60話 夢
62部 夢
「『原初の火』は味方につくとおもう?彼らだって神々と全面的に対立するのは避けるんはずよ」
「彼らは存在自体がすでに対立関係さ。巨人と神々、二つの陣営は相反するものだ。こっちにつくことにメリットがあれば靡いてもおかしくない」
「メリット?たったの五人に何ができるっていうの?」
「人数だけじゃないさ。僕らは『名前付き』だ。派閥の情報もある」
双子が言い争っている。アキは静かに聞いていた。どちらの言っていることもわかる。だが結局のところ、どれだけ考えたところでどうしたようもないのだ。人外の力が関わりすぎている。矮小な人間は、その場その場で対応するしかない。
話し合いは深夜まで続いた。今後のこと、戦争を止める方法、フェンリルやヨルムンガンドを倒すにはどうすればいいか、巨人と接触す手段など、いくつもの案や意見が出されたが、どれも成功する可能性があり、また、どれも不可能と思えるものだった。
「仕方ありません…明日は『原初の火』のところに行きましょう。協力を得られなければ、戦闘になるかもしれませんが、現状これ以上の案はありません」
ギュルヴィの発言を最後に会議は終わった。全員疲れ果てていた。明日以降はいつ襲われるかわからないのだ。眠れる時に眠らなくてはならない。そうして皆眠りについた。
アキは会議の途中から一つのことをずっと考えていた。杞憂であれば何の問題もないが…心に引っかかる。
今夜、ずっと見てきた夢の扉を、アキは自分から開けた。
「起きろよ」
「ん…?あれ?」
ロキはゆっくり身を起こした。そこは何もない真っ白な空間、全体に靄がかかっているようだ。目の前にいるのは自身の眷属の人間、そこは神託の夢だった。
「おかしいね、僕は神託をする気は無かったんだけど」
「俺が夢の扉を開けた。鍵を外すのは得意でね」
「…こんなことをするなんて、人間では君が初めてだろうね。それで…何の用だい?」
「二人だけで話したかった。誰にも聞かれず、邪魔されない場所で」
ロキは驚いていた。人間がこんなことができるなんて信じられなかった。だが同時に大きく期待していた。
「ここなら誰もいない、君と僕だけだ。さぁ、話してごらん」
「…ずっと引っかかっていた。ずっと違和感を感じていた。なぁロキ、俺はなんでまだ生きている?」
「…どういうことだい?君は死にたいのかい?」
ロキは笑っておどけながら言った。
「違うんだよ、そうじゃない。
俺はただの大学生だった。なんと特別な力もないただの人だ。そんな奴が異世界に放り出されて、何故ここまで来れたんだ?これは小説やゲームじゃない。能力があったって、素人が生きていける世界じゃないはずだ。誰かの助けがないと」
「…」
「ロキ、お前の計画はすごいよ。俺の行動をコントロールして、バルドルを殺させた。そこで考えたんだよ、ずっと以前から俺は、お前の掌で踊らされてただけなんじゃないかってな」
「何が言いたいんだ?」
ロキは言った。もう笑っていなかった。
「これは仮説だ。できたら間違っていてほしいと思う。
俺の旅は始まりから今まで、お前に制御されていた。旅で出会う人たちは、お前の息がかかった人間。『不平等な民衆』、こいつらを使ったんじゃないか?そしてその中の一人は俺の仲間にいる…」
アキは生唾を飲み込んだ。できることなら言いたくない。否定してほしいと祈りながら。
「『魔術詩人』ギュルヴィ、奴はお前の手先か?どうなんだ!ロキ!」
一瞬の静寂、それはアキの言葉が真実であると告げていた。
「…驚いたね。君がそんなに頭が切れるとは思わなかった。
その通りだよ、ギュルヴィは『不平等な民衆』の一員だ。僕が作り出した偽りの眷属の一人。君の旅を誘導する役目を持った僕の手足さ
いつ気づいたんだい?彼の演技は完璧だと思っていたんだけど」
ロキは冷たく言い放った。
「名前から違和感を受けていた。ギュルヴィは北欧神話の語り手、寿命ある人間が手に負える役割じゃない。今思えば彼の言葉を受けて、俺たちは旅の向かう場所を決めてきた。スノリが拐われた時、そばにいたのも彼だ。巨人の館でも、彼を力比べには参加させようとしなかったな。さっきの会議の時も、やるべきことをまさに提示した。これも全部、お前の命令だったわけだ!」
アキは言葉を吐き出した。最悪の気分だった。信頼していた、仲間だと思っていた。誠実で気のいい吟遊詩人、彼は裏切り者だった。
「…それで?」
「なんだと…?」
「それでどうするんだい?僕を叫弾して終わりかい?真実を知って君は、この先どうする気なんだい?」
「お前の目的を知りたい」
「僕の目的は神々の黄昏まで君らを生き延びさせることさ」
「神々の黄昏は止められないのか?」
「無理だね、運命の収束点だ。起こるのは止められない」
アキは膝から崩れ落ちた。止められないだと?今まで何のためにやって来たんだ。全てロキに操られてきただけだ。悔しかった。
「だけどね、君らを最後の日まで連れていく。そうすれば結果が変わると思ってる」
「君らと言ったな」
「そうだよ、君とその旅隊。『月明かり』はあそこで死んでもらうしかなかった。君が神の国に行くことを決心するためにね」
アキは目の前の神を睨みつけた。リサはこいつの計画で死んだわけだ。許せることではない。だが、利用する必要がある。
「お前を信頼してもいいのか?俺たちの目的は同じのようだ。神々の黄昏まで生き延びる。そして預言に抗い、結果を変える」
「あぁ、君に新しい啓示を与えよう。世界の終末まで、旅隊と共に生き残るんだ。そのために僕はできる限りの支援を行うと約束するよ」
二人の目線は交差した。アキは頷き、ロキはクスリと笑った。そして同時に一回転し、夢から姿を消した。




