第36話 レオンの提案
「ジン。君の今後について話がある。」
手合わせ終了後、ジンはレオンの部屋に呼ばれていた。レオンは、ジンに今後の修行方針をどうするか相談すべく、ジンを呼んだのだ。
「私自身が手合わせしていたけど、今回のケンドとの手合わせで確信した。君は、下位弟子から始めるのは免除しようと思う。」
「・・・下位弟子・・・。確か、入門したばかりの門下生ですね。なら、俺は中位弟子からですか?」
「いや。君は、私が直々に修行を付けようと思う。」
「・・・それって、上位弟子と同じ扱いということですか?」
「いや、君には、次期剣聖候補として修行を付けようと考えている。」
「ええ!?」
レオンの言葉に、ジンは驚愕する。
レオンが門主を務めるハート流の門下生は、四つに分けられている。入門したてから二年目の門下生である下位弟子、入門三年目以降の門下生である中位弟子、レオンが特に資質有りと判断し、直々に指導を受けられる上位弟子、そして、次期剣聖として、レオンから秘伝まで伝えられることが許される直弟子、この四つである。
レオンも、全ての弟子に、直接教えているわけではない。中位弟子以下は、基本的には上位弟子が教えており、レオンが直接教えているのは、上位弟子以上なのだ。
逆行前のジンは、中位弟子止まりであったが、皆伝前の二年ほど、特例として、レオンが直々に指導していた。だが、これは才能があったからではなく-そもそも、才能があれば、上位弟子になっていた-、熱意がありながら、才能がないジンに、レオンが同情してのことであった。そんなジンを、門下生の一部は否定的に見ており、ことあるごとに追い出すよう言っていた。幸い、上位弟子はジンの熱意を理解しており、その度に彼らを窘めていたが、ジンにとって、それは本当に悔しいことだった。
(・・・確か、この時期はまだ、師匠は直弟子を取っていなかった。一応はケンド先輩を考えていたけど、まだ尚早として、正式に認めてはいなかったはずだ。でも、まさか、俺が選ばれるなんて。・・・逆行前は、才能もないくせにハート流にしがみ付いている恥晒しと馬鹿にされていた中位弟子だった俺が、直弟子?・・・夢みたいな話だ。)
ジンは、あまりの提案に戸惑っていた。直弟子は、単なる弟子ではない。レオンから秘伝を伝えられるだけではなく、レオンの補佐をしたり、彼が不在の時は、レオンの代理として流派を纏める役割も担う。つまり、剣聖と同等の扱いを受けるのだ。その代わり、責任も大きくなるが。レオンは、そんな重要な弟子を、入門したばかりの自分に任せようと言っているのだ。ジンでなくても、驚愕、困惑するであろう。
「君は、普通に修行するよりも、私が教えた方が伸びるだろう。それに、君の腕前なら、将来は私の跡を継いで、剣聖になることもできるだろう。」
「・・・でも、剣聖の任命は、国王の命令が必要だと・・・。」
「一応はね。でも、実際は剣聖の指名した人間を、国王が正式に任命するんだ。だから、事実上剣聖を選ぶのは、剣聖本人なんだ。」
「そうなんですか・・・。」
(・・・まあ、知ってたけどな。国王の任命は、あくまで形式だけだ。師匠が選んだら、九分九厘その人物が剣聖になる。)
「君は、少々危なっかしいところもある。けど、しっかりと修行すれば、どこまでも伸び得る人間だ。私は、そう信じている。どうかな、ジン?私の直弟子になるのは?」
「・・・。」
レオンの期待に満ちた眼差しに、ジンは、少しすまなさそうに思う。本当なら、その座には、相応しい人間がいるのだから。
(・・・本来なら、直弟子になるのは剣聖兄妹だ。彼らが剣聖となったことで、剣聖の改革が行われ、強さだけではなく、人格面でも立派な人間が剣聖になれた。それによって、今まで以上に多くの人を救えるようになった。・・・魔族の侵攻さえなければ、もっと大勢の人々を救えただろう。・・・そんな二人の功績を、俺が横取りしていいのだろうか?)
ジンは、自分がその地位を得ることに抵抗を覚えていた。逆行前の記憶と知識をもってすれば、剣聖兄妹以上の功績を打ち立てることも可能かもしれない。だが、それで本来活躍することになる英雄の誕生や機会を奪うことを、ジンは好しとは思えなかった。
(それに、俺の目標は、英雄に取って代わることじゃない。英雄達と並び立つことだ。確かに、剣聖の称号は憧れるけど、俺の目標とするものと違う気がする。・・・なら、直弟子になるという提案は断るべきだろう。)
未来の英雄のため、そして、自分の目指す英雄像のため、ジンは、レオンの提案を断ることに決めた。
「・・・すみません。直弟子になる提案をお受けすることはできません。」
「・・・何故だい?」
ジンの言葉に、レオンは困惑する。
「まず、新入りが今までの弟子を差し置いて直弟子になるなんて、体裁がよくないと思います。いくら実力があるとはいえ、俺はまだ、何の実績もない人間です。そんな人間を選んだということで、師匠が非難されるかもしれません。それに、このハート流には、長年師匠を支えてきた弟子達がいるはずです。その弟子達が、いきなり田舎から出て来た人間に直弟子の座を取られたなんてことになれば、不満が出ると思います。最悪、ハート流が分裂する可能性もあります。そんなこと、俺は望みません。」
「・・・なるほど。」
「・・・それに、師匠には悪いと思っていますが、俺は、剣聖になるつもりはありません。」
「・・・。」
「俺がなりたいのは、もっと別の、説明するのは難しいんですけど、剣聖とはまた別のものなんです。もちろん、剣聖は立派な存在ですし、憧れです。でも、俺のなりたいものとは違うんです。・・・すみません。」
「・・・。」
レオンは、少し考え込むと、いつものような穏やかな表情に戻り、口を開く。
「・・・分かった。直弟子の件はやめておこう。確かに、君の言う通りかもしれない。」
「・・・すみません。折角の提案を・・・。」
「いや、私の方こそ、すまない。先走るようなことをしてしまったからね。君の言うことはもっともだ。・・・しかし、そうなると参ったな。君の修行をどのように付けるかだ。直弟子でない以上、君に剣聖の秘儀を教えることはできないし・・・。だからと言って、上位弟子程度の修行で君を伸ばせるかどうか・・・。」
「師匠、それに関して、俺から提案があるんですが、いいですか?」
「提案?」
「・・・俺が村の森で偶然見つけた修行法、ハート流の門下生に試してみませんか?」




