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意外と知らない北欧神話   作者: アイスの棒
永き冬
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68話 お伽話



「一体どういうつもりなの?」


レイは机を叩きつけて怒鳴った。三人の不法侵入、その四日後にまたもやアキ達が執務室に現れたのだ。


「市長、興奮するなよ、『赫眼』の情報は助かった。今日はこのリストを見て知ってる名前がないか確認したいだけだ」


アキは一枚の羊皮紙を手渡した。『不平等の民衆(アンイコーラー)』の名前のリストだ。名前だけならトップの人間が知っているかもしれない。一度脅しているから二度目もいいだろうという割と軽い考えからだった。


「『白亜の髭』『真珠の爪』…これは何?仮装大会か何か?」

「何でもいい、聞き覚えがあるものは?」

「ないわよそんなの…ちょっと待って、この『鈍色の吐息』って…」

「何か知っているのか?」

「いや、違うと思うわ…」

「どんなことでもいい!教えてくれ!」


言い淀む市長にアキは思わず大声を出した。まさかここで二人目の情報も手に入るなんて思いもしなかった。


「…この『鈍色の吐息』は鈍色の竜のブレスじゃなかったかしら?ほら、あの七色山脈に住む」

「七色山脈?それはどこだ?ギュルヴィ?」

人間の国(ミッドガルド)にそんな名前の場所ありましたかね…」


詩人が険しい表情で言った。おいおい、解説係だろう、しっかりしてくれよ。


人間の国(ミッドガルド)じゃないわ。『八つの王冠』を知ってるでしょ?お伽話(フェアリーテイル)よ」

お伽話(フェアリーテイル)…?」


聞けば有名な絵本の話だとか、アキはがっくりと肩を落とした。さすがにこれはない。人間の国(ミッドガルド)には七色山脈も鈍色の竜も存在しないのだから。


「よく考えたら、『白亜の髭』は『十字架と猫』に出て来る海賊の頭領のことじゃない?それに『真珠の爪』は『東の国からの贈り物』にある宝石かしら?

このリストの名前はお伽話(フェアリーテイル)からとったの?中々やるじゃない」


市長は嬉しそうに言った。あまり人に言えることではないが、レイにとって唯一の趣味が童話の絵本を集めることだった。

アキはそんなことは知らなかったが、話を聞いて感づいた。これは偶然ではない、何者かの意思が介在している。


「『赫眼』もなにか物語に出てくるか?」

「そうね…、この前は気づかなかったけど、『赤い月と花束』に出てくる血染め男爵が血走った真っ赤な目をしているわ。彼のことかもね」

「誰がそのお伽話(フェアリーテイル)を作ったか知っているか?」

「これは童話よ?ずっと昔に誰かが作ったんでしょうね」


レイはそんなことはどうでもいいというように笑って答えた。しかし、アキは確信していた。間違いなく、製作者は『不平等の民衆(アンイコーラー)』の一員か、それをよく知るものだ。


「探す必要がある。お伽話の製作者(テイルメーカー)をな。誰か心当たりは--」

「失礼します!市長、緊急事態です!」


アキが話している途中に、部屋の扉が勢いよく開かれた。秘書のランディーが息を切らしながらそこに立っている。明らかに尋常ではない様子だ。


「執務中申し訳ありません…、この三人は誰です?面会の報告は受けていませんが--」

「ランディー、何が起こったの?状況を説明して」


アキ達に胡散臭そうな目を向ける秘書に向かって、市長が落ち着いて言った。ランディーは一度深呼吸してから、震える声で報告した。


「市長、王国が崩壊しました。『聖なる柵(ハイ・ガード)』の裂け目から魔物の軍が押し寄せ、王国護衛軍は壊滅、王宮は破壊され、兵舎の本部も撤退を余儀なくされています」

「何ですって!?それは…それは確かな情報なの?」

「三度問い合わせました。この事態を受けて、緊急で『代表十二使』の会議要請がかかっています。今すぐ、お越しいただかなければ」

「…わかったわ、移動中に詳しく説明して頂戴。行きましょう」

「まて、俺たちもついていく、いいな?」


市長が椅子から立ち上がると同時にアキは声をあげた。秘書が苦い顔をしながら問いかける。


「こいつら誰です?市長の立場を理解してるんですか?」

「いいわ、ランディー、護衛の中に彼らを入れてあげなさい。そんなことより急がなくては」


秘書は納得いかなさそうだったが、市長の決断に口を挟むことはできなかった。それに、今は何より優先すべきことがあった。

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