66話 赫眼
バル自治区の『原初の火』の拠点、アキはそこに跳んでいた。
「『赫眼』の情報は手に入った。兵舎が絡んでいるなら、アルトとソプラノに聞こう」
アキはそう言って彼らを探し始めた。この建物の構造はそこまで詳しくないが、歩いていれば誰か見つかるだろう。
「あれ?アッキー達じゃん!もう戻って来たの?」
廊下を曲がった先に現れたのは『墓場起こし』アイリーンだった。アキの姿を見て声をかける。
「ちょっと聞きたいことがあってな。『二対の雫』はどこにいる?」
「鏡合わせならまだ会議室だよ。もうほんと疲れたー」
アイリーンはそう言いながらも元気そうだった。彼女は常にテンションが異常だ。
アキ達は会議室の扉を開けると、空気が淀んでいた。すれ違うようにフラフラと『虚弱な軍師』セブがこちらに向かってくる。
「お、おいどうした?」
「ん?あぁ、貴方達ですか…やっと会議は終わりましたよ…。私は疲れたので少し休ませてもらいます」
セブは病人のような顔で部屋を出て行った。中を覗くと双子は机に突っ伏している。
状況に疑問を覚えながらも、アキは双子に声をかけた。
「アルト、ソプラノ、どうした?大丈夫か?」
「…アキか…。ははは、安心してくれ、要塞化の設計は完璧だよ。素晴らしいものができたとも」
「要塞化…?その話し合いは俺たちが出る時からやってなかったか?」
「あぁ、そうさ、一晩中かかったよ。これもあの女が無茶苦茶なことばかり言うからさ…」
アルトがひどく疲れた目を開きながら言った。その声に反応するように、片割れも口を開く。
「…アキ達ね…私は疲れたわ。これもあの女が狂ったことばかり言うからよ…。でも安心して、完璧な計画を仕上げたわ」
重そうな瞼を擦りながらソプラノが言った。アキは双子に同情したが、時間は限られている。さっさと聞いてしまうことにした。
「疲れている中すまないが、『赫眼』の事件を知っているか?」
「あぁ、知っているとも。…まさかとは思うけど、『赫眼』が『不平等の民衆』なのかい?」
「そうだ。しかしそれは事件の名だと聞いた。詳しく教えてくれないか?」
アルトは明らかに狼狽える様子を見せた。疲れているとはいえ、彼のこんな姿を見るのは初めてだった。
「…アキ、『赫眼』は事件でありながら、ある個人を指す名前でもあるわ。あの事件の犯人の名前よ」
「…!そいつは誰なんだ?どこにいる」
「『灼熱の檻』よ。私たちは数年前に『赫眼』を秘密裏に逮捕したわ」
「アキ、言っておくが奴は危険だ。仲間に加えるのは反対だね」
双子達は渋い顔をしていた。しかしアキには選択肢が少ない。可能性があるならば会う必要がある。
「秘密裏に逮捕したと言ったな?何故だ?」
「…『赫眼』の本名はフェルト。兵舎の強力な『名前付き』だ。それに僕たちと同じ時代につくられた。最古の眷属の一人だよ」
「彼は人を裏切ったのよ。自身の欲求の為に人殺しをした殺人鬼。けど、フェルトは有名過ぎた。兵舎は事件を揉み消したわ」
「『教授』フェルトですか…!彼の研究は他には例を見ないほど革新的で進んでおり、学院でもよく招聘していたものです。まさか投獄されているなんて…」
ギュルヴィが横から驚くようにして言った。
「会う必要がある。できるだけ早く」
「…わかったよ。監獄長は古い知り合いだ。なんとか頼んでみるさ」
「ありがとう、恩にきるよ」
アルトが力なく立ち上がるのを見て、アキは礼を言った。
決意していた。できる限りの手段を取る。その為には双子にもう少し働いてもらうとしよう。




