第34話 ハート流道場
「ここが、私の道場だ。」
ガンツの店を出、ジンはとうとうレオン-正確には、ハートの称号を持つ者-が門主を務めるハート流道場に到着した。
(・・・懐かしいな。いや、逆行後の俺に取っては初めてか。)
ジンの脳裏に、逆行前の記憶が過る。村から出、剣聖の許に弟子入りを希望するも、ことごとく断られ、途方に暮れていた時、偶然歩いていたレオンと出会い、一縷の望みを賭けて頼み込み、ハート流の門を潜ったその時の光景が。
(あの時は、お情けだった。・・・でも、今回は違う。師匠直々に選ばれてここに来たんだ。堂々として入っていいんだ。)
「大きい道場だろう。でも、これでも四剣聖の道場の中では一番小さいんだ。」
「聞いたことがあります。一番大きいのが、ホーク・スペードのスペード流で、次点がタトル・ダイヤのダイヤ流、三番目がベアー・クローバーのクローバー流だと。」
レオン以外の剣聖も、レオン同様に道場を持っている。そして、そこで自身の後継者を育成しているのだ。一番規模が大きいのがスペード流で、毎年百人を超えるほど希望者が殺到していた。かく言うジンも、逆行前は最初にスペード流を訪れていた。
「その通り。特に、スペード流の道場には、強い人間がいっぱいいるんだ。でも、私の門下生も決して負けてはいないよ。」
(・・・そう。師匠の弟子達は弱くはない。それは事実だ。・・・でも、剣聖兄妹が出てくるまで、ハート流は最弱の流派と馬鹿にされていたんだ。)
ハート流は、規模こそ小さいながらも、腕の立つ門下生がたくさんいた。同時に彼らは、困っている人達を助けることを積極的に行っていたことから、王都の人々からの評判はよかった。
だが、他流派の門下生と比べると実力は低く、人々の評判と実力が反比例しているという悲しい状況に陥っていた。そうなってしまった理由は、資金力の差だった。入門希望者から多額の金銭や珍しい品々を要求している他の道場は、それを元手に門下生を強化していたのだ。金銭を要求せず、更には自身が稼いだ資金も大半を寄付してしまうレオンの道場が後れを取るのも当然だった。
(・・・他の道場は、金の力で高価な修練用の設備や人員を用意したり、能力を上げる秘薬や強い武器を買って門下生に与えていた。だから、それができない師匠の道場は、差を埋めることができなかった。圧倒的な才能を持つ剣聖兄妹が来たお陰で、ようやくひっくり返せたんだ。・・・でも、今回は違う。俺の作った【超人法】をうまく利用して、門下生の実力を上げてこの道場を四大道場一の道場にする。師匠への恩返しの一つ目だ。)
「では、入るとしよう。君のことを、皆に紹介しないといけない。」
「・・・はい。」
レオンとジンは、道場の門を潜るのだった。
「師匠、お戻りになられたのですね。」
門を潜り、道場に入ったレオンとジンを、一人の門下生が駆け寄って出迎える。ジンはその人物に見覚えがあった。
(・・・ブドー先輩だ。逆行前、入門したばかりの俺の面倒を見てくれた人だ。確か、この頃はまだ入門二年目だったはずだ。)
「ああ、今帰ったところだ。道場の方に変わりはなかったかな?」
「はい、何も問題ありません。」
「そうか、よかった。・・・至急、門下生達を訓練場に集めてほしい。新しい弟子を紹介する。」
「・・・この子供が、師匠の言っていた面白い子供ですか?」
ブドーはレオンの隣にいたジンを見る。
「は・・・初めまして。・・・ジンです。」
「初めまして。ブドーです。君の先輩になる人間なので、これからよろしく。」
「は・・・はい。」
ジンは、初対面であるよう装ってブドーに挨拶する。逆行前はともかく、今は初対面なのだ。
「では、一足先に訓練場に行くとしよう。ジン、こっちだ。」
「はい。」
ジンは、レオンに連れられ、訓練場へと行く。もっとも、仮に案内されてなくとも、ジンは一人で行けるのだったが。
「皆に紹介しよう。新しくここで修行する仲間だ。」
それから十分後、ジンは訓練場にて、大勢のハート流門下生の前にいた。門下生の中には、知っている者もいたが、知らない者も大勢いた。本来なら、三年後に来るのだから、知らない人間がいるのも当然だった。
「初めまして、ジンです。これからよろしくお願いします。」
「よろしく、ジン。私は、師匠の一番弟子のケンドだ。門下生達を代表して歓迎しよう。」
門下生の一番前にいた男性が、自分の名前を名乗るとジンに笑顔を浮かべて言葉をかける。
(・・・ケンド先輩。剣聖兄妹がいなければ、次期剣聖とまで言われていた人だ。・・・ブドー先輩同様、いっぱい世話になった人でもある。でも、他流派の門下生と合同で強い魔物の討伐に行った時、報酬に目が眩んだ連中に裏切られて死んでしまったんだ。・・・逆行前は、仇を討つことしかできなくて、恩を返せなかった。でも、今度こそは・・・。)
「ありがとうございます、ケンド先輩。」
世話になったにもかかわらず、恩も何も返せなかった無念、今度はそうはさせまいという決意を抱き、ジンはケンドに謝辞を述べる。
「師匠、今回は師匠が直々に迎えに行ったようですが、その子はどれくらい強いのですか?」
そんな時、門下生の一人が、ジンの強さをレオンに尋ねる。
「彼は、この歳で大の大人と戦える強さだ。上位弟子クラスだよ。」
「上位弟子?じゃあ、ケンドさん達と同じくらい強いんですか?」
「さすがに信じられません。」
「ふむ。・・・なら、実際に手合わせしてみれば分かるだろう。ケンド、相手をしてくれるかな?」
「はい。」
「ジンもいいかな?」
「はい。俺の方からお願いしたかったくらいです。」
レオンは、ジンの強さを弟子達に知ってもらうべく、ケンドとの手合わせを提案する。ジンとケンドは、快くそれを承諾するのだった。




