第22話 レオンの怒り
「・・・凄い・・・これが、村の守り神・・・!」
「カッコいい!」
『ははは、やめてくれ。照れるではないか。』
村に無事に戻れたジンは、ベオンのことを村の人達に紹介する。最初はベオンに怯えていた村人達だったが、ジンの説明-自身がベオンを倒そうとしたことは伏せた-と、倒したレッサーフェンリルの死骸を見たことで不安が解け、すっかりベオンは村人達から受け入れられていた。ベオンは、大人達からは守り神として称えられ、子供達からはヒーローのように扱われていた。ベオン自身も、満更ではなさそうで、子供達とじゃれ合っていた。
「それにしても、よくこんなデカい魔物に勝てたな。ベオン様より大きいぞ、こいつ。」
『私もどうしようもないと思っていた。だが、こいつは奴の気に引き、私に攻撃するための隙を作ったのだ。その甲斐あって、奴を倒すことができたのだ。そうでなければ、今頃屍となっていたのは、私の方だ。』
「俺は、足を止めて頭を殴っただけだ。倒したのは、ベオンがいたからだ。」
『謙遜するな。貴様が奴の足を折らなければ、私は勝てなかった。それは事実だ。』
「そうだぞ。お前はもっと、自分を誇ったっていいだろう。」
「こんな凄い魔物を倒したんだ。お前は絶対に大物になれるぜ。」
「頑張れよ、未来の英雄。」
「・・・。」
村人達に褒められ、ジンは恥ずかしそうに頭をかく。
そんなジンに、レオンが近付いてくる。
「・・・ジン君。一ついいかな?」
「?はい、レオンさん。・・・!」
「・・・。」
ジンは、レオンの顔を見て表情が強張る。レオンは、無表情でレオンを見ていたのだ。ジンは、レオンがこんな顔をするのはどんな時か理解していた。怒った時である。
「ジン君。君が強いのはよく分かったよ。あのベオンというレッサーフェンリルと協力して、あんな大きなレッサーフェンリルを倒すなんて、凄いことだ。君の強さは、子供離れしている。・・・でも、あくまで子供レベルでの話だ。本当に強い大人と比べれば、遥かに及ばない。勝手にこんな危険なことをするのは感心できないね。」
「・・・。」
レオンは落ち着いた、それでいてどこか有無を言わさぬ雰囲気で、ジンを窘める。傍から見れば、淡々と注意されているようにしか見えないが、怒られているジンは、怒りを露わにして怒られている時よりも緊張していた。
「何とかなったからよかったけど、本当ならレッサーフェンリルは、腕の立つ大人が大勢で討伐しなければならないほど危険な魔物なんだ。子供が戦いを挑んでいい魔物じゃないんだ。」
「・・・。」
「もし、君に何かあったら、君の両親や村の人達が悲しむことになるんだよ。分かっているかい?」
「・・・ごめんなさい。」
ジンは、深々と頭を下げる。レオンが怒るのも無理はないとジンは分かっていた。
逆行前も、レオンはジンが危険な修行を行って怪我をした際、こんな風に怒っていた。だが、それは偏にジンを心から心配しているからである。心配する気持ちと怒る気持ちが混ざり合い、こんな表情になってしまうのである。知らない人間が見たら、変に思うかもしれないが、ジンはレオンが、自分のことを思って言ってくれていることを理解していた。
「・・・でも、君の村を大切に思う気持ちはよく分かったよ。ただし、私には相談してほしかったかな。」
「・・・ごめんなさい。・・・今度からはそうします。」
「よろしい。」
「・・・。」
ジンが心底反省している様子に、レオンはそれ以上何か言うことはなかった。
だが、ジンは、今回の件に関しては、譲るつもりはなかった。
(・・・ごめんなさい、師匠。・・・でも、こればかりは俺がやりたかった。・・・あいつがあの時のレッサーフェンリルなら、なおさら。)
あの時の悲劇は、ジンの脳裏に今でも刻み込まれていた。だからこそ、自身の手で食い止めたかったのだ。口に出すことはないが、ジンは今回の件をレオンに相談しなかったことを反省はしつつも後悔はしていなかった。
「・・・それで、君はこのレッサーフェンリルの死骸をどうする気だい?」
「肉は、ベオンにあげます。そういう約束なので。俺は、牙と心臓をもらいます。あとは、村のものでいいです。」
「ジン。毎度聞くが、お前は少し欲張ってもいいと思うぞ?よく知らん俺でも、フェンリルがウルフより金になることは分かる。せめて、金にしてお前と村で半分・・・いや、お前が七割が妥当だと思うぞ。」
ジンの取り分が少ないように感じたストロンは、もっと取るべきだとジンに言う。
「十分です。俺はお金より、牙の方がよっぽど欲しいです。」
「牙を?確かに売れば金にはなると思うが・・・。」
「お金じゃなくて、武器にするんです。強い魔物の牙は、いい武器になるので。」
「・・・。」
お金より強い武器が欲しいと言うジンに、ストロンは相変わらず変わっているな、思うのだった。
一方、レオンはジンの判断を感心していた。
(・・・確かに、こんな小さな子供が大金を持っていたら、面倒なことになるだろう。それが分かっているから、自身は多くをもらわないというわけか。それよりも、自分の身を守れる武器の方がいいとは・・・子供の考えとは思えない。本当に不思議な子供だ。)
レオンは、ジンの考えを子供らしからぬものだと感じ、感心する。当然である。ジンは、身体は子供だが、記憶や経験はレオン以上なのだから。
「ジン君。牙を武器にしてもらうのはいいけど、職人に当てはあるのかい?」
「え?・・・あ。」
ジンは、そのことを失念していた。今更思えば、ジンはその手の職人についての情報はあまり詳しくなかった。腕のいい職人の武器を持てる人間ではなかったからだ。一応、有名どころの職人の名前は知ってはいたものの、この時期では、その多くがまだ子供だったり、未熟で武器作製を任せられるほどではなかった。数少ないできる人間に頼むとしても、今の自分はただの村の子供である。依頼する伝手もないのだ。
「・・・いいえ。・・・そもそも、職人の名前も知りません・・・。」
「それなら、私の方で頼んでおくとしよう。腕のいい知り合いがいるんだ。」
「・・・それならお願いします。」
ジンは、武器のことはレオンに任せることにするのだった。




