第26話 剣豪盗賊ドレク
「・・・お前、バサカ流のドレクだろう。」
「む?」
ジンは、自身の推察した頭目の名前を彼に告げる。それを聞いた頭目は、攻撃を一時中断する。もっとも、すぐに攻撃できる体勢は維持したままだったが。
「・・・小僧、俺のことを知っているのか?」
(・・・やっぱりか。こいつは剣豪盗賊と呼ばれた男、ドレクだ。バサカ流でも一、二を争うほどの腕前で、次期継承者と目されたほどだったが、民間人を修行と称して殺害したことから破門され、盗賊団の頭になった経歴の奴だ。こいつによって、多くの罪もない人間が殺されたはずだ。)
ただの盗賊ではなく、剣を修めた、しかも腕前も一流の剣士となれば、【超人法】で鍛えた今の自分でも勝てる自信はジンにはなかった。事実、ドレクを倒すための討伐隊は十回以上組まれたが、悉く失敗し、ようやく成功したのも、達人達が大勢集められ、かなりの死傷者を出しての成功だったからだ。そんな怪物相手に勝てると思えるほど、ジンは自信過剰ではない。
(・・・今の俺では勝てないな。・・・でも、負けることはない!・・・それまで俺が耐えられればの話だが。)
だが、ジンには一つだけ勝算があった。そのためには、時間が必要で、それまで自分が耐え切れるかということが問題だった。だからこそ、少しでも時間を稼ぐべく、ジンはドレクに自身の知る彼のことを話すことにした。
「・・・ああ。ちょっと小耳に挟んだことがな。天才と言われ、バサカ流の継承者と謳われながら、何の罪もない人間を試し切りに使って追い出された、殺人鬼だってな。」
「・・・ああ、あれか。」
「それだけの腕を持ちながら、何で盗賊なんてやっている?真っ当な手段で稼ぐこともできるはずだ。」
「小僧、お前は勘違いしているな。俺は、金も欲しいがもっと欲しいものがあるんだよ。」
「・・・もっと欲しいもの?」
「俺は・・・。」
「隙あり!」
そこに、傭兵の隊長が切りかかる。だが、ドレクはつまらなさそうに大剣を振るうと、隊長の剣は粉々に砕け散ってしまう。その様子に、隊長は唖然となり、動きが止まってしまう。
「!?」
「隊長!」
「わ・・・私に構うな!守りを固めろ!」
駆け付けようとする部下を隊長は制する。一番腕の立つ自分がこの様では、部下達では相手にならないのは目に見えていた。それに、依頼人の護衛が最重要なのである。最悪、自分を見捨てて依頼人を連れて逃げるという選択肢も必要なのである。そのためにも、部下には生き残ってもらわなければならないのだ。
「・・・また手加減したな・・・!いや、私との戦いでは常に手加減していたな!その油断が命取りになるぞ!」
「油断?俺は油断なんてしていない。お前達なんて、一人で十分殺せるから遊んでいるだけだ。」
「遊ぶ?」
「隊長さん、この男は、弱い者を甚振って殺すことを好む、生粋の殺人鬼です!」
「何だと!?」
「・・・何だ、分かっているんじゃないか。その通りだ。俺は、殺すこと自体が好きなんだよ。自分より弱い奴を痛め付けて殺すこと。これが、俺の一番の目的だ。」
「!」
それを聞いた隊長は、目の前の男の異常性に恐怖を覚える。今まで自分を抑えていたのは、手下に馬車を襲わせるためだとばかり思っていたが、奴にとってそれはおまけであり、本当の目的は自分を玩具にするためだった。傭兵として、いろんな敵と対峙したが、こんな異常な人間と出会うのは初めてだった。
「俺は、人殺しがしたくて剣を学んだ。強ければそれだけ大勢の人間を殺すことができる。俺に敵う奴がいなくなるんだからな。あの人を切る感覚・・・堪らないぞ?」
(・・・逆行前の情報通りだな。こいつがバサカ流を修めたのは、あくまで人殺しの手段を得るためだった。こいつの悪行と、ケジメを付けに来た師匠である門主が返り討ちにあったせいで、バサカ流は廃れたんだ。)
「だから、殺しも金も両方手に入る盗賊になったのか。」
「ああ。弱い者虐めができて、殺しもできるし金も手に入る。最高じゃないか。」
ドレクは顔を歪めて笑う。その笑顔は、あまりに醜悪なものだった。
「・・・異常者が・・・!」
「小僧。お前は中々やるな。子供とは思えないほどだ。どこかの流派の門下生といったところだろう。だが、俺に勝つにはまだまだ足りないな。」
「じゃあ、俺も甚振って殺す気か?そこの隊長さんのように。」
「・・・いいや、お前はもう殺す。何か、嫌な予感がする。」
「・・・できるのか?俺に一発も当てられないのに?」
「・・・お前に見せてやるよ。俺の本気をな!」
ドレクはジンを殺すべく、大剣を構える。その構えには、今まで感じた遊びはなかった。
(・・・俺を危険だと感じて遊びなしでくるな・・・!)
