59話 パズル
跳んだ先は見覚えがある豪華な部屋だった。オーディンの館だ。しかもスノリが目の前にいる。
「え?どうしたんですか…?」
「スノリ!何も言うな、必ず説明する!」
アキは困惑する少女を抱きかかえ、もう一度跳んだ。
次の場所も見覚えがあった。破壊され穴の空いた壁、バル自治区の作戦室だ。また目の前に人がいる。『魔術詩人』と『二対の雫』の三人だ。まるで導かれるように、アキは狙われている旅隊と合流した。
「あ、アキさん?何故ここに?」
「後で話す、全員付いてきてくれ!頼む!」
アキの気迫に押されたのか、他に何も言わなかった。屋敷を出て向かったのは、狭い通路を抜け、暗い階段を降りた場所、古びた看板が立てかけられている。
「お待ちしておりましたよ。一部屋でよろしいですかな?」
「あぁ、頼む」
出迎えたのは腰の曲がった老婆、鍵付け婆だった。ここはあらゆる者の立ち入りを拒む場所、唯一安全と言える場所だ。
「こちらへどうぞ、六名様ですね。朝まで扉が開くことはありませんので、ゆっくりお休みください」
「六人?」
アキが聞き返す間も無く、老婆は暗がりに消えた。部屋に入ると六人目が姿を現した。
「とんでもないことになったね。僕の眷属」
「ロキ!!何故ここにいる!」
アキは飛びかかったが、無駄だった。ロキはひらりと身をかわし、決して捕まることはない。
「もうバテバテじゃないか、大丈夫かい?」
「クソが!」
「こほん…そろそろ、私たちに何が起こっているか話してくれても良いのでは?
アキさん、あなた達は突然消えて、突然現れた。ちゃんと説明してください」
ギュルヴィの言葉にアキは額を拭い、落ち着きを取り戻した。
「すまなかった…最初から話すよ。俺は神の国へ行った。そしてそこで預言を聞いたんだ----」
アキはできるだけ詳細に、分かりやすく今までのことを話した。フェンリル捕縛からバルドルの暗殺、死者の国での死刑宣告まで、誰も口を挟むものはいなかった。ロキでさえも黙って聞いていた。
「----それで【無秩序な跳躍】を使ってあの作戦室に現れたんだ」
「つまり…私達は光の神の代わりに死ねと?」
「そんなことはさせない!絶対にだ!」
アキは叫んだ。感情が抑えられなかった。
「だけど…バルドルが死んだままじゃ、神々の黄昏が起こるんでしょ?そうすれば結局、全員死ぬわ」
ソプラノが静かに言った。反論はなかった。ただ一人を除いて。
「それじゃあ君は、いつ起こるかわからない終末の日のために、人柱になるってことかい?なんなら本当に起こるかもわからないのに?立派だねぇ〜。僕には真似できないや。死にたくないもの」
「私だって死にたくないわ!でも預言が…」
「…預言は道標にすぎない」
アキは呟くように言った。
「そうだ…まだ終わってない。終わってないんだ!バルドルが死んだから絶対に神々の黄昏が起こるとは限らない。まだ止められるかもしれない」
「その方法は僕らが死ぬことなんじゃないかい?」
「ヘルが約束を守る保証はない。それに生き返ってから、また殺されるかもしれない」
「それは詭弁では?可能性の問題でしょう?」
「全てに可能性がある!俺はお前達みんなを殺されたくない!他の方法を探すんだ!」
アキは頭を抱え込んだ。考えるんだ。何かあるはず。神話の中で鍵となるものが…
「『恐ろしい冬』で、恐怖から人々はお互いを殺しあう。太陽は隠れ、月は消える。星々は地に堕ちる。フェンリルは解き放たれ、ヨルムンガンドは海と共に進む。巨人と神々の軍がヴィーグリーズの野で激突し、最後は炎の巨人スルトが世界を焼き尽くす」
アキは神々の黄昏の一節を口走っていた。これを止めなければならない。
「…それが預言でしたら、一つずつ止めるのはどうでしょうか?」
「なんだって?」
「まず、人はお互いに殺しあう、という一文ですが、現に王国と帝国が人間の国を巻き込んだ戦争を始めようとしています。これを止めるのです。
次に、フェンリルとヨルムンガンド、彼らが暴れまわる前に何とかして討伐できないでしょうか。
また、ヴィーグリーズの決戦ですが、巨人と神々、双方が軍を引けば戦いは起きません。炎の巨人スルトも終末の炎を出す前に倒すことができれば…」
アキは詩人の言葉をよく考えた。確かに、この中の一つでも達成できたのなら神話が書き換わる。かなり難しいことはわかるが神々の黄昏の結果が変わることになるかもしれない。
「…可能性はある」
「これを神々からの襲撃から身を守りながらやればいいわけか、まぁ、何とかなるかもね」
「アルト、本気で言ってるの?無茶苦茶よ、神々や神の眷属達が襲いかかってくるわ。こっちは数人しかいない、戦力が足りないわ」
「ソプラノ、僕もそのことは考えていたよ。運のいいことに、この街にはかなりの戦力を持つ裏組織がある」
「『原初の火』か…」
まるでパズルが一つずつ組み合っていくようだった。




