62話 リスト
「それで?宣言は良く出来てたよ、方向性もいい。だけど具体的にどう動くんだい?
ロキがクスクス笑いながら言った。どうもこいつは人を小馬鹿にすることに長けているようだ。核心をついているのがタチが悪い。
「悪かったよ…『原初の火』は街の防衛と要塞化に当たってくれ。『二対の雫』が上手く物資のやり取りをしてくれるだろう。合わせて住民の避難もだ。
俺とスノリ、ギュルヴィで『不平等の民衆』探しを行う、ロキは名前と外見の特徴、大まかな居場所をリストにしてくれ。他に質問は?」
「各国との関係作りは?」
「それも俺たちが引き受けるが、街の作業がひと段落したら、アルトとソプラノが当たってくれ。連絡はロキの神託を使う。一定期間ごとに街に戻るようにするよ」
それから各自で細かい打ち合わせが始まった。資金の調達経路、要塞化の設計、避難計画、連絡調整や指揮系統などだ。
アキは『不平等の民衆』のリスト作りを手伝った。ロキの性格上、完全に任せるのは危険だからだ。
「名前がわかってるのが九名、場所がわかってるのがその内の四名か…」
「まぁね、既に何人か死んでるかもしれないけど。もしかしたら全員かもね」
「…もう少し数が多いと思っていたが?」
「そりゃもっと沢山いたよ、最初はね。でも僕が準備した血の数は九個しかなかったんだ。それ以外はとっくに寿命で死んでるよ」
眷属は不老となる。『大戦』の時に『不平等の民衆』が作られたとしたら、どれほどの時間が経っただろうか。眷属でも生き延びている者は何人いるだろう。
「…最初に向かうのは都市国家連邦だ。バル自治区のこともあるしな。不用意に近づかせないようにしておきたい」
「『赫眼』がいるとこだね」
「そうだ、奴を探しながら国の中枢に入り込む。馬車の準備をしないとな」
「跳べばいいじゃん」
アキは目の前の神をまじまじと見つめた。【無秩序な跳躍】は無秩序なのだ。行きたい場所に行ける類ではない。
「ここに来る時に使ってたでしょ?【不道徳な祈り】だよ。物事を反転させる能力さ」
「つまり【無秩序】に【不道徳】を合わせることで任意の場所に跳べるのか?」
「そうだよ、おかしいと思わなかった?君が跳躍した時、常に行くべきところに跳ばなかったかい?
ロキは当然というように笑った。そんな便利な能力があるなんて聞いてない。説明してないのはお前のせいだろう。アキは心の中で罵る。
「…もういい。スノリとギュルヴィを連れてく、ここは任せたぞ」
「大丈夫だよ。すぐに襲撃はないさ、神々は眷属を先に使う。自ら乗りこんできて死ぬのは嫌だろうしね。でもトールは来るかもしれないな、脳筋だから」
アキは後ろで楽しそうに話すのを、振り返らずに部屋を出た。
「ギュルヴィ」
「ちょっとアキさん、奴らとんでもないこと考えてますよ」
聞けばギュルヴィは『原初の火』主導で行う、要塞化の設計会議を見てきたらしい。
「落ち着けよ、大丈夫か?」
「大丈夫か?大丈夫じゃないですよ!50センチ重砲の配備とか、防御壁と堀で街を囲むとか、これだけで数十年クラスの計画ですよ?さらに地下迷宮の構築とか考えてるんですよ。いりますか?これ?
無理です、絶対に無理です!」
詩人は呆れるやら怒れるやらで混乱しているようだった。
「奴らもふざけてるわけじゃないだろう。労働力はあるんだ。なんとかするさ」
「…会議を見ればそんなことは思えないと思いますけどね。あの女ときたら!悪ふざけにしか見えませんでしたよ…」
あの女が当の労働力の担い手であるような気がしたが、アキはこれ以上突っ込まなかった。『二対の雫』もいるし、『原初の火』の軍師はまともだ。なんとか軌道修正してくれるだろう。
「アルトとソプラノに任せろ。それよりスノリは?」
「…はい、先程までは一緒でしたが、あっ、あそこにいますよ」
スノリは部屋の隅に一人で座り込んでいた。目を閉じて何か考えているようだ。
「スノリ、疲れてるか?」
「…平気です。出発ですか?」
「あぁ、跳んで行く。ギュルヴィと魔力回路を繋げ」
少女は呪文を呟き、小さく頷いた。
「向かうのは都市国家連邦の首都、七角都市だ。世界を救うとしよう」
アキは一回転し、跳んだ。




