49話 馬車
アキはスノリと作戦室を出た。広場へ向かう途中に少女が戦いの後のことを話してくれた。
ロキの乱入で戦闘は終わった。ソプラノと『虚弱な軍師』の交渉により、『原初の火』はバル自治区において太陽の兵舎との協定を結んだ。『原初の火』の行動を黙認することと引き換えに、奴隷の解放、兵舎の支部の設立を取り決めたのだ。
アキにとってはもはやどうでもいいことだった。兵舎と裏組織がどうなろうと関係がない。
「やぁ、やっときたね。待ってたよ、僕の眷属」
広間にはロキ一人だけが待っていた。他には誰もいない。『月明かり』の遺体も運び出されたようだ。
「神の国へ連れて行ってもらう」
「もちろん、それがご褒美だからね」
「私も行きます」
ロキは微笑み頷いた。指を鳴らすと、どこからともなく馬車が現れた。引くのは巨大な軍馬だ。脚が八本もある。
「さぁ、出発しよう。オーディンから八本脚の馬を盗んで…借りてきたからね!すぐに着くよ」
三人は馬車に乗り込んだ。扉が閉まると、軍馬は嗎をあげて走り出した。時折衝撃音が聞こえる。部屋の壁を粉砕しているんだろう。
「フ〜ン、フ〜〜ンフフ〜ン♬」
目の前にロキがいるのは妙な気分だった。夢で何度も会っているが、現実で会うのはこの世界に来た時以来だ。彼はなんとも思っていないようだ、呑気に鼻歌を歌っている。
「ロキ、クロボを返す。よく働いてくれたよ」
「んー?別に持っててもいいけど、まぁ返してもらっとくね」
「ロキ様…何気にひどいです」
長い間付き添ってもらった黒いボールをロキに手渡した。使命を終えたら返してやる約束だ。
「今までありがとう」
「いえ…私も楽しかったです。約束を覚えていてくれたんですね」
思えばずっと一緒だった。アキの旅はクロボの旅でもあった。様々のことを教えてもらい、助けてもらった。アキにとってクロボは案内役であり、教師であり、また大切な友人だった。少し寂しかったが、クロボはロキといたほうがいい気がした。
「おかえり」
「ええ、戻りましたよロキ様」
クロボは本来の持ち主の腰に収まった。違和感なく、あるべき場所へ。
「ロキ、一つ聞きたいことがある」
「なに?なんでも答えちゃうよ」
「バル自治区のことだ。『不平等な民衆』と街を作ったのは本当か?」
「…へぇー、古い話を知ってるんだね。そうだよ、あの場所は僕が作った。あの時代の報われぬ人々と共にね」
「それは何故だ?」
アキは言葉に力を込めて言った。なんだか、重要なことであると感じた。
「別にただの気まぐれだよ」
「そうかよ」
ロキはクスリと笑って言った。はぐらかしているように見える。だが、追求するのは無理そうだ。
「見てごらん、『聖なる柵』だ。あれを越えたらすぐに『虹の橋』だよ」
ロキが窓の外を見てはしゃいで言った。
大いなる橋の先に神の国はある。人の及ばぬ世界でどんな出来事が起こるのか、アキは外を見ながらぼんやりと考えていた。




