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意外と知らない北欧神話   作者: アイスの棒
光の神バルドルの暗殺
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55話 光の神


「めんどくさいな」

「きっと楽しいですよ。フリストさんも色んな神達が参加するから羨ましいって言ってましたよ」


あの仏頂面のフリストが羨ましい?どう考えてもお世辞だ。きっとバルドルも来る。例の遊びも始まるはずだ。アキは目を光らせることを決意していた。


「あ、ゲイレルルさん!」

「アキ様にスノリ様、お二人もトール様の宴会ですか?」

「そうです、ゲイレルルさんも?」

「はい、戦乙女ヴァルキュリアの代表として参加させていただきます。大変光栄なことです」


戦乙女ヴァルキュリアは静かに言った。こいつらは表情筋が乏しいのだろうか。光栄だと思うならもう少し嬉しそうにしたらどうなのか。


トールの邸宅には多くの神々が集まっていた。知っている顔も少しだけある。オーディンはテーブルでぶどう酒を煽り続けている。同じ卓についているトールも、招待客に挨拶する気などなく、目の前の杯を空にすることにしか興味がないようだ。アキは一応声をかけるために近寄った。


「トール様、お招きありがとうございます」

「おぉ、小僧に小娘!よく来たな!今日は好きなだけ飲んで騒げ!」

「アキ、スノリから目を離すなよ。殺すぞ」


隣の老人から物騒な言葉も聞こえる。二人は一礼してその場を離れた。


「アキ、スノリ、来たばかりかい?」

「はい、フレイルさん、フレイヤさん」

「あっちに美味しいローストチキンがあったわよ。良かったら食べてみてね」


双子の神も参加していた。肩を組みあい、楽しそうに笑っている。美男子に美女、お似合いのカップルだが、酔っ払うには早すぎないか?まだ陽も落ちていないというのに。


「あの二人は驚くほど酒に弱いんだよ」


双子がフラフラと去った後、どこからともなくロキが現れて言った。


「お前は呼ばれてるのか?」

「もちろん呼ばれてないとも、僕とトールの仲だからね。フリーパスみたいなものさ」


ロキが悪戯っぽく舌を出してみせた。アキは突っ込んでも無駄だと思い、何も言わなかった。


「見てみなよ、バルドルも来てる」


指差した方向には多くの神々に囲まれた青年がいた。ひょろりとした体つきに穏和な表情、誰からも愛される光の神がそこにいた。


「おい!バルドル!」


光の神はロキの乱暴な呼び声にも笑顔で答えてこちらに歩いて来た。


「やぁ、ロキじゃないか。僕に声をかけてくれるなんて珍しいね。君は…ロキの眷属のアキ君だね?それにスノリ君じゃないか。君らの噂は聞いてるよ」

「どうもはじめまして」


とても感じの良い青年だった。声は清らかで、澄み渡るような響きだ。


「ねぇバルドル、君は傷一つつかない体になったんだろう?すごいじゃないか。こんな風にしても痛くないんだろう?」


いきなりロキは手に持ったフォークをバルドルに突き立てた。


「おいロキ!」

「あぁ気にしなくて大丈夫だよ。本当に傷付かないからね」

「ほらね?」


この悪戯の神は全く正反対だ。自分の契約神が光の神だったらどうなっていただろう。少なくともこんな気分にはならなかったはずだ。


「そういえばリサの最後を見たのも君らだったね?」

「…はい」

「いや、責めているわけじゃないんだ。ただ、僕にとっても大切な子だったからね」

「残念です」

「…あぁ。君らはリサと親しかったんだろう?辛かっただろうね。ありがとう」


本当に、ロキとは大違いだ。

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