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意外と知らない北欧神話   作者: アイスの棒
永き冬
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67話 牢獄



王国の南、都市国家連邦のさらに南端にそこはあった。焼け付くような太陽、干からびた砂でできた大地、ここに近づこうとする者は誰もいない。太陽ソラの兵舎が誇る監獄『灼熱の檻(プロメテウス)』。どんな罪人もここでは砂漠の砂と同じような無力で小さな存在となる。


「面会は十分間のみです。例外はありません、いいですね?」

「ああ、案内してくれ」


アキは額に汗をかいた看守に苛立ちながら言った。このクソ暑い建物の中で何度同じことを言われただろうか。すぐにでも拠点に戻りたいくらいだ。


「突き当りの部屋です。十分したら呼びに行きますので」

「わかってるよ、ありがとう」


アキは狭い廊下を進んだ。両脇にはアルトとソプラノが控えている。二人ともあれから一睡もしておらず相当疲れているはずだが、表情は冷たく、緊張感がある。

ビーっという警告音と共に重い扉が開く。目の前に現れたのは狭い部屋、牢ではなく部屋なのだ。机や椅子、本棚にベッドまである。アキは眼を細めた。ベッドに寝転んで本を読んでいる少女、黒が混じった灰色の髪は短く、目の下には大きな隈ができている。いや、そんなことよりも驚いたのは彼女の体躯だ。小さい、せいぜい十歳かそこらの子供。嫌でもロキを思い出した。


「久しぶりだねフェルト、いや、『赫眼』と呼んだ方がいいかな?」

「…『二対の雫』か、どんな呼び方もごめんだね。お前らの顔なんて見たくねぇよ」


フェルトは来訪者にめんどくさそうな目を向けた。そしてノロノロと体を起こし、鉄格子を挟んでアキの目の前まで来た。アキを値踏みするようにみる。


「いつもの兵舎の仕事じゃなさそうだな。この木偶の坊が俺に用があるのか?」

「アキだ、お前は『不平等の民衆(アンイコーラー)』だな?」


フェルトはじっとアキを見つめた。アキも同じように見つめ返す、真っ赤な目の奥にはギラギラとした炎が見える。


「昔のことだ」

「力を借りたい」

「俺にそう言ってくる奴は多い。この部屋に物が沢山あるのに気づいたか?檻の外の連中にちゃんと協力してきた証さ。だが、民衆の名前を出して来たものは未だ嘗ていない。お前は何者だ?」

「…俺はお前に血を与えた神、ロキの眷属だ。今世界に滅亡の危機が迫っている--」


アキは今の状況をできるだけ簡潔に説明した。話を聞いている間にフェルトは、身じろぎひとつしなかった。


「--だから戦力がいる。お前の力がな」

「俺の能力ギフトを知って言ってるのか?」

「いや、知らんが、ロキが選んだんだ。充分さ」

「ふっ、こりゃおかしいぜ、お前は馬鹿だな」


フェルトは唐突に笑い出した。狭い部屋に声が響き渡る。


「よぉ、双子よ、お前らこいつに言わなかったのか?俺が協力する訳がないってな」

「もちろん言ったさ、僕としても君と仲間になるなんてごめんだね」

「当たり前だよな、悪いが断るよ。第一、この檻の中からじゃ手伝えることは少ないだろう」

「お前にはもう欲しいものはないのか?やり残したことは?数百年生きて、この狭い部屋で過ごすのが一番好きになったのか?」


アキが静かに言った。フェルトの表情から笑みがすっと消えた。


「あるとも、実験の途中でそこのクソ鏡合わせに捕まったからな」

「望むものをやる。言え」

「…神の血を持つ『名前付き(ネームド)』が実験体サンプルとして何体か欲しいな。もちろん生きてる奴だ。その双子でもいい、どうだ?くれるか?」


フェルトが挑発的に言った。双子が憎々しげな視線を牢屋に向けるのを感じる。


「アルトとソプラノは駄目だが、お前が求めるものをやろう」

「アキ?何言ってるの?このクズを野に放つだけで危険なのよ?そんな約束--」

「わかってるさ、もちろん条件をつける。俺たちを襲う眷属だけだ」

「だからって--」

「ソプラノ、俺は見ず知らずの敵である英雄より、目の前の犯罪者を助ける。決めたことだ」


ソプラノは不服そうな態度を示したが、それ以上何も言ってこなかった。そのやりとりを見て囚人が声をかける。


「それ以前の問題の話だが、どうやってここから出してくれるんだよ。恩赦を出せる立場なのか?こいつは」

「恩赦などないさ。脱獄させる」

「おいおい双子よ、聞いたか?こいつは狂人だぜ」

「幸い鍵抜けの類は得意でね」


憮然とするフェルトの顔を見ながら、アキは言った。

その時、重い扉が開き看守が顔を見せた。時計を指差している。


「悪いが時間だ。また来るからその時に返事をしてくれればいい。この狭い部屋で終わりの時まで過ごすかどうかな」


アキはそう言って踵を返した。


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