52話 預言者
54部
アキ達はトールの邸宅を出て、オーディンの館に向かっていた。トールは酒宴をやるから残れと強く要求していたが、双子の神が間に入って何とか帰してもらったのだ。しかし、必ず次の宴会には参加するよう約束させられた。
「フリストさんはいつもは何してるんですか?」
スノリが移動中に遠慮がちに聞いた。戦乙女は話しかけられたことに一瞬戸惑うようなそぶりを見せたが、無表情のまま答えた。
「我々はオーディン様の警護を持ち回りで行なっています。それ以外の時は『死せる英雄達の軍』と軍事演習を毎日行なっています」
「軍事演習ですか…それは大変そうですね」
「いえ、来るべき戦いのために備えているのです。名誉あることです」
一行はオーディンの館につき、客間に通された。隣の寝室と合わせて自由に使うようにフリストは言って、どこかへ行ってしまった。案内はここで終わりのようだ。
二人が寛いでいると、扉が開き館の主人が入って来た。手には食事の乗った盆を持っている。
「スノリよ、夕食だ。アキ、お前はついてこい」
アキはオーディンについていくと、館を出て一台の馬車に乗り込んだ。引くのは八本脚の馬だ。馬車はゆっくりと走り出した。
「どちらへ向かわれるんですか?」
「うむ、アキよ、今世界に危機が迫っておることは知っているか?」
「いえ…何となく感じてはいますが」
「未来視の能力を持つもの達が皆、終末の時を預言しておる。確かに、人間の国は不安定であり、『聖なる柵』も破られた。魔物達も動きが活発になってきておる。
そこで今から、名高く信頼できる預言者に会いにいく」
「それは誰?」
「巨人ミーミルだ」
ミーミル、叡智に溢れる首だけの巨人。その昔、オーディンが首を切り落とした後、魔法をかけて生き返らせた。オーディンはなにか相談事があれば真っ先に彼の元へ向かったと言われている。
気づけば馬車は森の中に入り込んでいた。深く、神秘的な森だ。馬車は泉の前でピタリと止まった。
「--オーディン、来ることはわかっていたぞ」
「久しぶりだな、ミーミル」
泉の真ん中に巨大な頭が横たわっている。恐ろしい顔つきの巨人の頭だ。アキは身震いをした。
「--何も言わずともよい。黄昏の時が迫っておる。世界から光が失われ、剣の冬が訪れる。巨人と神が最後の戦いを起こす。太陽や月は消え去り、オーディン、貴様は狼に呑まれて死ぬ」
「預言は絶対ではない」
「--さよう、預言は道標に過ぎない。運命は揺蕩うもの。だからこそ人は預言を求める。神もまた、同じだ」
巨人は低い声で言った。オーディンは固い表情だ。そして踵を返して言った。
「ありがとうミーミル。アキ、戻るぞ」
「--その子は…?ほう、理の外の人間か、あるいは彼なら、この世界の運命を変えるかもしれぬ…」
ミーミルの言葉にオーディンは振り返らなかった。