ジンは、ここからが正念場だと感じ、構えを取るのだった。
「光栄に思いな!俺が技を見せるのは、俺が本気で殺すと決めた時だけだ!」
ドレクは、嫌らしい笑みを浮かべると、ジンに切りかかる。その速さは、先ほどの速さの比ではなかった。
「!」
(バサカ流剣術剛速斬!)
ジンは、ドレクの使った技を理解し、防御の構えを取る。ドレクの大剣が、ジンの剣とぶつかり合う。
「ぐぅ!」
剣を通してジンに強烈な衝撃が走る。思わず剣を離しそうになるが、ジンは必死で耐える。
「ほう・・・こいつに反応するか・・・!・・・なら、こいつはどうだ!?」
自身の剣技を止められたドレクは、また別の剣技で攻撃する。それは、単なる刺突に見えたが、ジンはそうではないと知っていた。
(バサカ流剣術三撃衝!)
三撃衝とは、バサカ流の刺突技で、大剣から繰り出す高速の三段突きである。あまりの速さに、敵は一発しかこないと錯覚するほどである。
だが、ジンはこそ攻撃も回避する。スレスレだったが、何とかジンは避け切るのだった。
「なら、こいつでどうだ!」
突きの体勢から、ドレクはさらに剣を押し込んでジンを切ろうとする。だが、ジンはこれも剣でいなすと、ドレクと距離を取る。
(・・・三撃衝から繰り出す反攻撃!三撃衝がかわされたら使う定番だ・・・!)
(・・・こいつ!俺の剣をここまで・・・!)
自身の自慢の剣を防がれ、ドレクは顔を顰める。どの攻撃も、必殺のものだったからだ。
(は・・・速い!攻撃が・・・見えない・・・!)
一方、隊長は、ドレクの攻撃が全く見えず、驚愕する。同時に、そんな攻撃を防ぎ、かわしているジンに敬意のようなものを覚える。
(・・・あんな子供が・・・信じられない。・・・天才だ!あんな子供がいたなんて・・・!)
こんな驚異的な戦いを繰り広げるジンを、隊長は天賦の才の持ち主だと思うが、実際はそうではない。ジンがドレクの攻撃を耐えられるのは、逆行前の知識と、長年培ってきた経験によるものである。
ドレクの流派であるバサカ流をジンは知っていた。どのような技を使うかも。だからこそ、構えでどの技か理解できるのだ。
だが、それだけでは完璧ではない。常に格上と戦ってきたからこそできる立ち回りもそれを助けていた。ジンは、自分は強敵相手に勝てないことを自覚していた。だからこそ、仲間が助けに来るまでの時間稼ぎのため、勝てなくても負けない戦いを心掛けるようになったのだ。攻撃に対する防御から回避、攻撃の威力を殺すなど、防御に徹する戦いを身に付けていたのだ。それらは強敵相手との戦いでは重宝し、弱いジンが生き残ることができた最大の要因だった。もっとも、脅威ランク最上位の魔物といったあまりに実力差がありすぎる相手には通用しなかったが。
そして、これらと同じかそれ以上にジンが戦えたのは、やはり【超人法】による修行であった。幼い頃から【超人法】によってしっかり身体作りをしていたからこそ、知識や経験を最大限に活かすことができたのだ。
(身体強化をかけたとしても、【超人法】がなければこうもいかなかったな。技が分かっていても、身体が反応できないんじゃどうしようもなかった。本当に、強くなったものだな・・・。)
状況はよくないというにも関わらず、ジンは笑みを浮かべていた。それを見たドレクは、逆に不機嫌になる。
(この小僧・・・!俺相手に笑ったな・・・!許さん!俺が上!他の奴は下だ!この小僧は絶対殺す!)
