69話 代表十二使
連邦首都、幾何学都市と呼ばれるこの街は、都市国家連邦の国土の中心に位置する。『代表十二使』の会議塔や、『都市連合組合』、『全国商業共同体』の本部など様々な組織の拠点が置かれている。まさに首都と呼ぶのにふさわしい場所だ。
「さて皆様、そろそろ始めたいと思います」
アキは広い会議室の壁際に立っていた。部屋の中央に据えられた大きな円卓には、椅子が十二個。しかし、座る人影は十一人だった。一人欠けている。
「その前に、一つお知らせを。残念ながら錐状都市の都市長は王国に出張中だったため、連絡が取れておりません。安否不明ですが、彼の為にも早急な対応を話し合う必要があります」
老齢な男、議長が物々しく言った。座る面々にも緊張が走る。
「それでは今より、都市国家連邦『代表十二使』の会議を開始したいと思います。
各々報告は受けているでしょうが、最新情報の提供及び認識の擦り合わせのため、今一度説明を、フォックス頼む」
フォックスと呼ばれた、肌が浅黒い強面の男が立ち上がった。
「はい議長、王国東部の『聖なる柵』から魔物の軍が侵入しました。ここは前日より崩落しており、一度魔物の師団が謎の消滅した場所と同じです。
魔物の軍はそのまま王都へ攻め入り、王国は瞬く間に蹂躙されました。それが今より五日前のことです」
「連絡が来るのが遅すぎる!それに護衛軍は何をしていたんだ!」
浅葱色の神をした女性が怒鳴った。フォックスは表情を変えずに続ける。
「『聖なる柵』には当然監視の部隊が付いていましたが、蒸発しています。おそらく敵の強襲にあったのでしょう。
そのため王国は魔物の動きをかなり王都に近くづけるまで捕捉できていなかったのです」
「クソが!妙な知恵をつけやがって!」
「不意を疲れたからとはいえ、王国護衛軍は人間の国の中でも練度が高く、さらに常設軍がかなりの数いるはずだ。そう簡単に壊滅したとは思えない。さっきからあえて避けているように感じるが、敵の規模は?」
レイが腕を組みながら静かに言った。フォックスはひたいを拭った。
「…実質的な数は不明ですが、前回の消失した師団のおよそ二十倍です」
「なんだと!前は一万はいたはずだ。二十万も集まっているというのか!?」
「確かな情報なのですかな?その規模の軍は前例がない」
「まず二十万もいた場合細やかに観測するのは不可能だろう」
会議の面々が悲痛な声を上げる。フォックスは苦々しい顔でさらに続けた。
「数だけではありません。小鬼や鬼などの下等眷属はもちろん、劣化した巨人、膨隆した腕などの特殊個体。さらには震源の蟲玉や貪り喰らう天狼といった上位種の存在まで確認されています」
全員が言葉を失っていた。魔物の変異体である上位種が一体でも出現すれば、最高ランクの『名前付き』が招集されるのだ。それが複数、さらには二十万の軍を率いている。
「指揮は誰がとっている…?」
「軍の中心には天高くそびえる巨大な霜の巨人がいるとのことです」
反応は様々だった。フォックスは話しながら顔をピクピクと引きつらせている。浅葱色の髪の女性は天井を見上げて放心状態だ。レイは腕を組んだまま深い皺を額に作っている。
霜の巨人、世界が形作られた時、神々と対立した化け物。
巨人殺しは前例があるとはいえ、多大な犠牲と本物の英雄の力が必要だ。
「フォックスありがとう。さて、事態は急を要している。人間の国の危機であることは疑う余地がない。四つの国が協力してこの脅威に立ち向かう必要がある。現在魔物の軍は帝国領へ向けて進軍中だとのことだ。情報は少ないが我々は行動しなければならない」
「しかし…実際にどうしますかな?都市国家連邦の兵力は緊急で収集をかけたとしても10万も集まらないでしょう。時間もかかります」
「帝国の防備の状況はどうしているのでしょうか?聖国の動きは?」
「情報が不足しすぎている…現段階では作戦の練りようがない」
「帝国が滅されれば次は聖国…そして連邦と順に攻め入られますぞ」
会議は紛糾した。何故こうなったのか…世界の終わりだ。レイは頭を抱えた。
「市長…提案がある」
横を見ると、アキがいつの間にか列を離れ側でささやいていた。
「俺は帝国や聖国まで一瞬で移動できる能力がある。あんたの部屋に入った時みたいにな。更に市長を連れて行くことができる。三国で連携を取り、戦いに備えろ」
レイは驚いたが疑わなかった。今思えば、アキが執務室に初めてきた時、世界を救うとかなんとかいっていた。このことを知っていたのか?
「皆さん!皆さん!聞いてください!私にある考えがあります--」
それは絶望の中の一筋の光だった。




