下する瞬間に身体強化を全身にかけることで、ダメージをほとんど受けなかったのだ。その際、フィアを抱き寄せ、彼女がダメージを受けないようにするのも忘れなかった。おかげで二人は、グランドドラゴンから五体満足で生き延びることができたのだ。
「・・・それは分かる。・・・しかし、何故、グランドドラゴンは追ってこなかったんだ?あれだけ私達を追いかけていたというのに?」
「ああ。グランドドラゴンは、水が苦手なんだ。だから、川に入れば追ってこれないんだ。」
フィアの疑問に、ジンは簡単なことのように理由を話す。ジンは、逆行前の知識から、グランドドラゴンは水が苦手で、水辺には近付かないことを知っていた。だから、あの逃げ方を選んだのだ。
だが、フィアはジンの言葉に困惑する。
「水が苦手!?だが、土の属性を持つ魔物は、水に強いんじゃないのか?いくら私が疎いとはいえ、属性の常識は心得ている。」
「・・・別にグランドドラゴンは、土属性じゃないぞ。あいつは、ただデカいだけの下位竜だ。」
「!?そうなのか!?てっきり、土属性の魔物とばかり・・・。だって、グランドと呼ばれているから・・・。」
「グランドのグランドは、土じゃなくて、デカいって意味だぞ?」
「!?・・・そうなのか?」
「ああ。確かに、奴はデカくて力も耐久力もあるが、悪い言い方をすればそれだけだ。空は飛べないし、ブレスも使えない。だから、本来なら下位竜でも下の部類に入るはずなんだ。でも、グランドドラゴンは、巨大になって単純に強くなることで、そういった点を補ったんだ。似たような下位竜のリトルドラゴンは、下位竜最弱と呼ばれているからな。」
「?ブレスが使えない?」
「?何当たり前のことを言ってるんだ?グランドドラゴンは、ブレスが使えない下位竜だぞ?水嫌いもそうだが、そこも運がいいと言った点だ。あれが、グレーターワイバーンなら、さすがに逃げ切れなかった。水が苦手じゃないし、空も飛べる上に、ブレスも撃てる。そっちの方が厄介だった。本当に運がよかったよ。」
「・・・ブレスが使えない竜がいるのか?ブレスは、竜の代名詞だろう?使えないものがいるなんて聞いたことがないぞ?」
「・・・何でそんなこと言うんだ?知識を知る術を知らない平民ならともかく、貴族なら知ってて当然のことじゃないのか?」
ジンは、フィアの知識の偏りに疑問を抱く。グランドドラゴンの名前もどのくらい強いかも知っていたのに、水辺が苦手でブレスが使えないという生態をまるで知らないのだから。それどころか、下位竜の中にブレスが使えないものがいることさえ知らなかったのだ。教育を受ける機会がない平民ならいざ知らず-逆行前の知識があるジンは例外-、貴族が知らないなど、ジンは考えられなかった。
「・・・!まさか、兄達のせいでそういったことを学ぶ機会すらなかったのか?」
「いや、安心してくれ。兄達が妨害したのは武芸に関してだけだ。勉学に干渉はしてこなかった。」
「・・・じゃあ、どうして?」
「・・・私は、魔物についてはほとんど学ばなかったんだ。特に、重要だと思っていなかったから、後でやればいいと思って・・・あまり勉学は・・・。」
「・・・。」
冷遇されていたことが原因かと思っていたジンは、安心すると同時に、フィアの無学に呆れた。彼女が逆行前に悲劇に見舞われた理由は、天才故の経験不足や兄達の妨害だけではなかったのだ。彼女が知識を得ることを軽視していたこともその一因だった。
それに気付いたジンは、やや間を置いてフィアに言う。
「・・・フィア。お前は身体を鍛えるのと同じくらいに、勉強した方がいいと思うぞ。寧ろ、勉強の方が重要だ。腕っぷしが強いだけじゃ、帝国を変えるどころか、当主になるのも無理だぞ。」
「うぐ!?」
「第一、俺がいなかったらお前、今頃グランドドラゴンに殺されていたぞ?あんな逃げ方、思い付く以前に考えることさえできなかっただろう。知識がなかったんだから。魔物はいつでも、力だけで倒せるわけじゃないんだ。格上相手と戦うなら、頭を使わないと触れることすらできないぞ。」
「ぐう!?」
ジンの容赦ない指摘に、フィアは苦しそうな顔をする。フィア自身、勉学を疎かにしていたことは気にはしてはいたが、こう面と向かって言われたのは初めてだったのだ。
「・・・まあ、それはこれからやっていけばいい。まだ時間はあるんだ。」
「・・・分かった。王都に戻ったら、王立図書館にでも通うことにする。」
「それがいい。・・・それはそうと、お前、寝る所とかはどうするんだ?旅費はあるだろうけど、王都の宿は高いぞ?とても長期間滞在は・・・。」
「?それは、野宿でもしようと・・・。」
「・・・マジか?」
フィアが想像以上に世間知らずであることに、ジンは思わず愕然とするのだった。




