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意外と知らない北欧神話   作者: アイスの棒
永き冬
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74話 突撃


「それで…どうだった?」

「作戦開始時刻は明日の○六〇〇時です。首脳達は難色を示しましたが、この作戦以外に勝機はありません。説き伏せましたよ」


アキとセブは城砦群の中央城にある最高司令室へ行って来た。砦の指揮所には『原初の火(オリジン)』の幹部達が集まっている。


「私は突撃部隊との最後の調整を行いますので」


セブが指揮所を出て行った。皆、疲れた顔をしている。途切れることのない魔物の攻撃に疲弊していた。


「今日はできるだけ休もう。明日に備えるんだ」

「敵さんも休憩してくれたらいいのにね」


移動しながらアイリーンが呟くのに、誰も答えなかった。




翌朝、作戦予定時刻まで数分前、アキは物見櫓に立っていた。隣にはスノリとギュルヴィ、そして軍師であるセブが控えている。目の前の戦場は地平線まで魔物に埋め尽くされたままだ。城壁の上では激しい戦闘が繰り広げられている。


「準備はいいか?」

「…はい、いつでも大丈夫です」


スノリが大きく深呼吸して言った。隣でセブが頷いた。


「よし…始めてくれ」


スノリが魔法ルーンを紡ぎ始めた。今までにない、永い詠唱だ。空気が打ち震え、世界が揺らいだ。砦を中心に力が凝縮されていく。


「『魂の楔(ソウラ)』『魔人の王(オーデン)』『雷神の光(トーラ)』…顕現せよ【五筋の天なる聖槍(フィフスグンニグル)】」


打ち上げられた魔力の光は天で五つに分かれた。悪を滅する光の槍が戦場に突き刺さる。砦の前が一掃された。


「よし、突撃だ」


低い角笛が鳴り響いた。城門が開かれ、兵士たちが開けた戦場に躍り出た。そのまま魔物の波の中に突き進む。


「他の場所でも突撃が始まりました」


双眼鏡で隣の砦をのぞいていたギュルヴィが言った。アキは顔を顰めてから口を開いた。


「何人だ?」

「…それは今気にすることでは--」

「いいから!突撃するのは何人だった?」

「…敵軍に面した三つの砦から概ね三万ずつ。約十万の突撃軍です」


アキの強い口調にギュルヴィが静かに答えた。今日まででも多くの命が失われた。だが、今日こそ死人が出る日はないだろう。今更ながら、こんな作戦を立てたセブが憎らしかった。


「俺はここにいる。スノリを下に連れて行ってくれ」


ギュルヴィは一度何か言おうとしてから、やめた。床に座り込んでいるスノリに肩を貸し、アキの方を一瞥して降りて行った。


「作戦は順調のようです。ジークフリートが敵の横陣を突き破ってますね」


突撃軍は既に交戦に入っていた。スノリの魔法は強力だが、吹き飛ばしたのは全体の一部だけだ。

砦からの突撃軍はジークフリートが指揮をとっていた。いや、彼はそんなことはしていないかもしれない。目の前の魔物を薙ぎ倒し、傷一つつかずに上位種を葬っていく。兵士たちは『真の英雄』の後ろ姿を見て心酔し、戦いに呑まれていくだろう。

各砦から出た突撃軍はいつしか合流し、甲冑に反射した銀色の光は、魔物の黒い陣地を少しずつ削っていった。城門からは次々と兵士が戦場へなだれ込んでいく。前線では兵士が英雄となり、そして死んでいった。


数時間の時が過ぎた。戦場の兵士達は叫ぶ、森の向こう側まで、あそこまで行けば敵の大将がいる。行けば英雄が巨人を殺してくれる。この地獄のような戦争が終わると信じて。

戦場を押し返した銀の光は、いつの間にか細々とした一筋の川のようになっていた。希望に縋って戦った兵士達は、動かぬ屍となった。


「…頃合いですね、詰めに入りましょう」

「これだけ犠牲を出したんだ。失敗したらお前を殺すからな」

「…成功を祈ってます」


アキは軍馬に飛び乗った。前にはギュルヴィが手綱を握っている。周りには『二対の雫』、『原初の火(オリジン)』の幹部達、大勢の兵士が待機していた。砦の残り全戦力だ。


「さて!舞台の幕開けだよ!おいで、私の白骨ちゃん達!【死者の大行進(エンドパレード)】!」


城壁から『墓場起こし(デッドコール)』アイリーンが能力ギフトを発動させた。隣にはスノリの姿も見える。戦場がどくりと鼓動を打った。これまでに倒れた兵士達に虚構の命を吹き込まれた。

血まみれの肉が剥がれ落ち、真っ白な骨だけとなる。生き残った兵士の甲冑である銀色と合わさり、白銀の道が現れた。道は砦の城門から最前線まで開かれていた。


「第二突撃軍!進軍開始!」


かつての友人、同志の中をアキ達は進んだ。あちこちで骨が砕ける音が聞こえた。


「目指すは敵本陣!巨人を殺すまで歩みを止めるな!」


生者は血を流し、死者は骨を散らしながら歩み始めた。それは最後の進軍だった。

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