今まで多くの人間を弄び、殺してきたドレクにとって、こんな拮抗した状況になるのは初めてだった。しかも、子供相手にである。おまけに笑われたことで、ドレクの怒りは徐々に高まっていく。
「小僧!ならこの技を見ても、そんな風に笑えるか!?」
ドレクはまた違った構えを取る。その構えを見たジンは、顔が強張る。
(・・・あれは、バサカ流の奥義!あいつ、こいつで勝負を付けるつもりだな!)
「こいつはバサカ流の奥義、大切断だ!こいつは防げまい!」
ドレクは大剣を振り下ろす。すると、大剣から凄まじい剣圧が放たれ、ジンに向かっていく。
「!?飛ぶ斬撃だと!?こんな技も使えたのか!?」
隊長は、ドレクの強さに改めて戦慄する。飛ぶ斬撃は、達人の証。傭兵でもそれは常識である。そして、傭兵の中でも使えるのは限られた一握りの人間だけである。そんな達人の技を使うことができる盗賊が目の前にいることに、隊長は心底恐怖する。
「!少年!逃げろ!あれは無理だ!」
だが、今死にそうなのは、自分ではなく、助けに来た少年であることを思い出した隊長は、ジンに逃げるよう促す。
「・・・。」
(・・・大丈夫だ・・・これに関しても・・・対処はできる・・・!)
ジンは、自身も飛ぶ斬撃を放つ。ジンの斬撃が、ドレクの放った斬撃に衝突する。
「何だと!?」
「あの少年も、飛ぶ斬撃を!?」
これには隊長、そして、ドレクも驚愕する。こんな子供が達人の技を使えるなど、想像だにしなかったからだ。
(・・・だが、俺の奥義は止められん!その程度の斬撃、弾き返してやる!)
しかし、自身の奥義に絶大の自信を持つドレクは、勝利を信じて疑わない。事実、ジンの飛ばした斬撃は、徐々に押されていく。
「ははは!やはり俺の方が上だったな!」
「・・・。」
斬撃は、そのままジンに押し返されていく。そして、ジンを吹き飛ばしてしまう。吹き飛ばされたジンは、地面に倒れ込んでしまう。
「!少年!」
「はん!手こずらせやがって!」
倒れ込んだジンに止めを刺すべく、ドレクはジンに近付く。
「やめろ!」
それを止めんと、隊長は予備の剣で切りかかる。
「失せろ!」
だが、ドレクは苦も無く隊長を切り払う。隊長は剣で攻撃を止めるも、呆気なく飛ばされてしまう。
「ぐう!?」
「そこで大人しく見ていろ!お前は後で、たっぷり遊んでやる!」
隊長を退けたドレクは、ジンの許に着く。
「・・・大切断まで使わせたことまでは褒めてやる!お前は天才だ!だが、俺と会ったことが不運だったな!自分の不運を呪って死んでいけ!」
ドレクは勝ち誇ると、ジンに大剣を振り下ろそうとする。
「・・・ああ。お前は本当に不運だよ。・・・俺一人なら、勝てたのにな。」
「何?」
ジンの言葉の意味が分からないドレクは、剣を振り下ろすのを止めてしまう。そこに、凄まじい速さで何かが剣に衝突する。ドレクは予想だにしない攻撃に体勢を崩し、ジンから離れてしまう。
「!?何だ!?」
「・・・私の弟子に・・・手を出さないでもらおうか・・・?」
「!?」
「・・・師匠・・・待ってました・・・。」
ジンの側に、いつ現れたのか、一人の男がいた。その人物こそ、ジンが今まで負けない戦いを続けていた理由、剣聖レオン・ハートだった。




