61話 救世
「正気ですか?あなた達は本当に正気ですか?」
「いいじゃんセブー、サイコーだよ!めちゃくちゃ面白いことになってるよ!」
アキ達は『原初の火』の拠点にいた。目の前には『虚弱な軍師』セブと『墓場起こし』アイリーン、『堕ちた聖騎士』ジロウ、『真の英雄』ジークフリートと、幹部が勢揃いしている。
「そちらにとっても悪い話ではないはずです。我々は戦力になります。貴方達の目的を達成する力になりませんか?」
ギュルヴィが落ちついて言った。アキは彼の正体のことを誰にも言う気がなかった。
「いいですか?我々『原初の火』は各々が目的を持っているのです。そこの『墓場起こし』は自由に生きるために、『真の英雄』は強敵と戦うためにこの組織に参加しています。貴方達に協力して嬉しいのはジークフリートぐらいですよ」
『虚弱な軍師』がため息をついて言った。
「へーそうだったんだ。じゃあセブーは何で参加してるの?」
「私は指輪の為です」
「指輪?」
アイリーンが横から口を挟んだ。セブはもう一度ため息をついて答えた。
「この世界には五つの特別な指輪があります。それを手に入れるのが私の望みです。裏組織の方がこういった情報を入手しやすく、また力づくで手に入れることができるから、ここにいるのです」
「俺、持ってるかもしれんぞ」
アキは思いついて言った。ユトランド聖国の国宝、ロキが盗みとり、オーディンから返却された指輪のことを。
「ははは、なんて馬鹿なことを言うんですか。そこらにホイホイ落ちているようなものではないんですよ?」
「ニーズベルンの指輪とか言ってたな。見てみろよ」
アキは指輪を放り投げた。軍師は受け取り、胡散臭そうなものをみる目で眺める。
「…一応見ておきますか。
ほう、なるほど、見た目はよくできていますね。伝承通りですが、こういった贋作は多い。
伝説ではニーズベルンの指輪に魔力を流すと、『光が消え去り、星々が現れる』とあります。試して見ましょうか…」
その途端に、部屋が漆黒に染まった。何も見えない、目が見えなくなってしまったようだ。
「あそこ見て!」
アイリーンの声だけが響く、ポツリポツリと一つ一つ、瞬くものが現れた。それは星々だった。部屋全体に散らばり、宇宙にいるような錯覚を思わせた。
「これは…本物です…!」
星が消え去り、部屋に明かりが戻った。セブは口を閉じることができないようだ。信じられないといった表情をしている。
「こっちに協力するならそれをやる」
「な、なんですと!?」
「よかったじゃんセブー。私は面白いから別に賛成してもいいよ」
「待て!某は反対だ!」
遮ったのは『堕ちた聖騎士』だった。
「その双子に某は拷問されたんだぞ!それに嘘までついて情報を引き出した!そんな奴らに協力なんぞできん!」
「別に生きてるからいいじゃん、ねぇソプラノ」
「アルト、本当よね、器が小さい男だわ」
双子はケロリとして言った。あの熾烈な拷問を考えれば、正直ジロウには同情のせざる得なかったが、今は協力してもらうしかない。
「ジロウさんはどんな目的で組織に参加しているんですか?」
「お主らに言う必要はない」
詩人が丁寧に声をかけるが、取り合おうともしない。さて、どうするか。
アキが逡巡していると、扉が開かれ人影が入ってきた。灰色のフードを被っている。その姿を見てセブが慌てて言った。
「盟主様!連絡は受けていましたが、到着はもう少し後になるかと…」
「気にするな、勝手に来たことだ」
頭を下げる幹部たちに盟主の男は片手を上げて答えた。どうやら『原初の火』の頭のようだ。だがアキは見た瞬間から正体に当たりがついていた。この場にいないあいつだ。
「さて、ロキの眷属の旅隊だな?この時を待っていた。ようこそ『原初の火』へ」
「盟主様…申し訳ありませんが、どう言うことでしょうか?」
ジロウの声は震えている。かなり緊張しているようだ。
「私は今日の日、これからのために『原初の火』を組織した。世界が滅亡に近づいている。長き冬が到来し、巨人と神々が暗躍するだろう。挟まれた人間の国は戦乱に巻き込まれる。四つの国長も三代派閥も自分のことしか考えぬ愚か者だ。
私は人間の国に火を灯す。傷つき、恐れ、逃げ惑う人々への救世の火だ。『原初の火』は唯一無二の人類の守り手となるのだ」
「感服いたしました。この『虚弱な軍師』は盟主様とともに最後までお供いたします」
「え?あっ、私もです」
セブとアイリーンは跪き、頭を下げた。
「ジロウよ、お前の望みは教会へ復讐することだな?ならば我らと来い。双子が許せなければ、ここから出て行け」
灰色のフードの男は扉を指差した。ジロウは迷うことなく跪いた。
「某の命は盟主様に拾われたもの。巨人の血を与えていただいた時から、某の命は貴方のものです」
「よかろう、ならば私の正体を明かそう。驚くものもあるかもしれないが、畏れるな。我が魂は永遠にそなたらと共にある」
灰色のフードは宙を舞った。現れたのは少女にも少年にも見える子供、悪戯の神ロキだ。
「やっぱりな…」
アキは呟いた。拠点に来る前から姿が見えなかったのだ。
「ロ、ロキ!?」
「うわーぉ!びっくりしたなぁー!」
反応を示したのはジロウとアイリーンだけだった。スノリも隣で体をびくりと震わせてはいたが。
「えー、セブとジークフリートはリアクションないの?」
ロキが楽しそうに言った。
「『二つ名殺し』の正体も貴方でしたからね。それに、複数の巨人の血を手に入れることができるのは神とはいえ限られるでしょう」
「ロキ、お前が襲撃の時に言った『舞台』はこのことか?楽しませてもらおう」
二人とも冷静に言ったが、これから起こることへの期待が隠しきれないようだ。
「これで君の旅隊と『原初の火』は同盟関係となった。次はどうする?」
ロキが嬉しそうに言った。全員の目がアキに集まる。
「この街を城塞化する。来るべき戦いのために」
「それは現実的ではない。時間も労力も金も何処から持って来るんですか?」
「労働力は『墓場起こし』がいる。金はロキが持ってる宝を使えばいい。時間は俺達が稼ぐ」
否定の言葉にアキは考えていたことを話す。
「これから、世界に散らばっているロキの偽りの眷属、『不平等の民衆』を探し出す。戦力の確保だ。
同時に、各国の首脳との関係を作る。戦争を止めるためだ、止められなくとも、頭を殺すことで戦争を終わらせるような関係を構築する。
十分な戦力が集まれば、フェンリルとヨルムンガンドの討伐する。作戦を綿密に立てて追い込む。
以上のことを神々とその眷属達からの攻撃を躱す、ないし迎撃しながら行う」
不可能に近いこともあるが、やるしかない。
「俺たちは世界を救う。力を貸してくれ」
再び、新たな旅が始まろうとしていた。




