第35話 一番弟子との手合わせ
「では、これよりケンドとジンの手合わせを行う。」
大勢の門下生が見守る中、ジンとケンドは木刀を手に対峙する。
「勝敗は、一本を取るか、負けを認めるか、動けなくなることで決める。それでいいかな?」
「構いません。」
「俺もいいです。」
「よし。それでは始め!」
レオンの開始の合図と共に、真っ先にジンは仕掛ける。ジンは、一気に間合いを詰めると、ケンドの首元を狙って木刀を振り下ろす。
「甘い!」
だが、ケンドはそれを軽く払い除けると、今度は自身がジンに木刀を振り下ろす。
「!」
ジンはそれを軽く身体を動かして躱すと、再度攻撃を仕掛ける。だが、ケンドはそれも防ぐ。
それからは、互いに一歩も引かない戦いが続いた。ケンドはジンの攻撃を巧みに防ぎ、ジンはケンドの攻撃を華麗に躱す。それの繰り返しだった。
「・・・師匠。あの新入り、凄いですね。ケンドさんと互角にやり合っています。」
「俺達じゃ、十回ももたないのに、ジンはニ十回以上もやり合っています。師匠の言っていた通りですね。」
「・・・。」
だが、レオンは弟子達とは全く違う感想を抱いていた。
(・・・まだ実力を隠しているとは思っていたが、やはりそうだったか。一見すると互角だが、実際はジンの方が上だ。ケンドは受けているが、ジンは躱している。つまり、攻撃に反応する速度は、ジンの方が上だ。・・・あの時は、少し贔屓目の評価をしたつもりだったが、間違っていなかった。ジンは、私の弟子達よりも強い!このまま打ち合っても、ケンドは負けるだろう。)
一方、手合わせしているケンドの方も、ジンの凄まじさを感じていた。
(・・・これは予想以上だ!私の攻撃が、掠りもしないどころか平然と躱されている!このまま続けていれば、私の方がやられる!・・・本気でかからなければ・・・!)
ケンドは、ジンから距離を取ると、突きの構えを取る。
「!まさか、ケンドさん、ハート流剣技を!?」
「新入りに相手に剣技を使うなんて!正気か!?」
ケンドがハート流の剣技を使おうとすることに、門下生達は動揺する。いくらジンが強いとはいえ、正式な修行をしたことのない人間である。しかも、これは単なる手合わせにすぎないのだ。なのに、流派の剣技を使うなど、普通は考えられないことだった。これでは、実力の拮抗した門下生同士の稽古となんら変わらなくなってしまう。だが、レオンや上位弟子達は、ケンドの判断を正しいと考えていた。ジンの実力なら、これに対応できると。
「・・・ハート流剣技、心天突破!」
心天突破。突破と名の付く通り、神速の突きを敵に打ち込む剣技である。真剣で使えば、相手は回避もできずに身体を貫かれてしまうだろう。木刀であっても、大怪我は免れない。それほどの速度と威力の突きである。
(・・・来たな!心天突破!)
だが、ジンはそれに余裕で反応し、躱してみせた。
「!?」
ケンドの繰り出した必殺の一撃を、ジンが悠々と回避したことに、見ていた門下生達は驚愕する。
「嘘だろ!?初見であれを躱すか!?」
「あり得ない!ケンドさんの心天突破を躱せる人間なんて、この道場じゃ師匠だけだぞ!他の上位弟子だって無理なのに!しかも、初見で!?」
「ジンって奴、凄いぞ!」
門下生達は、ただ驚愕するだけだったが、レオンや上位弟子達の反応は違っていた。
「・・・師匠。気のせいでしょうか?ジンの動き、まるで、ケンドの使う技が分かって躱したように見えたんですが・・・?」
「・・・気のせいではない。ジンは、心天突破が繰り出されるのを分かって躱した。・・・何故かは分からないが。」
「・・・師匠。ハート流剣技を彼に見せましたか?」
「・・・見せたものもあるが、心天突破は見せていない。だから、私も驚いている。」
「・・・天才か。」
そして、ジンに技を回避されたケンドもまた、この事態に動揺していた。
(・・・あり得ない!ハート流剣技を知らないはずの人間が、何故、あそこまで綺麗にか躱せる!?)
「・・・。」
そんな周囲を尻目に、ジンは突きの構えを取る。
「!まさか・・・!」
「・・・ハート流剣技・・・心天突破!」
ジンは、ケンドに向けて心天突破を放つ。ケンドは、その光景が信じられず、反応が遅れた。ジンの木刀は、ケンドの喉元で止まった。
「!!!」
「・・・一本です。」
「・・・そこまで。勝者、ジン。」
レオンは、ジンの勝利を宣言する。門下生達は、その光景にどよめく。
「・・・あの新入り、ハート流剣技を一目見ただけで使ったぞ!」
「マジかよ・・・!心天突破はそこまで難しくはないとはいえ、俺でも一週間はかかったのに・・・!」
「・・・天才だ・・・!ジンは天才だ・・・!」
門下生達は、一目見てケンドの技を使ってみせたジンを天才と称する。一方、ジンはその評価を複雑そうに聞いていた。
(・・・一目見て使えたわけじゃない。俺は、元々、ここの流派で修行していた。だから、この流派の技は、どれも分かっていた。使えて当然だ。・・・もっとも、ここまで使いこなせたのは、【超人法】で鍛えたおかげだけどな。)
「・・・ジン。君の力はよく分かった。・・・完敗だ。」
ケンドは、ジンに、自身の敗北を認める発言をする。
「・・・運が良かっただけです。あそこまでうまく返せるとは、自分も思ってはいませんでした。」
「あまり謙遜しなくてもいい。そもそも、君の実力なら、私の技を返さなくても、勝てたはずだ。もっと自信を持つといい。」
「・・・ありがとうございます。そう言ってもらえると、自信が付きます。」
「だが、私もこのまま負けっ放しで終わるつもりはない。次は、必ず勝つ。」
「・・・俺も負けません。」
ジンとケンドは、固い握手を交わす。それを見た門下生達は、拍手で彼らを称えるのだった。
それを見ていたレオンは、門下生達の様子を見て満足気だった。
(・・・この少年の存在が、彼らにいい刺激を与えてくれそうだ。彼を連れて来たのは、正解だった。・・・しかし。)
だが、同時に、ジンをどのように導くべきかという問題も浮上してきた。他の弟子達と一緒に修行させるにしては、あまりにも力に開きがありすぎたからだ。
(ハート流剣技を一見しただけで使ってみせたその才能、上位弟子を遥かに凌ぐ実力。このまま単に修行させたとしても、大した成長は見込めないだろう。・・・さて、どうしたものか。)
レオンは、ジンの今後の指導方針を大いに悩むのだった。




