65話 執務室
七角都市の七つの塔は、主に行政管理に関わる部署の建物として使われている。その中でも七角の頂点に位置する塔はその全てを統括しており、まさしく都市の中枢だ。
「こちらが明日の式典での最終タイムスケジュールとなります」
「ありがとう、ランディーもう下がっていいわ」
「はい、レイ市長、おめでとうございます」
「ふふふ、それは明日よ。まだ一日残ってる」
秘書は笑顔で部屋を出ていく。レイは満足していた。ここまで来るのには時間がかかった。都市議員から始まり、 地道な選挙活動、対立候補を蹴落とすためには汚い金も使った。
「ふぅ…」
明日は記念すべき市長就任一周年の式典がある。今、世界は不安定だ。帝国と王国が戦争を起こそうとしている。だからこそ、様々な文化的背景の集合体である都市国家連邦が、人間の国全体の舵取りをしていく必要がある。明日のスピーチでは、人類の平和と協力、民主主義の有用性について訴えるつもりだ。
「やぁ、市長、初めまして」
レイがスピーチの原稿を読み直している時、見知らぬ声がした。今日は面会の予定は入っていなかったはず。それに秘書から連絡もない。不審な声に目をあげる。
そこには三人の人物がいた。黒髪の若い男、やけに落ち着いた雰囲気だ。それに白髪の少女と派手な帽子の男がもう一人。
「誰かしら?悪いけど秘書を通してもらわないと困るわ。ランディー、来て頂戴」
「ギュルヴィ、誰もいれるな」
黒髪の男がそう言って、帽子の男は肩を竦めながら扉から出ていった。レイは来客が友好的ではないことを悟った。
「さて市長、質問がある。正直に答えてくれればすぐ帰るよ。『不平等の民衆』という名を聞いたことがあるか?」
レイは苦い顔をした。抵抗すればどうなるかわからない。 そういった脅しの口調だ。
「『不平等の民衆』?悪いけど聞いたことないわね」
「そうか、なら質問を変えよう、『赫眼』を知っているか?」
「聞いたことはあるわ」
「知っていることを全て教えてもらおう」
黒髪の男が威圧的に言った。気分が悪い、私を誰だと思ってるんだ?この都市で最も権力を持っている人物というのに。
「…貴方達の目的は?」
「世界を救うことさ」
「ふざけるのはよして頂戴」
レイは睨みつけた。男の感情を読み取ることは難しかった。
「…アキ、もう少し優しく」
「そうか?…市長、俺達は敵じゃない。重要なことなんだ。世界がかかっている」
少女がぼそりと呟いた。黒髪の男の名はアキというようだ。そして、アキの口振りは本気で言ってるように聞こえた。
「…気に入らないわね。説明もなしに私にそんな口を聞くなんて。
…まぁいいわ、『赫眼』は確か事件の名前よ。詳しくは知らないけど、太陽の兵舎が捜査してたわね」
市長選の活動をしていた時、兵舎の支部長からそんな名前を聞いた覚えがある。何故その名前が出てきたかは忘れたが。
「他には?本当に知らないのか?あんたが『赫眼』では?」
「私の目は青よ。見たらわかると思うけど」
「…協力感謝する」
「ええ、是非また来て頂戴。歓迎するわ」
レイは皮肉をたっぷり込めて言った。
アキが扉を開けると、澄まし顔でギュルヴィが現れた。市長の顔を見て彼が言った。
「秘書さんなら傷一つつけていません。少し眠っていただいているだけです」
レイが何かをいう間も無く、男たちは消えた。




