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意外と知らない北欧神話   作者: アイスの棒
永き冬
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78話 危機


部屋には多くの人がいた。忙しなく動き、しきりに何かを囁きあっている。


「ここはどこ?」

「俺たちの拠点だ。自由の要塞(バルバトス)とか呼ばれてるな。こっちだ、来てくれ」


レイは周りをゆっくりと観察しながらついて行った。人々は様々な種類の服装をしていた。服だけではない、精悍な顔つきの男、眼を滾らせた女、悪戯っぽい表情の子供までいる。やがて一つの部屋にたどり着いた。


「あなた達はここで何をしてるの?」

「言わなかったか?世界を守るための活動だ」


何を馬鹿な--レイはそう言おうとして言葉を飲み込んだ。アキが初めて現れた時も同じようなことを言っていた。そして、あの大侵攻があったのだ。


「待ってくれ、確かに前の戦いで世界は、人間の国(ミッドガルド)は危機に瀕した。だが、乗り切った!守りきったじゃないか!

なのにまだ活動しているということは、まだ続くってこと?魔物の侵攻が?」

「少し勘違いしているようだな、市長。

前回のアレは始まりに過ぎない、いや、始まりですらない。やって来た霜の巨人はたったの一人だった。

もう一度言うぞ、俺たちは世界を守るために動いている。人間の国(ミッドガルド)だけではない、世界だ」


レイは絶句した。始まりですらない侵攻で人類は滅亡しそうになったのだ。今から始まるとする危機は世界をどうしようと言うのだ。


「それは…それはなんですか?いつ始まるんですか!?」

「…預言がある。春の訪れぬ三つの冬の後、太陽と星が消え去り、黄昏が始まると」

「三つの冬…」

「そうだ、既に春はなく、冬が二つ続いている。残された時間は少ない」

「私に…私にどうしろと…?」


レイは震える声で言った。長い冬が始まってから半年は過ぎている。預言を信じるならば、後三ヶ月ほどの猶予しかない。


「巨人の軍が進軍してくるだろう。あんたにやってもらうことは、軍の進路から必要な人間を避難させることだ。能力、地位、性別、生まれ、あらゆる観点から考え、生き残らせる必要のある人物を選別してくれ」

「は…?それはどう言うことですか…?」


アキの言っていることの意味がわからなかった。生き残る人物を選ぶ?それは同時に死ぬ人物を選ばないと言うことだ。


「避難させる者を選べといってるんだ」

「人間を全てを避難させればいいでしょう!何を言ってるんですか!?」

「現時点で予想される巨人の進路全てから人を動かすことはできない。それに魔物だって腹が減るだろう。そうなったらどうなると思う?」


レイは目の前の男が信じられなかった。ありえない、そんな非道なことを本気で言ってるのだろうか。


「貴方は…貴方は残された人間を餌として使うと?魔物の兵糧として残すと!?そう言ってるの!?そんなことは許されない!」

「別にすべての責任を負えと言ってるわけじゃない。あんたがやるのは連邦だけ、それに三大派閥ファンクション所属の人間は他のものがやる」

「それは…それは他の三つの国と派閥も同じことをするように聞こえます!そんなこと了承するはずがない!」

「だが、皆理解した。国王も、皇帝も、巫女も、学長も、司令も、司祭もだ。後は連邦の代表たるあんただけ。無理なら連邦の人間は無差別に死ぬ」


レイは開いた口が塞がらなかった。喉がカラカラに乾く、胸の鼓動が耳の中で大きく聞こえた。


「ありえない、信じられない!それが事実なら、各国の首脳は貴方に従っていることになる。非人道的な行為に手を貸している!」

「もちろんそうだとも、ずっと前から俺たちはトップを抑えていた。人間の国(ミッドガルド)を守るためにな。気づかなかったか?自由の要塞(バルバトス)はずっとここにある。やろうと思えばいつでも攻撃できるはずだ」

「兵舎の部隊が二度攻撃したわ!」

「半年に二回だけか?それに小規模の部隊で何ができると言うんだ。何も知らない兵舎の馬鹿が勝手に動いたんだよ」


レイはそれ以上言い返せず歯軋りをした。憎憎しみを込めて目の前の男を睨みつける。


「貴方は最低よ、貴方に協力する者も最低よ」

「…リストの作成は『虚弱な軍師ウィークネス』セブが手伝う。やる気になったら彼を探せ。この部屋を自由に使って構わない」


アキはそう言い残して部屋を出て行った。レイは扉が閉まる瞬間まで睨み続けていた。

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