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意外と知らない北欧神話   作者: アイスの棒
光の神バルドルの暗殺
55/89

53話 魔法の紐

55部


神の国(アースガルド)に来て何日かの時が過ぎた。輝く街は全てが快適であり、幸福の全てがあった。しかし今、アキがいるのはそこから遠く離れた場所、荒野である。

周りには多くの神々の姿がある。主神オーディン、双生の神フレイルとフレイヤ、豪傑の神チュールとその他大勢だ。彼らはフェンリルを捕らえるために集まっている。預言を受けて、オーディンが計画したのだ。


「本当にここに来るのか?チュールよ」

「ええ、ここで私は毎週食事を与える契約ですので」


チュールが答えると同時に、地鳴りが響く、大地が震えている。目の前に突如として現れた巨大な塊は、『天呑む狼』フェンリルだった。


「おや、チュールよ。今日は賑やかなようだな。主神殿に鏡合わせまで、そしてそこの人間は、我が眷属の兄弟ではないか!」


狼は空気を震わせながら笑った。アキは前回殺されかけているので全く笑えなかった。


「フェンリル!この方々は新しい鎖の耐久力を試しに来たんだ。お前なら難なく引きちぎれるとは思うが、試して見てくれないか?

もちろん、嫌とは言いまい、お前はこんなことで逃げる腰抜けじゃないからな」


チュールの言葉に、フェンリルは笑いをやめた。ギラギラとした目で神々を睨みつけている。


「もちろん、腰抜けではないが。これだけ神々がいるのだ。鎖で縛ってそのままということもありうるだろう。わしはそんなことごめんだね」

「お前の力を我々はよく知っている。参考にしようというのだ。もし自信がないのなら、やめてくれてもいいだろう。だが、挑戦して鎖を引きちぎれなければ解いてやると約束するさ」


狼は考え込んでいるようだった。もし断れば、ここの神々と一戦交えることになるだろう。逃げられたとしてもただではすまない。そして憎々しげに言った。


「いいだろう、提案に乗ってやる。しかし条件がある。わしの口の中に一人腕を入れてもらう。妙な動きをすれば、腕を無くすことになるぞ」


神々は顔を見合わせた。フェンリルの顎の力は本物だ。今からすることは間違いなく、一人の腕と引き換えになる。


「私がやろう」


チュールが名乗りを上げた。そのまま腕を狼の口の中突っ込む。


「ふん!まぁいい、腕を引き抜こうとしても噛み砕くからな」


フェンリルは口に手を入れられながらモゴモゴと言った。

神々は岩に狼を縛り付ける。使うのは魔法の紐(グレイプニール)だ。頑丈な鉄の鎖では捕らえられぬことがわかった神々は、ドワーフに特別な戒めを作らせた。猫の足音、女の顎髭、魚の吐息、鳥の唾液、山の根本を使って作り出された魔法の紐(グレイプニール)は狼を完全に締め上げた。

フェンリルがいくらもがいても紐は解けることはなく、遂に諦めることとなった。


「悔しいが、この紐は引きちぎれない。約束だ、解いてくれ」


狼は言ったが、神々は誰も動こうとしなかった。チュールもまた、腕を引き抜こうともしなかった。

こと(・・)を察したフェンリルは咆哮し、その恐ろしい顎を閉じた。骨が砕ける嫌な音がして、鮮血が飛び散った。


「チュール!」

「大丈夫だ」


チュールは腕を失くした。表情は歪んでいたが、残っている腕を上げて答えた。


「お前ら!殺してやる!いつか噛み砕いてやる!わしが解放された時、それはお前らの最後の日になる!」


狼の呪いの叫び声は荒野に響き渡った。

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