44話 拷問の果て
「どうなった…?」
意識が戻った時には人攫いの屋敷のベッドで横たわっていた。隣を見ると小さな影、双子の片割れのアルトが眠っている。スノリが目を覚ましたのを見て、泣き声をあげてで抱きついてきた。体が痛かった。
様子を見て、ソプラノがこちらに歩いて来た。ギュルヴィやリサも一緒だ。
「なにが…どうなったんだ?アルトはどうした?」
「作戦は失敗に終わったわ。あそこで『二つ名殺し』が出てくるのは誤算ね」
ソプラノが硬い表情をして言った。アキが困惑の表情を浮かべるのを見て、詩人が説明した。
「教会の裏組織、『処刑者』です。敵対する者の抹殺を任務としている組織の中での一番の実力者ですよ。『二つ名殺し』『死に至る薬物の異名を持つ毒使い、それを押さえ込んだのでアルトさんは重症です」
「死なないわ、『月明かり』が光の浄化をしてくれたから。だけど、当分は動けないわね」
皆が沈痛な表情をしていた。『二対の雫』が遅れをとった相手だ。相当な強者だろう。
「『二つ名殺し』は『原初の火』なのか?」
「屋敷の主人を助けたところを見ると、協力関係にあるのは間違いなさそうね。もう一つの問題は、『処刑者』として『月明かり』を狙っている可能性があるということよ」
「リサが?教会の機密か…」
「ええ、今は【奴隷達の避難所】を発動させてあるから、48時間は安全。この間に対策立てなくちゃいけないわ。まずはジロウから情報を引き出す」
ソプラノが冷たい声で言った。部屋の温度が数度下がったような感覚を全員が感じていた。
「俺も行く」
「アキさんは無理をしない方が…」
「いいわ、ついて来て」
スノリが懇願するように止めたが、アキはベッドから起き上がった。身体中が痛んだが、気にしている状況ではない。ソプラノについて監禁部屋へ向かう。
「彼はかなり衰弱してる。だけど時間がない、正攻法ではなく彼をはめるわ。話を合わせてちょうだい」
扉を開くと、むせ返るのような異臭がする。血と糞便の匂いだ。アキは吐きそうになるのをこらえた。
「起きなさい」
ジロウはピクリとも動かない。息は荒く、死にかけている者のようだ。
「枷を外して」
アキはゆっくりと近寄り、鎖に触れた。錠から解放され男が崩れ落ちる。立つこともできないようだ。
「連れて来て」
肩を貸して無理やり立たせ、ソプラノの後を追う。体重が全てアキの体にかかり痛みが増す。着いたのは小部屋だった。机に食事が用意されている。男を空いている椅子に座らせた。
ジロウは食事をみて、それからソプラノをみた。状況が理解できてないようだ。力無い目で拷問者を睨んでいる。
「食べて、毒は入ってないわ。ほら」
ソプラノが一口食べてみせた。男は少し迷った後、食事に手を伸ばした。少しずつ確実に口に入れている。
「貴方は情報を吐いたわ。アンデンテの屋敷が『原初の火』のアジトね?そこで『二つ名殺し』も見た。貴方の情報通りよ。ありがとう」
「俺は…そんな…」
「覚えてないのね、睡眠不足で記憶が混乱しているのよ。仕方ないわ」
ジロウは愕然とした表情をしている。しかしどこかでホッとしている様子もある。これ以上拷問されないことでの安心なのだろう。彼女の責めの恐ろしさにアキは身震いがした。
嵌めるとはこういうことなのだ。ジロウは情報をまだ吐いてないが、このまま裏切ったことにして、さらに吐かせる気だ。
「そうか…そうかも知らないな…」
「『原初の火』の他のメンバーの特徴と能力を教えて頂戴。後、『二つ名殺し』はどこまで貴方達と関わっているの?」
ジロウはゆっくりと水を飲んだ。そして口を開く。
「奴は最初から俺たちの側だ。スパイって奴さ。ずっと情報を流していた…。この街にいる『原初の火』の幹部は俺を含めて四人。紫の髪、ヘルの眷属の女『墓地起こし』アイリーン、剣の腕が立つ。
長身に黒の眼鏡をかけた男、巨人スリュムの眷属『虚弱な軍師』セブ、頭の切れる奴だ。
そして『真の英雄』ジークフリート」
「ジークフリート!?まさか…!それは本当なの?」
不死身の男ジークフリート、北欧神話でも有名な英雄だ。竜を殺し、その竜血を浴びたことでいかなる武器も彼を傷つけることのできない体を持った男。
ソプラノが動揺するのをアキは初めて見た。
「奴はこっちについた。俺たちも最初は信じられなかったが、今では最高幹部の一人だ。お前ら双子は確かに強いよ。けどな、あの男には勝てない」
ジロウは力なく微笑んでみせた。




