第28話 世界を裏から支配した男
「ご助力感謝します。まさか、剣聖殿とそのお弟子さんに助けていただけるとは・・・。」
ドレクを倒し、盗賊団を壊滅させたジンとレオン。護衛の傭兵の隊長は、二人に感謝の意を伝える。
「礼には及びません。人として当然のことをしたまでのことです。」
「いいえ、あなたとお弟子さんが来なければ、我々はあの悪魔のような男に弄ばれ、依頼人も死んでいたでしょう。感謝してもし足りません。」
「なら、私よりジンに伝えるべきでしょう。私は、彼の手柄を横取りしたようなものです。」
「そんなことはないです。師匠があいつを倒してくれなければ、俺達もあの馬車にいる人も殺されていました。師匠の手柄です。」
ジンは、手柄を横取りしたと言うレオンの言葉を否定する。レオンがいたからこそ、ドレクを倒すことができたことは事実なのだから。
「まったく君は・・・。」
「隊長!」
そこに、傭兵の一人が、被害の報告にやって来る。
「こちらの被害は、負傷者が大勢出ましたが、死者はいません。依頼人も無事です。」
「よかった・・・あれだけの数を相手に、死人がでなかったのは奇跡だな。・・・いや、剣聖殿のお弟子さんのおかげだな。」
「はい。剣聖様!お弟子様!どうもありがとうございます!」
傭兵は深々と頭を下げる。それを見て、ジンは彼らを助けることができたと改めて実感し、安堵するのだった。
「・・・あなた方が、私達を助けてくれた方々ですね。」
すると、ジン達の許に、眼鏡をかけた男性が、小さな少女を伴ってやってきた。男性は温和そうな人物で、側にいる少女はジンと同い年くらいに見えた。
「剣聖殿、こちらが私達の依頼人、アレン・ワンダース様です。隣のお嬢様は、ご令嬢のアリア様です。」
「初めまして、レオン・ハートです。ご無事で何よりです。」
「いいえ、あなた方が来なければ、私も娘共々殺されていたでしょう。重ね重ね感謝します、剣聖様。」
アレンと名乗る男性は、隊長と同様にレオンとジンに感謝の意を伝える。側にいる娘も、父親の後ろに隠れながらだが、レオンとジンにお礼の言葉を述べる。
しかし、ジンは男の名前を聞き、驚愕していた。
(・・・アレン・ワンダースだって?アレン・ワンダースと言えば、ワンダース商会の会長じゃないか!)
ワンダース商会。逆行前の時間では、大陸中の商人の頂点に立ち、経済界を支配していた超巨大商会である。その力たるや、国王や皇帝にさえ影響力を持つほどだった。だが、元々はそこまで大きな商会ではなく、会長アレン・ワンダースの手腕により、そこまでの急成長を遂げたのだ。
(・・・確か、アレン・ワンダースは若い頃、商談の帰りに盗賊に襲われて、その際一緒にいた娘を連れ攫われ、自身も重傷を負ったはず。・・・そうだった!その盗賊の頭がドレクで、ドレクを倒すために膨大な私財を投じて討伐隊を組織したんだった!)
逆行前の記憶を辿り、ジンはアレン・ワンダースのことを更に思い出す。
アレン・ワンダースは、優れた商人であると同時に、家族想いな人間で、妻と娘をとても愛していた。だが、たまたま娘を連れて行った商談の帰りにドレクに襲われ、護衛は皆殺しにされ、娘を攫われた挙句、自身も死ぬ一歩手前になるほどの重傷を負ってしまった。
運よく通りかかった行商人に助けられた彼は、金と人脈を駆使して娘の居場所を探したものの、娘は奴隷として売り飛ばされ、ようやく見つけた時には廃人となっており、救出後一年も経たずに治療の甲斐なく死亡した。彼の妻も、娘を攫われたことで病気がちとなり、娘の後を追うように亡くなった。
家族を奪われたアレンの怒りは凄まじく、天文学的な資金を投じて幾度も討伐隊を組織してドレクに向かわせ、最終的にドレクを討ち取ることに成功した。
皮肉にも、娘を救うため、家族の仇を取るためという目的が、アレンの商人としての才能を開花させ、一代にして、平凡な商会を世界の経済界を牛耳る大商会へと成長させた。ドレクを討伐できたのも、それによって得た膨大な資産があればこそだった。
だが、同時に彼は、金を儲けるためならどのような手段も厭わなくなっていた。非合法な組織と結託して商売敵を破滅、殺害したり、奴隷を手に入れるため金に困る人間に法外な利息で金貸しを行い、返せなければ奴隷にするという違法なことをしたりと、枚挙に遑がない。それは、ドレクを討ってからも変わることはなかった。家族を失ったことで、彼の心は壊れてしまったのだ。
結果、彼は多くに人々から恨みを買うこととなったが、誰も彼を裁くことはできなかった。王であっても例外ではなかった。国家予算をも超える資産を得ていた彼は、経済ばかりか様々な分野にも影響力を持っていたため、どんな悪事を働こうと手を出すことができなかったのだ。
しかし、そんな彼も、ある日ようやく報いを受けることとなった。彼のあくどい手段で自殺に追い込まれた商人の子供によって、暗殺されたのだ。この暗殺に関しては、他にも協力者が大勢いたようで、犯人の子供がアッサリと目的を果たした上、大した罪に問われなかったことがそれを裏付けていた。かくして、家族を失ったことで復讐に燃え、そのために多くの人々を食い物にして、裏から大陸を支配するまでになったアレン・ワンダースは、自分の手で家族を奪われ復讐に燃える子供に討たれるという皮肉な末路を迎えたのだった。
余談だが、家族を失った彼は、その後結婚することはなく、生涯独身を貫いたが、そのせいで跡継ぎがおらず、後継者を指名することもなかったため、彼の死後に遺産を巡る醜い争いが起き、ワンダース商会は消滅することとなった。
(・・・まさか、こんなところで未来の世界を牛耳る大物と出会えるとはな。・・・師匠に連れ出してもらってよかったかもしれない。)
もし、自分が十五歳になるまで村にいたとしたら、その間野放しのドレクによって大勢の人々が苦しんでいただろう。いや、ドレクよりも別の意味で恐ろしい怪物が生まれて、もっと多くの人々が苦しんだかもしれない。そう思うと、ジンは自身を連れ出してくれた師匠に改めて感謝するのだった。
「それにしても、あんな強い盗賊に襲われるとは思いませんでした。念を入れて、傭兵ギルドでも腕の立つ方々を雇ったのですが・・・。」
「申し訳ありません。我々の力が及ばず・・・。」
「アレンさん。ドレクは例外です。あの男は、天才と言われた剣士で、奥義の使い手でした。彼らが弱かったわけではありません。彼らを責めないでください。」
「そんなことはしません。寧ろ、感謝しています。彼らがいたからこそ、私も娘も助かったのです。ありがとうございます。」
「・・・いえ、助太刀してもらったのですから、力が足りないのは事実です。申し訳ありません。」
アレンは、傭兵達や隊長にも頭を下げ、感謝の意を伝える。対する隊長は、自分達の力のなさを素直に認め、アレンとレオンに謝罪するのだった。
「頭を上げてください。結果としてアレンさんを守ることができたのですから。」
「・・・ありがとうございます。そう言ってくださると、少しは救われます。」
「ところで・・・剣聖様はこれからどこへ行く予定なのですか?」
「弟子と共に王都に戻る予定です。」
「それは丁度よかった。剣聖様、どうか王都に着くまでの間、我々の護衛を引き受けてはいただけませんか?」
「護衛ですか?」
「また、ドレクのような化け物が襲ってくるかもしれません。それがなかったとしても、ここまでボロボロの彼らに無理をさせるのは危険です。」
「・・・確かに。」
レオンは傭兵達の様子を見る。死者こそいないものの、傭兵達の多くは負傷し、護衛を満足にできそうな者は僅かであった。
「どうでしょうか?行き先が同じであれば、その間だけでも護衛を引き受けてはいただけませんか?もちろん、お礼はします。どうか、お願いできませんか?」
「分かりました。護衛を引き受けましょう。」
「ありがとうございます。」
「ジン。彼らと共に王都に行くことにする。構わないね?」
「はい。大丈夫です。」
「では、剣聖様。よろしくお願いします。」
レオンとジンは、アレンの護衛を引き受けることに決め、彼らと共に王都に向かうことになった。




